17 / 312
第一話 最悪のギルド!?
再開
しおりを挟む~☆~☆~☆~☆~☆~
「……ってことがあったんすよ」
どこか遠い目をしてナガレは話していた。……って、左側から何かイビキが聞こえるような……。
そっちを見ると、先輩二人は机にへたり込んで寝息を立てていた。
「~~~~ッ……ね、寝るなぁぁぁッ!」
顔を真っ赤にして怒るナガレ。しかし二人はどれだけ怒鳴っても起きる気配がない。
「こ、こんにゃろ……そっちが先に聞いてきたんだろうが……」
「よしなってお客さん。酔っ払いに怒っても疲れるだけさ」
椅子を蹴っ飛ばそうとしたナガレを、バーテンダーのおじさんが優しくなだめる。
「シラフに見えて、お客さんも少し気が大きくなっているんだよ。ほらサービスにしとくから、ソーダでも飲みな」
出されたソーダを一気飲みするナガレ。冷たくて爽やかな飲み物を飲んで、気持ちが少し落ち着いた。
「……ありがとう、おっちゃん」
「いいってことさ。今日はもう帰った方がいいよ、もう十一時を過ぎてるころだ」
そういってバーテンダーが、歯車式の大きな時計を指さす。時計の針はまっすぐ上を指すところだった。
「げ!?」
「大丈夫、お兄さんから代金は頂かないよ。おごりって聞いてるからね。潰れたこの人たちも私が面倒みるからもう行って大丈夫だよ」
「ありがとう……次は一人でのんびり飲みに来るよ」
そういって自分の代金をカウンターに置いて、あわただしく荷物をまとめて出て行った。
「……おごりで良いって言ったのに」
~☆~☆~☆~☆~☆~
次の日。結構寝てたようで、ナガレの部屋の窓の外では、太陽が天高く登っていた。
「ん……ふあぁ~っ……」
ナガレは眠い目を擦って、家のベッドから降りた。だっさいシマシマのパジャマ姿で、結構な長髪は寝癖だらけ。しかし昨日は強い酒を飲んだのに、意識がケロッとしている。窓の外には太陽が高くまで昇っていた。もうお昼時だ……。
「おはよ~執事さん……て、ここにはオレ一人だったな」
少し寝ぼけているようだ。体の傷を見てみても、安静にしていたおかげで塞がっている。さすがはギルド御用達の回復薬!
そんな訳で顔を洗って鎧に着替え、今日も今日とてクエストに向かう。ぼっさぼさの髪をクシでまとめてトレードマークの緑のスカーフを巻いたら、いつものナガレに早変わり!
「うっし、今日も頑張ってクエストに行くぜ!」
一人で気合を入れて家のドアを開ける……。
「ひゃあっ⁉︎」
「おわっ⁉︎」
すると廊下の向かいに、一人の女性が立っていた。気合そのまま勢いよくドアを開けたせいで驚かせたようだ。
「す、すみません! お邪魔でしたらすぐ出て行くので!」
「いや……えっと、アンタは誰なんだ?」
「あっ、すいません。私ったら……」
女性は丁寧に頭を下げた。見たところ自分と同年代の少女……もっと言うと、どこかで見たことあるような?
「あぁっ⁉︎ アンタ、あの時の!」
「はっ、はい! あの時は助けていただき、ありがとうございました。私、アリッサ・ケランって言います」
あの時スカルクリーチャーに襲われていた少女だ。
「そうか、オレはナガレ。ナガレ・ウエストだよ」
「オレ……? あ、あの、失礼かもしれませんけど、もしかして男性なの?」
「うん……大丈夫、よく言われる。昔っからこう言う顔立ちでさ」
昔っから顔がアイドルみたいに可愛かった。心も体も男なのに、ナガレにとって凄まじいコンプレックスとなっている……まぁそれはともかく。
「あの、ナガレさん……ですよね? 昨日からずっとお礼を言いたくって……ギルドマスターのレンさんにお家の場所を聞いたので、朝からずっとここで待ってたんです」
「そんなにか⁉︎ なんというか、そこまで恩を着せた覚えはないけどなぁ」
助けておいてそんなことを言うナガレ。内心では、誰かの助けになれてとても嬉しい。
「それで、えっと、実はもう一つここに来た理由があって……」
アリッサは急に下を向いてもごもごし始めた。何か言いたくないことがあるようで……。
「ちょっと廊下で話すのも迷惑になるし……建物の下に降りよっか」
「は、はい! あの、助けてくれてありがとうございます!」
「それはさっき聞いたよ」
「あっえっ、す、すいません! けど、お礼は何度言っても良いものだと思いまして……あぶぶぶぶ!」
「落ち着けよ!」
と言う訳で外に出て、宿屋の壁に持たれて話すことにした。昼下がりの太陽が心地よい。
「ブルルルル!」
建物のそばに繋がれた、昨日の馬が近寄ってくる。腹にはちょっと雑に包帯が巻かれている……治療方法は合っているのだろうか? 馬はナガレのことを覚えているのか、こちらに近寄って頬擦りしてきた。
「ちょっ、くすぐったいって! 可愛いなぁ……っと。それで、言いたいことってなんだい?」
ナガレがそう言うと、アリッサは気まずそうに目を逸らす。これは軽い話でなさそうだ……。
「えっと、あの……じ、実は報酬金の事なんです」
「え、じゃあアリッサ、アンタが依頼主?」
「そうなんです! 皆さんが探しに行ってくれないので、もう自分で見つけちゃうぞ~……って」
「なるほどね」
それでスカルクリーチャーに目をつけられたのを、馬に連れられたナガレが見つけたという感じだったようだ。
「ブルルルッ!」
「あははっ、やめろよぉ~! 大きい馬だね。名前はなんて言うの?」
「ブラウンって言います。毛並みが茶色なので、お父さんが名づけたんです」
「へぇ、お父さんが……っとごめん、話逸らしちまった。続けてくれるか?」
アリッサは背伸びして、ブラウンの背中を軽く叩く。するとブラウンはナガレから離れて、彼女の近くにやってきた。
「は、はい。それで……その実は……報酬金払うの、一ヶ月待ってくれませんか⁉︎」
「へ?」
「あいえ、必ずお支払いします! でも今は新しい商品を仕入れたばかりなので、五十ダラーでも惜しいんです。どうか来月まで待ってほしいんです……いいですか?」
恐る恐るこちらを見てくるアリッサ。ナガレは少し考えてから口を開いた。
「……いや、オレに報酬金はおかしいよ」
「え?」
「ブラウンを見つけたのはアリッサじゃないか。オレはスカルクリーチャーを追い払っただけで、見つけてもないからね」
「え!? い、いやそれって……」
あわあわ口のアリッサ。そんな様子とは反対にナガレは爽やかな笑みを浮かべている。
「それにスカルクリーチャーを追っ払ったのはあの旅人だし。どうしてもお礼したいってんなら、旅人さんに渡してよ」
「でも……」
反論しようとして、アリッサは口をつぐむ。ナガレは報酬金を突っぱねようとしているのだ……下手な嘘までついて。目撃者はナガレとアリッサだけだ。口裏を合わせれば、だれからも疑われることないだろう。
「……は、はい。分かりました……」
「分かればよろしいっ。じゃあオレはこれで!」
そう言うとナガレはスタスタと足早にギルドへ行ってしまった。
「ナガレさん……ですね。その名前、絶対に忘れません!」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】そんなに怖いなら近付かないで下さいませ! と口にした後、隣国の王子様に執着されまして
Rohdea
恋愛
────この自慢の髪が凶器のようで怖いですって!? それなら、近付かないで下さいませ!!
幼い頃から自分は王太子妃になるとばかり信じて生きてきた
凶器のような縦ロールが特徴の侯爵令嬢のミュゼット。
(別名ドリル令嬢)
しかし、婚約者に選ばれたのは昔からライバル視していた別の令嬢!
悔しさにその令嬢に絡んでみるも空振りばかり……
何故か自分と同じ様に王太子妃の座を狙うピンク頭の男爵令嬢といがみ合う毎日を経て分かった事は、
王太子殿下は婚約者を溺愛していて、自分の入る余地はどこにも無いという事だけだった。
そして、ピンク頭が何やら処分を受けて目の前から去った後、
自分に残ったのは、凶器と称されるこの縦ロール頭だけ。
そんな傷心のドリル令嬢、ミュゼットの前に現れたのはなんと……
留学生の隣国の王子様!?
でも、何故か構ってくるこの王子、どうも自国に“ゆるふわ頭”の婚約者がいる様子……?
今度はドリル令嬢 VS ゆるふわ令嬢の戦いが勃発──!?
※そんなに~シリーズ(勝手に命名)の3作目になります。
リクエストがありました、
『そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして』
に出てきて縦ロールを振り回していたドリル令嬢、ミュゼットの話です。
2022.3.3 タグ追加
【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。
私が悪役令嬢? 喜んで!!
星野日菜
恋愛
つり目縦ロールのお嬢様、伊集院彩香に転生させられた私。
神様曰く、『悪女を高校三年間続ければ『私』が死んだことを無かったことにできる』らしい。
だったら悪女を演じてやろうではありませんか!
世界一の悪女はこの私よ! ……私ですわ!
ネコ科に愛される加護を貰って侯爵令嬢に転生しましたが、獣人も魔物も聖獣もまとめてネコ科らしいです。
ゴルゴンゾーラ三国
ファンタジー
猫アレルギーながらも猫が大好きだった主人公は、猫を助けたことにより命を落とし、異世界の侯爵令嬢・ルティシャとして生まれ変わる。しかし、生まれ変わった国では猫は忌み嫌われる存在で、ルティシャは実家を追い出されてしまう。
しぶしぶ隣国で暮らすことになったルティシャは、自分にネコ科の生物に愛される加護があることを知る。
その加護を使って、ルティシャは愛する猫に囲まれ、もふもふ異世界生活を堪能する!
縦ロールをやめたら愛されました。
えんどう
恋愛
縦ロールは令嬢の命!!と頑なにその髪型を守ってきた公爵令嬢のシャルロット。
「お前を愛することはない。これは政略結婚だ、余計なものを求めてくれるな」
──そう言っていた婚約者が結婚して縦ロールをやめた途端に急に甘ったるい視線を向けて愛を囁くようになったのは何故?
これは私の友人がゴスロリやめて清楚系に走った途端にモテ始めた話に基づくような基づかないような。
追記:3.21
忙しさに落ち着きが見えそうなのでゆっくり更新再開します。需要があるかわかりませんが1人でも続きを待ってくれる人がいらっしゃるかもしれないので…。
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる