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第三話 誇りとプライドを胸に

王都からの来訪者?

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「ん~っ! やっぱりモンスターのいない辺りは平和でいいなぁ~っ」
 町から近いホクス平原を一人で歩くナガレ。ついさっきまでオイダシキノコという真っ白なキノコを採取していたところだ。 
 スラガン地方から遠く離れた、砂漠広がるデクネク地方から来たクエストだ。商業キャラバンがモンスターに襲われたことで商品がダメになったから、すぐに新しいキノコを採取して欲しい、とのことだった。
 オイダシキノコというのも、魔力を体から追い出して能力低下を打ち消してくれる効果があることからその名前がついた。漢方にして飲むのが効果的だが、バターでこんがり焼くととても美味しい。
「さーて、帰って納品して一眠りしたらまた特訓だ! でもなんだか疲れたな……いやいやっ、継続は力なりって言うし、毎日やるぞ!」
 実は体中ケガだらけのナガレ。タネツとヒズマと三人で特訓を初めてから、大体三週間がたった。思えばこの街に来てもう一ヶ月、街にもようやく馴染んでこれた気がする。
 
 そんなこんなで町に帰ってきたのだが……なんだか人通りが少ない。いつもなら買い物客やわんぱくな子供たちが何人か歩いているはずなのに、今日はそれが無い。
「あれ、なんかあったのか……? あ、ルック!」
 するとナガレはアルカナショップの店先にて、退屈そうに頬杖をついていたルックを見つけた。呼びかけられたルックは顔を上げる。
「ん、ナガレじゃん。戻ってきてたのか」
「ついさっきだけどな。それより何かあったのか? 誰も来てなさそうじゃん」
「おう、まーそうだな。なんか騎士の駐屯所にエラい人が来てるらしくて、みんなそっちに行ってるぞ。ウチのねーちゃんが言ってた」
「エラい人~? こんな田舎町に?」
 なるほど、それで町のみんながそっちに行って、人通りが少ない訳だ。なんだかナガレも気になってきた。
「あんがと! オレも行ってみるよ」
「あ、待ったナガレ! なら俺も付き合うぜ~、誰も来なくて退屈してたんだ」
 こうしてルックを連れたナガレは、町はずれにある治安維持の騎士駐屯所へ向かった。
 この世界の騎士は警察のような役割で、基本的には大陸全土の町に配属されている。大きい町ならその規模は数百人を超えるが、バッファローの町はたったの四人だけ。ポジティブに捉えれば、四人だけでも治安維持ができる平和なところなのかもしれない。

 と言う訳で駐屯所に来たナガレとルック。そこには人だかりができていて、その先には誰か立っている。
「なんだなんだ⁉︎ マディソンさんもアルクルもいるぞ?」
「おや? よう、ナガレ君!」
 ナガレに気づいたアルクルが振り返り、気さくに片手を上げた。医者のマディソンも振り向いて、穏やかに笑顔を見せてくれる。
「ごきげんよう、ミスター・ウエスト。クエスト帰りかね?」
「へへ、まあそんなところ。ところでどうしてここに?」
「アレだよ……喧嘩だという話を聞いて飛んできたんだ。馬鹿なことは止めさせなければならないからね。しかしアレは……」
 そう言ってマディソンは、ある方向を指差した。
「ほらな言ったろう? しっかし……何やってんだねーちゃん、あんなに突っかかって……」
 近づいてよく見ると……あのアリッサが顔を真っ赤にして、集団の先にいた鎧姿の騎士に掴みかかっているようだ。
「えっホント何やってんだよ⁉︎」
 驚くナガレ。アリッサは鎧の騎士を敵意剥き出しで睨みつけ、すごい声で喚き散らかしている。……どうやらたくさんの人は、アリッサの暴れっぷりを見物しに来ていたようだ。
「だからそれがあたしたちのせいって言いたい訳⁉︎ ざっけんじゃないよっ! んな言いがかりつけられるほど騎士ってエラいの⁉︎」
「い、いえ、そのような事は言って……」
「じゃあなんでここに来たのよ! あたしたちを疑ってるからじゃないのーーっ⁉︎」 
 カッコいいヘルムまで被った騎士がタジタジに押されていた……。
「いい加減にしろ、バカ姉貴!」
 たまらずルックが飛び出して、いい匂いがする金髪の脳天に思い切りゲンコツを食らわした。目から星を飛ばして倒れるアリッサ。
「いった~い……実の姉に何すんのよう」
 「文句は働いてから言いやがれ! このアクティブニートめ! ナガレとの特訓は免罪符じゃねえんだぞ!」
(ルック怖い~……)
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