上 下
69 / 497
第三話 誇りとプライドを胸に

紫の炎

しおりを挟む

~☆~☆~☆~☆~☆~

「……ガラガラマムシがやられた、ですって?」
 どこか暗い森の中、ある人物が黒フードの男から報告を受けていた。周囲は昼間なのに薄暗く、大きな篝火を焚いている。それを無数の人影が囲んでいた。
 ……そう、あの夜カープー森林にいた、シスター服の女だ。冒険者パーティ・ホムーランの一同を消したのち、すぐさまアジトを移したのだろう。彼女らがいる森林はスラガン地方ではない別の場所だ。
「……はい、どうやら旅の冒険者により斃されたようです」
「……本当にバッファローを襲わせたの? あの町はタイガスから近いのを良いことに、冒険者ギルドは弱小で、駐屯騎士の派遣も最低レベル。田舎町を踏み潰し、我らの存在を国中に知らしめようとしたのに……」
 ギリギリと歯を食いしばる、シスター服の女。顔はよく見えないが、悔しさだけでなく焦りの感情もあるようだ。
「が……ガラガラマムシの魔法はまだ溶けてないのですね?」
「はい」
「そう……なら良かったです」
 女はホッとしたように息を吐いた。反面黒フードの男は相変わらず何も言わない。何も考えていない……というより、まるで何かに操られているかの如く、力無くだらりと立っている。
「信者たちは全員こちらに移りましたか?」
「いえ……三名が逃げ遅れ、森を騎士隊に包囲されました」
「それで、どうしたのです?」
「……ご安心ください。三人とも勇敢に刃物を取り出し、迷いなく自らの喉を突き殉職致しました。望遠鏡で観察していた私から見ても、主人様のしもべとして恥じない素晴らしい最期でした」
「そう……残念ですが、彼らは立派に主人様の秘密を守ったのですね。命尽きれば体の『紋章』は消えてしまうでしょう。……いずれ彼らを讃える場を作りましょう。ですが今ではありません」
 仲間が自害したというのに『素晴らしい』だの『立派』だの、明らかに論理感が欠如している。いくら文化の異なる異世界でも、それを美化するのはおかしかった。
「……すぐにその冒険者について調べなさい。何、ガラガラマムシを斃せるほど強い者ならすぐ尻尾を掴めるでしょう。さあ、行ってください。主人様のご加護がありますよう……」
「はっ。我らが主人様のご加護を!」
 そう言って男は、数人の仲間と共に森の奥へ姿を消した。女は深呼吸して、荒れる感情を沈める。
「……ただでは済まさないわ。どこの誰だか突き止めて、我らの邪魔をすればどうなるか思い知らせてやる。覚えていなさい……! このスラガン地方を第一歩として、我が主人様は世界中に羽ばたくのです!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ちょっとエッチな執事の体調管理

mm
ファンタジー
私は小川優。大学生になり上京して来て1ヶ月。今はバイトをしながら一人暮らしをしている。 住んでいるのはそこらへんのマンション。 変わりばえない生活に飽き飽きしている今日この頃である。 「はぁ…疲れた」 連勤のバイトを終え、独り言を呟きながらいつものようにマンションへ向かった。 (エレベーターのあるマンションに引っ越したい) そう思いながらやっとの思いで階段を上りきり、自分の部屋の方へ目を向けると、そこには見知らぬ男がいた。 「優様、おかえりなさいませ。本日付けで雇われた、優様の執事でございます。」 「はい?どちら様で…?」 「私、優様の執事の佐川と申します。この度はお嬢様体験プランご当選おめでとうございます」 (あぁ…!) 今の今まで忘れていたが、2ヶ月ほど前に「お嬢様体験プラン」というのに応募していた。それは無料で自分だけの執事がつき、身の回りの世話をしてくれるという画期的なプランだった。執事を雇用する会社はまだ新米の執事に実際にお嬢様をつけ、3ヶ月無料でご奉仕しながら執事業を学ばせるのが目的のようだった。 「え、私当たったの?この私が?」 「さようでございます。本日から3ヶ月間よろしくお願い致します。」 尿・便表現あり アダルトな表現あり

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...