68 / 497
第三話 誇りとプライドを胸に
たった一つ
しおりを挟む
「こ、これ……」
ナガレはステータス表を見て、突然固まった。彼だけでなく、全員が一瞬言葉を失う。
そこにあったのは、『所持スキル 闘魂(小)』の文字……。まごうことなき、ナガレが手に入れたスキルだった。
「や……やった……やったじゃねえか~っ!」
「すっごい! すっごいわ、ナガレ君~っ!」
真っ先に叫んだのはタネツとヒズマだった。喜びのままナガレに抱きつこうとした……が、その動きが止まる。レンとアルクルもドロシーも、ナガレを見て「おや?」と首を傾げた。
「オレの……スキル……。これがオレの……手に入れた……スキルなんだ……」
メモ用紙を手に取り、じっと眺めるナガレ。……その目からポロポロと涙が溢れ出ていた。
「……へっ」
ニヤリと笑って腕を組むタネツ。その横のヒズマも「ふふっ」と笑って上げていた手を下ろした。
「スキル……やった……やった……!」
うわごとの様に呟くナガレ。次第に流れる涙が増えて、顔が赤くなる。鼻水までズーズー啜り出した。レンとアルクルもニコニコ笑ってナガレを見つめている。ただ一人状況を知らないドロシーのみが「ど、どーしたんですかー⁉︎」と慌てていた。
「ドロジー……ご、ごれ、うぞじゃないよな……! ボンドに、ごれ、オレのだよな……⁉︎」
鼻が詰まって聞き取りにくい、ナガレの声。ドロシーはあたふたしながらもう一度紙と水晶玉を見比べた。
「えーと……は、はい! なーんにも間違ってませんー! ホントにスキルが身についてますー! こ、こんなの数十年ぶりに見ましたよー……! スキルを持たない人が、自力で身につけるなんてー!」
するとレンはニコニコしながら、ナガレの手を握った。「ふぎ……なんでずが?」半泣きで顔を上げるナガレ。
「ナガレ君。君が手に入れた『闘魂』というスキルは、追い詰められた状況でパワーアップするスキルじゃ。この前言ったように、スキルは本人の状況に左右される。生きたいなら『回復力』スキル、助けたいなら『バックアップ』スキル……覚えておるじゃろう?」
「……わ、わがっでまず……」
「……そうか、そういう事か!」
タネツはパチンと指を鳴らす。そしてナガレの肩にゆっくり手を回した。
「そりゃあ闘魂のスキルがつくわけだぜ。……ほらよく考えてみろよナガレ君。お前さんは何度ボロボロになっても、立ち上がったじゃねえか。何度倒れても何度傷ついても、諦めずにな」
「……!」
ナガレの脳裏に、夕陽の中で特訓した記憶が蘇る。ある時は体に重い袋を巻きつけ、ある時はアリッサに棒きれでしばかれ、またある時はタネツとヒズマにフルボッコにされて……。痛かったし辛かったし苦しかった。だが、それでもナガレは何度だって立ち上がった。傷だらけアザだらけになった彼の体こそ、何よりの証拠だ。
「ガラガラマムシに何度吹っ飛ばされても諦めるこたぁ無かったな。その尽きることのないナガレ君の不屈の心の現れが、そのスキル『闘魂』ってわけだぜ。言うならば、努力の結晶だな!」
「努力の……結晶……っ! う、ううっ……うあああああ……っ!」
ナガレはついに感極まって、床に突っ伏して大泣きし始めた。みんなその様子を優しく見守っている。
(初めて見ました……。たった一つ、こんな最小レベルのスキルで、涙を流す人もいるんですねー……)
ドロシーは、一際複雑な思いでナガレを見ていた。闘魂スキルのレベルは、たったの(小)。もっと上の(中)(大)ほどでなければ、劇的なパワーアップは望めない。
(スキルなんてホイホイつくようなものじゃないのに。彼、相当悔しかったんですねー……)
そんな中、ようやくナガレが落ち着いてきたようだ。まだ半泣きでも、腕でぐいっと涙を拭い、潤んだ目でニッと笑う。そしてニコニコしている一同を見回した。
「ギルドマスター、アルクル、タネツさん、ヒズマさん……ありがとう……本当にありがとうございますっ!」
そしてガバッと頭を下げる。
「オレ……みなさんのおかげで、ここまで頑張ってこれたんです! たっくさん支えて助けてくれて、もうなんて言ったらいいか……!」
「よさぬかナガレ君……!」
レンが片手を上げてナガレを制した。
「私たちの助言など、ナガレ君本人の努力に比べれば意味無しも同然。このスキルは君の力で、君自身の力で勝ち取ったもの。だからもっと胸をはるのじゃ!」
「は、はいっ……!」
ナガレはメモ用紙をもう一度見る。初めて手に入れたスキル『闘魂(小)』……。たった一つ、それもまだ(小)レベル。しかしこのちっぽけなスキルは、何もない状態から、彼自身の努力で勝ち取った特別なスキルだ。
「ぐはは、じゃあ次はそのスキルのレベルを上げねえとな! 目指すは闘魂(大)だ! わははははっ!」
「もうタネツ、気が早いわよ~! 今日はお祝いよ! みんなで食堂でも行きましょ~! 高いケーキも奢ってあげちゃうわ~!」
「良いね良いねえ! ほらマスターもぜひ! アルクルと魔族のお嬢ちゃんもどうだい⁉︎」
「おうとも、行きます行きます! 良いっすよね、マスター……」
「仕方ないやつじゃのう。ま、私もたまには行くとするかの。アルクル! 行っても良いが、酒はいかんぞ」
「がーん……」
「ほら、ドロシーちゃんだっけ~? 細かいことはいいから、行きましょ~!」
「へ? は、はあ……じゃあ、お供しますー!」
もみくちゃにされながら外に飛び出した。外には雲ひとつない青空が広がっている。荒野を吹き抜ける風が、まるで門出を祝うようにナガレの頬を撫でた。
たった一つのスキル『闘魂』。ここから冒険者としてのナガレ・ウエストは始まったのだ。
ナガレはステータス表を見て、突然固まった。彼だけでなく、全員が一瞬言葉を失う。
そこにあったのは、『所持スキル 闘魂(小)』の文字……。まごうことなき、ナガレが手に入れたスキルだった。
「や……やった……やったじゃねえか~っ!」
「すっごい! すっごいわ、ナガレ君~っ!」
真っ先に叫んだのはタネツとヒズマだった。喜びのままナガレに抱きつこうとした……が、その動きが止まる。レンとアルクルもドロシーも、ナガレを見て「おや?」と首を傾げた。
「オレの……スキル……。これがオレの……手に入れた……スキルなんだ……」
メモ用紙を手に取り、じっと眺めるナガレ。……その目からポロポロと涙が溢れ出ていた。
「……へっ」
ニヤリと笑って腕を組むタネツ。その横のヒズマも「ふふっ」と笑って上げていた手を下ろした。
「スキル……やった……やった……!」
うわごとの様に呟くナガレ。次第に流れる涙が増えて、顔が赤くなる。鼻水までズーズー啜り出した。レンとアルクルもニコニコ笑ってナガレを見つめている。ただ一人状況を知らないドロシーのみが「ど、どーしたんですかー⁉︎」と慌てていた。
「ドロジー……ご、ごれ、うぞじゃないよな……! ボンドに、ごれ、オレのだよな……⁉︎」
鼻が詰まって聞き取りにくい、ナガレの声。ドロシーはあたふたしながらもう一度紙と水晶玉を見比べた。
「えーと……は、はい! なーんにも間違ってませんー! ホントにスキルが身についてますー! こ、こんなの数十年ぶりに見ましたよー……! スキルを持たない人が、自力で身につけるなんてー!」
するとレンはニコニコしながら、ナガレの手を握った。「ふぎ……なんでずが?」半泣きで顔を上げるナガレ。
「ナガレ君。君が手に入れた『闘魂』というスキルは、追い詰められた状況でパワーアップするスキルじゃ。この前言ったように、スキルは本人の状況に左右される。生きたいなら『回復力』スキル、助けたいなら『バックアップ』スキル……覚えておるじゃろう?」
「……わ、わがっでまず……」
「……そうか、そういう事か!」
タネツはパチンと指を鳴らす。そしてナガレの肩にゆっくり手を回した。
「そりゃあ闘魂のスキルがつくわけだぜ。……ほらよく考えてみろよナガレ君。お前さんは何度ボロボロになっても、立ち上がったじゃねえか。何度倒れても何度傷ついても、諦めずにな」
「……!」
ナガレの脳裏に、夕陽の中で特訓した記憶が蘇る。ある時は体に重い袋を巻きつけ、ある時はアリッサに棒きれでしばかれ、またある時はタネツとヒズマにフルボッコにされて……。痛かったし辛かったし苦しかった。だが、それでもナガレは何度だって立ち上がった。傷だらけアザだらけになった彼の体こそ、何よりの証拠だ。
「ガラガラマムシに何度吹っ飛ばされても諦めるこたぁ無かったな。その尽きることのないナガレ君の不屈の心の現れが、そのスキル『闘魂』ってわけだぜ。言うならば、努力の結晶だな!」
「努力の……結晶……っ! う、ううっ……うあああああ……っ!」
ナガレはついに感極まって、床に突っ伏して大泣きし始めた。みんなその様子を優しく見守っている。
(初めて見ました……。たった一つ、こんな最小レベルのスキルで、涙を流す人もいるんですねー……)
ドロシーは、一際複雑な思いでナガレを見ていた。闘魂スキルのレベルは、たったの(小)。もっと上の(中)(大)ほどでなければ、劇的なパワーアップは望めない。
(スキルなんてホイホイつくようなものじゃないのに。彼、相当悔しかったんですねー……)
そんな中、ようやくナガレが落ち着いてきたようだ。まだ半泣きでも、腕でぐいっと涙を拭い、潤んだ目でニッと笑う。そしてニコニコしている一同を見回した。
「ギルドマスター、アルクル、タネツさん、ヒズマさん……ありがとう……本当にありがとうございますっ!」
そしてガバッと頭を下げる。
「オレ……みなさんのおかげで、ここまで頑張ってこれたんです! たっくさん支えて助けてくれて、もうなんて言ったらいいか……!」
「よさぬかナガレ君……!」
レンが片手を上げてナガレを制した。
「私たちの助言など、ナガレ君本人の努力に比べれば意味無しも同然。このスキルは君の力で、君自身の力で勝ち取ったもの。だからもっと胸をはるのじゃ!」
「は、はいっ……!」
ナガレはメモ用紙をもう一度見る。初めて手に入れたスキル『闘魂(小)』……。たった一つ、それもまだ(小)レベル。しかしこのちっぽけなスキルは、何もない状態から、彼自身の努力で勝ち取った特別なスキルだ。
「ぐはは、じゃあ次はそのスキルのレベルを上げねえとな! 目指すは闘魂(大)だ! わははははっ!」
「もうタネツ、気が早いわよ~! 今日はお祝いよ! みんなで食堂でも行きましょ~! 高いケーキも奢ってあげちゃうわ~!」
「良いね良いねえ! ほらマスターもぜひ! アルクルと魔族のお嬢ちゃんもどうだい⁉︎」
「おうとも、行きます行きます! 良いっすよね、マスター……」
「仕方ないやつじゃのう。ま、私もたまには行くとするかの。アルクル! 行っても良いが、酒はいかんぞ」
「がーん……」
「ほら、ドロシーちゃんだっけ~? 細かいことはいいから、行きましょ~!」
「へ? は、はあ……じゃあ、お供しますー!」
もみくちゃにされながら外に飛び出した。外には雲ひとつない青空が広がっている。荒野を吹き抜ける風が、まるで門出を祝うようにナガレの頬を撫でた。
たった一つのスキル『闘魂』。ここから冒険者としてのナガレ・ウエストは始まったのだ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる