上 下
54 / 508
第三話 誇りとプライドを胸に

登場・ガラガラマムシ!

しおりを挟む
「キシャーーーーッ!」
 大木のように太い体をくねらせながら、崖の下を歩くガラガラマムシ。遠目でも分かるほどの巨体だ。荒野の景色に溶け込む茶色のシマシマ模様だが、ホクス平原の緑景色では返って目立つ。鋭く尖った二本の大きなキバが、裂けた口から覗いていた。
「ギギギ……ジャーーッ!」
 よほど気が立っているようで、近くにあった大木に体当たりする。
 ガンッ……バキバキバキッ!
 ガラガラマムシの図体より大きな木が、たった一撃でバラバラになった! 
「どうしてあんなにキレてるんでしょーね……。慣れない環境にビビってるんでしゃうか?」
 いつになく冷静に分析するアルクル。やはりレンを補佐するという業務に本気なのか、いつものフニャけた三枚目の雰囲気は鳴りをひそめていた。
「うむ……妙じゃな。あのガラガラマムシの感情がよく読み取れぬ。まるで人間のように、さまざまな負の感情がぐちゃぐちゃになっておるのじゃ……。モンスターの心に、そんなことがあるのか……?」
 レンはその点を訝しんだ。森と共に生きていたエルフには、同じ自然を生きるモンスターの感情がなんとなく読み取れる。人間が相手の雰囲気だけで『怒ってるな』『悲しそうだな』『何かあったのかな?』と感じるように、エルフもモンスターの感情を雰囲気で感じ取れるのだ。
 しかしあのガラガラマムシの感情が全く読み取れない。怒り、恐れ、悲しみ……そしてモンスターの感情としては非常に珍しい『絶望』があった。
「は……絶望?」
 レンからそのことを聞き、目を丸くするアルクル。
「うむ。恐らく体は普通のガラガラマムシじゃ。しかし、この雑多な感情は……何やら裏がありそうじゃな。ナガレ君……どうか無事で戻ってこい」
 レンの祈りは、果たして届くだろうか……。

~☆~☆~☆~☆~☆~

「ギギギッ……!」
 ガラガラマムシは割れ舌をチロチロさせながら、爛々と輝くヘビの眼で遠くを見つめる。何がガラガラマムシを掻き立てるのか、真っ直ぐバッファローの街へ這っていく。町のゲートがはっきり見えてくる。
 ……とここで、ガラガラマムシの視線がすっと下にズレた。

「な、なんか大きくない? ガラガラマムシってこんなんだったかしら……?」
「う、うるせえ! どうせ戦ったことねえんだろう? だったら大きさの違いなんて、大した違いじゃないだろうが!」
「……来たな、ガラガラマムシ!」

 ナガレ、タネツ、ヒズマの三人が、武器を構えて立っていたからだ。
「……シャーッ!」
 苛立ちのままガラガラマムシは、歯を剥き出して威嚇する。大きなキバから、薄い黄色をした麻痺毒液がポトリと滴った。
「ひっ!」
 ヒズマがザザッと後ずさる……が、それ以上逃げる気配はない。やる気なのは明らかだった。

「シューシューッ……」
 威嚇で逃げないなら……殺して通るしかない。ガラガラマムシは鎌首をもたげ、臨戦態勢を取った。

「や、やっぱり逃げていい?」
「い、今更何を言うんだ。ぼ、ボス戦から逃げられる訳無えだろう……」
「ぼ、ボス戦って何よ! てか冗談よ冗談! ナガレ君を見捨てて逃げるわけないじゃない!」
「やいやい、ガラガラマムシ! 悪いけど、こっから先は通行止めだ!」
 ナガレは威勢よく声を張り上げる。注目をこちらに逸らして、町への関心を逸らすつもりだ。
「大人しく来た道を戻れば見逃してやる。だが、ここを通るつもりなら……」
 マルチスタッフをダンッ! と地面に叩きつける!
「てめえの命をもらっていくぞ!」
 啖呵を切って、長棒を器用に回しながらガラガラマムシに突進する。タネツとヒズマも後に続いた。
 バトルスタートだ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

クラス転生あるあるで1人追放になって他の勇者は旅立ったけど私達はのんびりしますがのんびり出来なそうです

みさにゃんにゃん
ファンタジー
よくラノベの定番異世界転移のクラス転移で王様がある男子…黒川君を国外追放した。 理由はあるある展開で「雑魚スキルだから出てけ」ということで黒川君はドナドナされて残ったメンバーは勇者として直ぐに魔物討伐の旅に出されたが私達はのんびりしようと思います。 他のキャラのサイド話が間に入りますので悪しからず

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...