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第三話 誇りとプライドを胸に

決意を胸に

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~☆~☆~☆~☆~☆~

 タネツとヒズマが倒されてしまった瞬間も、アリッサたちがいる崖上からよく見えた。
「タネツさん! ヒズマさんっ!」
「う、嘘だろっ……⁉︎」
 素人のアリッサが遠くから見ても、悲惨な状況だという事は分かる。腰が抜けてしまった姉弟を、側にいたマディソンが慌てて持ち上げる。
「し、しっかりしなさい、ミスター!」
「何してんだよナガレ……さっさと逃げろってのに……ああクソ、早く逃げろよっ!」
 アルクルは焦りと不安で動揺しまくっており、イライラしたように吐き捨てた。強がっていても体中汗でビシャビシャなのを見れば、彼が最もナガレの身を案じているのかよく分かる。
「マスター! どうにかしてアイツ連れて来られないんすか⁉︎」
「よせアルクル、そんな声を出すでない! ナガレ君を見てみよ、まだ立ち上がるつもりじゃ……。私だってあの決意を覆すほどの言葉を、今考えてる所なんじゃ!」
 レンもいつものように「ふえぇ~」と泣いたりはしなかった。額に汗を浮かべた深刻な表情で、立ち上がったナガレを見ている。
「ナガレ君……」


「ギシャーッ!」
 ガラガラマムシが頭を振り下ろそうとする。何度も打ち出してきた攻撃だが、ナガレはなんとかガードできた。
 キィン!
(ぐっ……! あんなパワーじゃ、防ぐのが精一杯だ。オレの力じゃダメだ……!)
 ……と、ここでナガレの脳裏に特訓の記憶が蘇る。
(……そ、そうだ、受け流し! あれな、ダメージをかなり軽減できるんじゃ⁉︎)
 そうは言ったが、あれは練習でも五分五分だった技だ。ましてや練習相手だったタネツ以上の力を持つガラガラマムシ相手では……。しかしナガレは首を振ってその不安を消した。
(できるかじゃない、やるしかないんだ! オレは絶対に諦めない……諦めてたまるかっ!)
 ギシャーッ! 
 防御に専念しているため、反撃に移れない。ガラガラマムシはまたアクロバティックに跳躍して、尻尾を叩きつける!
「くっ! これならどうだ……うわぁっ!」
 ダァンッ!
 受け止める瞬間マルチスタッフを傾け、レールのように受け流そうとする。しかし直撃の時点で凄まじいパワーだ! ただの防御にしかならず、ナガレは衝撃に押され、地面を滑りながら後ずさるしかできなかった。
 ズザザザザ……。
「く……!」
 ダメージを抑えながらも、じわじわと体力を削って来る。防戦一方ではただ耐え続けることしかできない。
(くそぉっ、これで全力だってのに、ほんの一瞬も受け止められない! 受け流しさえ出来れば、反撃技で立ち回れるかもしれないのに……!)
「ギシャッ! ギシャーッ!」
 ビュンッ!
 ガラガラマムシはまたも体をしならせ、鞭のように薙ぎ払う!
「う、受け流し……ぐはぁっ!」
 マルチスタッフを前方に構えて受け流そうとしたが、勢いが強すぎて防御に失敗してしまう。防御どころか直撃してしまい、強烈な勢いでぶっ飛ばされた!
 ドォンッ!
「がっ……く、くそっ、まだだ!」
 それでもナガレは気合いで体勢を立て直し、再び防御の姿勢を取る。無理だろうがなんだろうが、ここで負けるわけにはいかないのだ。
「ギシャーッ! シャッ! シャアーッ!」
 バシッ! ドガッ!
「ぐうぅっ!」
 いよいよトドメを刺しにきたのか、ガラガラマムシが怒涛のラッシュ! 全身を武器にした連撃が迫り来る。ナガレは受け流しをしようとするも失敗、防戦一方だ!
 
「ギジャアァーーッ!」
 そしてガラガラマムシは頭を後ろに下げていく。そして体をしならせ、尻尾を矢の如き速さでナガレに向けて思い切り弾いた。細い尻尾の先に勢いを全て乗せた強烈な一撃がナガレに迫る!
 ビシュッ!
「くそっ!」
 マルチスタッフを構えるナガレ。
 ガキィン!

 一瞬の均衡の末……吹っ飛んだのはナガレだった。
「がはっ……⁉︎」
 腹部に激突して、その衝撃で頑丈なライトアーマーがひび割れた。それほどの一撃を喰らったナガレもただでは済まない。地面と並行にぶっ飛ばされ岩壁に叩きつけられた!
 ドガァン!
「ッ……!」
 弾丸のように壁へ激突、先ほどのガラガラマムシと全く同じように、大きなクレーターを作ってしまう。一瞬意識が飛ぶほどの凄まじい衝撃だ。そのままズルズルと地面にへたり込んでも、立ち上がれなかった。
(く……くそっ……。も、もう、ダメ、か……)

 力無く崩れ落ちるナガレ。それを見届けたガラガラマムシは、ようやくバッファローの町を向いた。
「ギギギ……ギシャアーッ!」
 ナガレが消えたというのに、なぜかますます怒り狂うガラガラマムシ。何が蛇をそこまで駆り立てるというのか、鼻から蒸気を吹き出し、バッファローの町を睨みつける。
「ギシャーッ!」
 イライラしたように、尻尾を岩壁に叩きつけた。それだけで頑丈な壁に大きなヒビが入る。
「ギシャーッ! ギシャアーーッ!」
 目に入ったのは、町の入り口である綺麗なゲートだ。ナガレも最初に通った町のシンボルの一つ目掛けて、ガラガラマムシは頭を振り上げる……!


「ま……待てーッ!」
 しかし背後からの声に驚き、その動きを止めた。

 振り向くと……そこにはナガレが立っている! ひび割れた鎧、ふらつく足、傷だらけの顔、血がこびりついたスカーフ……。そんなボロボロの状態でも、闘志と根性だけを原動力にして、マルチスタッフを構えていた。その目には未だギラギラとした光が宿っている!
「まだ……まだ終わってないっ!」
 彼の後ろには、動かなくなったヒズマとタネツの姿があった。彼のために全力で立ち向かい、そして倒されてしまった二人。……ナガレはまだ、その思いに応えることができていない。
(辛い、苦しい、逃げ出したい……。でも何度だって立ち上がってやる。オレは負けない、絶対に……絶対に勝つんだ! ジョーとの約束……そしてヒズマさんとの、約束なんだ!)
 正直、ナガレも今すぐ逃げたい。痛いし辛いし苦しいし怖いし、死にたくもない。 
 しかし、ジョーと、ヒズマと交わした約束が、ナガレの心を必死で支えてくれる。ナガレを信じて結んだ約束が逃げたい臆病心を押し留め、立ち上がる勇気をくれる。

 それがある限り、ナガレは何度だって立ち上がれるのだ。
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