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第二章 怪異との闘い!3
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ベッド、ベッド。
メイのベッドは、部屋の中の左側にあったな……
「あっ、メイ!」
メイは、布団に巻きつかれたような格好で、ベッドから体が半分ずり落ちてた。
苦しそうな声が、布団の中から聞こえてくる。
「あ、……い、ね……だめ、逃げて……」
「メイ!」
駆け寄りたい。
でも、ここに、スカイ・イビルっていう怪異がいるはず。
私が部屋に入って、時雨さんの足手まといになったら。
「あいね、ごめん……あたし、パパとママが、ずっと仲悪くて……同じ共働きなのに、いつも仲よさそうなあいねがうらやましくて……それで、あいねに当たったりして、ケンカなんて……」
メイが泣いてる。
かっと頭が熱くなった。
「時雨さん……メイの様子がおかしかったのって……」
「ええ。スカイ・イビルは、空の上でトラブルを起こす小悪党の怪異です。この部屋を、地上にいる間の自分の巣にするつもりだったようですね。その影響で、メイ殿のつらさや苦しさが増幅されていたのでしょう」
その怪異が、どんなものなのか、私は詳しくは知らない。
でも、メイを苦しませるような、そんなことをするなんて。
「時雨さん……私、祓い師っていうのの血筋でも、全然なんの力もなくて……」
時雨さんが私のほうを振り向いた。その顔は微笑んでる。
「今襲われてるのも、私自身じゃなくて、友達のメイなんですけど……それでも、……あつかましい、のかもしれないんですけど、……お願いが、あって」
「この怪異を、対峙しますか?」
私はうなずいた。
「友人の苦しみは、あいねさんの苦しみなのですね。そしてあいねさんの苦しみは、ぼくの苦しみです。喜んでお引き受けしましょう。吸血鬼の、怪異退治です」
その時、私の目にも見えた。
こっちを振り返ってる時雨さんのすぐ近くに、コウモリみたいな羽の生えた、毛むくじゃらのヤギみたいなものが立ってる。
あれが、スカイ・イビル!?
「時雨さん! 危な――」
「はい!」
時雨さんは私に返事しながら、スカイ・イビルのほうを見もせずにこぶしを振り上げた。
それがあごにかすっただけで、スカイ・イビルはぐらっと体を揺らして、後ずさる。
「ふ、かわしたか。不意打ち返しの一撃で決まれば、楽だったのにな」
時雨さんがスカイ・イビルのほうに向き直った。
でも今度はスカイ・イビルが両手を前に突き出して、ギエエッと叫びながら時雨さんに向かっていく。
それを時雨さんは、左手一本で払いのけて、スカイ・イビルのお腹に回し蹴りを入れた。
吹っ飛んだスカイ・イビルが、壁にぶつかって倒れる。
すぐに立ち上がったけど、ヤギそっくりの足は震えてて、立ち方もよろよろとしてる。
どう見ても時雨さんが優勢だ。
つ、強いんだ、時雨さん。
「さて。メイ殿の部屋をあまり荒らしても申し訳ない。早めに倒させてもらおう」
時雨さんがスカイ・イビルに近づいていく。
これで、時雨さんが勝てば、メイは助かるんだよね?
少しほっとして、その時、変なものが見えた。
スカイ・イビルがいるのとは逆のほうに、もうひとつ、うごめく黒いものがある。
今度は、時雨さんは気がついてない気がした。
「時雨さんっ!」
私は駆け出して、時雨さんと背中合わせで立つ。
って、とっさに出てきちゃったけど、まずいかな!?
「あいねさん!?」
「も、もう一匹います!」
もうひとつの影は、動物じゃなく人間の形をしているようで、羽とかは生えてない。でも、体がどろどろしていて、ロウか泥でもかぶったみたいだった。
こ、これはこれで気持ち悪いなあ。
その怪異が、びゅっと腕を伸ばしてきた。
「きゃあっ!?」
「あいねさん!」
その腕が、また私をかばってくれた時雨さんの脇腹のあたりにドカッとぶつかる。
「くっ!」
「し、時雨さん!」
どうしよう。私のせいだ。部屋には入らないように言われてたのに。
「大丈夫、かすり傷です。あいねさんが気づいてくれなければ、もっと危ないところでした。なるほど、妙に部屋の空気が湿っているし、スカイ・イビルがこんな地上に巣を作ろうとするというのは不思議でしたが……ダーク・インプと組んでいたのですね」
「ダーク・インプ……」
「メイ殿のお母様は、なにか、湖や水辺に関するお仕事をされているのではありませんか?」
「あ、はい。メイのお母さん、沼とか湖の研究をしてるって聞いたことあります」
メイの家は、お父さんもお母さんも専門家っぽくてかっこいいなって思ったのを、よく覚えてる。
「ダーク・インプは、湖沼を根城にする怪異です。たかがスカイ・イビル一匹にしては、ずいぶん手際よく人の家にいついたものだと思いました。怪異二匹にいつかれては、メイ殿もまいって当然です」
どうしよう。
二対一になっちゃった。
私じゃ、時雨さんの戦いの役には立たないし。
さっきみたいに、足手まといになっちゃう。
せめて私が、格闘技習ってたりとか、そうじゃなくても運動神経抜群なら少しは役に立てるのかもしれないけど、なんの才能も経験もないんだもん。
そんな場合じゃないって分かってるのに、情けなくって、涙がにじんできた。
「……あいねさん」
「は、はいっ! すみません、泣いてませんっ!」
「倒してみますか?」
「……え? なにをですか?」
「あれです」
時雨さんが手のひらですっと示したのは、ダーク・インプだった。
「ええええっ!? 無理じゃないですか!? 私体育二ですよ!?」
「体育は関係ないですが。見たところ、あいねさんは、ご自分の手で友人の受けた苦しみを返してやりたいのでは?」
そ、それは、私にできるんなら。
メイを苦しめた怪異に、一発くらい痛い目を見せてやりたいとは思う、けど。
「もしあいねさんがその気なら、力をお貸ししましょう」
「で……できるんですか? そんなこと?」
時雨さんが微笑んだ。
今までもそうだったけど、時雨さんの笑顔を見ると、ほとんどのことがうまくいくように思える。
好きだなあ、この顔……
って、なにを考えてるんだ、私っ。
「お願いしますっ。私にできることがあるなら、やらせてくださいっ」
時雨さんは、二匹の怪異を視線でけん制すると、私の目元に指を滑らせた。
あ、これ、前と同じだ。
私の目ににじんだ涙が、時雨さんの指を少しだけ湿らせる。
そして光の粒がその涙からはじけて、私の体を覆った。きらきらの輝きに包まれて、自分の体が見えなくなるくらいに。
「こ、これっ。今度はなんですか!?」
「僕の能力の一部を、あいねさんにお分けします」
そして、私の服は、いつの間にか、黒いドレスに変わってた。
「わっ!? 服っ!?」
「よくお似合いですよ、吸血鬼の装いが。では、見ていてください。このようにやるんです」
時雨さんが、右の手のひらを、スカイ・イビルに向けた。
「手の先に、神経を集中します。そして、引き絞った弓で矢を放つイメージで……」
スカイ・イビルが、腕を振り上げた時。
「撃つ! ――雷よ!」
ばちいっ!
時雨さんが叫ぶと、手のひらから稲妻がほとばしる。
それはスカイ・イビルの胸を打ち抜いて、一瞬で消えた。
向こうの壁や本棚には、焦げ目ひとつついてない。
どさりと倒れたスカイ・イビルは、ぱらぱらと灰みたいに砕けて、空中に消えていく。
そういえば、暗い中でもさっきよりずっとよくものが見えるようになってるって、この時初めて気がついた。
「残念だったね、お前たち。この暗闇で本来の力を発揮できるというなら、ぼくも同じだ。さて、あいねさん。あちらをどうぞ」
今度は、時雨さんがダーク・インプを手で示すけど。
ど……どうぞって?
「えっ!? い、いまの、雷みたいなやつを出すってことですか!? ぶっつけで!?」
「そうです。大切なのは、必ずうまくいくと信じること、成功する姿をイメージすることです。さっきのぼくの姿を思い浮かべながらやってみてください」
ダーク・インプはこっちをじろじろとにらんでる。
下手に動いたら、時雨さんにやられちゃうと思っているのかな。
それなら今のうち。急がないと。
えーと、弓を引き絞って、矢を撃つみたいに……
私が右手のひらをダーク・インプに向かって広げると、手首から先が光り始めた。
こ、これ!? これでいいの!?
「や、やあっ! い、雷よっ!?」
矢を放つイメージをすると、私の手から稲妻が飛び出した。
ぱりぱりっ、と時雨さんのよりも軽い音を立てる光の筋はばらばらで、矢って言うより勢いよく出したシャワーみたいな感じだったけど、とにかくそれがダーク・インプを直撃した。
「ぎゅえっ!」
ダーク・インプが、びくんと体を震わせてから、そう叫んで倒れた。
そして、黒い灰に変わっていく。
「や……やった……?」
「やりましたね。お見事です」
「よ、よかったっ。メイ! 今明るくするからね!」
私はすぐに窓に駆け寄る。早く日の光を入れて、この真っ暗な部屋をもとにもどしてあげないと。
「あ、お待ちください、あいねさ――」
時雨さんの言葉より早く、私はテープと段ボールを取ろうとした。
吸血鬼の力なのか、固く貼りつけられてたテープもすぐにはがせて、段ボールの向こうから出てきたカーテンを全部開ける。
まぶしい光が、部屋いっぱいに差し込んできた。
「どう、メイ、少しは気分が……」
そう言いかけた時だった。
がくんと膝から力が抜けて、目まいがする。
う、……うわ?
な、なにこれ!? 急に、体がものすごくだるくなった!?
風邪をひいて高い熱が出た時みたいに、急に全身が不調になってる。どうして?
「あいねさん、今楽になりますからね」
時雨さんがそう言ってくれてから、三十秒くらいして、急に体が元通り楽になった。
ありがたいんだけど、なにが起きたのかがぜんぜん分からない。なにがあったの、今?
体を見ると、あの黒いドレスが消えて、来た時の服装に戻ってる。
「申し訳ありません、言っていませんでした。ぼくの力を分け与えている時のあいねさんは半吸血鬼化しているので、太陽の光には弱くなるんです。人間に戻れば、すぐによくなります」
吸血鬼……そっか、それで……
「あ、ということは、時雨さんも、昼間はずっとあんなに気分が悪いものなんですか?」
時雨さんが、あっと口に手をやった。
やっぱりそうなんだ!?
メイのベッドは、部屋の中の左側にあったな……
「あっ、メイ!」
メイは、布団に巻きつかれたような格好で、ベッドから体が半分ずり落ちてた。
苦しそうな声が、布団の中から聞こえてくる。
「あ、……い、ね……だめ、逃げて……」
「メイ!」
駆け寄りたい。
でも、ここに、スカイ・イビルっていう怪異がいるはず。
私が部屋に入って、時雨さんの足手まといになったら。
「あいね、ごめん……あたし、パパとママが、ずっと仲悪くて……同じ共働きなのに、いつも仲よさそうなあいねがうらやましくて……それで、あいねに当たったりして、ケンカなんて……」
メイが泣いてる。
かっと頭が熱くなった。
「時雨さん……メイの様子がおかしかったのって……」
「ええ。スカイ・イビルは、空の上でトラブルを起こす小悪党の怪異です。この部屋を、地上にいる間の自分の巣にするつもりだったようですね。その影響で、メイ殿のつらさや苦しさが増幅されていたのでしょう」
その怪異が、どんなものなのか、私は詳しくは知らない。
でも、メイを苦しませるような、そんなことをするなんて。
「時雨さん……私、祓い師っていうのの血筋でも、全然なんの力もなくて……」
時雨さんが私のほうを振り向いた。その顔は微笑んでる。
「今襲われてるのも、私自身じゃなくて、友達のメイなんですけど……それでも、……あつかましい、のかもしれないんですけど、……お願いが、あって」
「この怪異を、対峙しますか?」
私はうなずいた。
「友人の苦しみは、あいねさんの苦しみなのですね。そしてあいねさんの苦しみは、ぼくの苦しみです。喜んでお引き受けしましょう。吸血鬼の、怪異退治です」
その時、私の目にも見えた。
こっちを振り返ってる時雨さんのすぐ近くに、コウモリみたいな羽の生えた、毛むくじゃらのヤギみたいなものが立ってる。
あれが、スカイ・イビル!?
「時雨さん! 危な――」
「はい!」
時雨さんは私に返事しながら、スカイ・イビルのほうを見もせずにこぶしを振り上げた。
それがあごにかすっただけで、スカイ・イビルはぐらっと体を揺らして、後ずさる。
「ふ、かわしたか。不意打ち返しの一撃で決まれば、楽だったのにな」
時雨さんがスカイ・イビルのほうに向き直った。
でも今度はスカイ・イビルが両手を前に突き出して、ギエエッと叫びながら時雨さんに向かっていく。
それを時雨さんは、左手一本で払いのけて、スカイ・イビルのお腹に回し蹴りを入れた。
吹っ飛んだスカイ・イビルが、壁にぶつかって倒れる。
すぐに立ち上がったけど、ヤギそっくりの足は震えてて、立ち方もよろよろとしてる。
どう見ても時雨さんが優勢だ。
つ、強いんだ、時雨さん。
「さて。メイ殿の部屋をあまり荒らしても申し訳ない。早めに倒させてもらおう」
時雨さんがスカイ・イビルに近づいていく。
これで、時雨さんが勝てば、メイは助かるんだよね?
少しほっとして、その時、変なものが見えた。
スカイ・イビルがいるのとは逆のほうに、もうひとつ、うごめく黒いものがある。
今度は、時雨さんは気がついてない気がした。
「時雨さんっ!」
私は駆け出して、時雨さんと背中合わせで立つ。
って、とっさに出てきちゃったけど、まずいかな!?
「あいねさん!?」
「も、もう一匹います!」
もうひとつの影は、動物じゃなく人間の形をしているようで、羽とかは生えてない。でも、体がどろどろしていて、ロウか泥でもかぶったみたいだった。
こ、これはこれで気持ち悪いなあ。
その怪異が、びゅっと腕を伸ばしてきた。
「きゃあっ!?」
「あいねさん!」
その腕が、また私をかばってくれた時雨さんの脇腹のあたりにドカッとぶつかる。
「くっ!」
「し、時雨さん!」
どうしよう。私のせいだ。部屋には入らないように言われてたのに。
「大丈夫、かすり傷です。あいねさんが気づいてくれなければ、もっと危ないところでした。なるほど、妙に部屋の空気が湿っているし、スカイ・イビルがこんな地上に巣を作ろうとするというのは不思議でしたが……ダーク・インプと組んでいたのですね」
「ダーク・インプ……」
「メイ殿のお母様は、なにか、湖や水辺に関するお仕事をされているのではありませんか?」
「あ、はい。メイのお母さん、沼とか湖の研究をしてるって聞いたことあります」
メイの家は、お父さんもお母さんも専門家っぽくてかっこいいなって思ったのを、よく覚えてる。
「ダーク・インプは、湖沼を根城にする怪異です。たかがスカイ・イビル一匹にしては、ずいぶん手際よく人の家にいついたものだと思いました。怪異二匹にいつかれては、メイ殿もまいって当然です」
どうしよう。
二対一になっちゃった。
私じゃ、時雨さんの戦いの役には立たないし。
さっきみたいに、足手まといになっちゃう。
せめて私が、格闘技習ってたりとか、そうじゃなくても運動神経抜群なら少しは役に立てるのかもしれないけど、なんの才能も経験もないんだもん。
そんな場合じゃないって分かってるのに、情けなくって、涙がにじんできた。
「……あいねさん」
「は、はいっ! すみません、泣いてませんっ!」
「倒してみますか?」
「……え? なにをですか?」
「あれです」
時雨さんが手のひらですっと示したのは、ダーク・インプだった。
「ええええっ!? 無理じゃないですか!? 私体育二ですよ!?」
「体育は関係ないですが。見たところ、あいねさんは、ご自分の手で友人の受けた苦しみを返してやりたいのでは?」
そ、それは、私にできるんなら。
メイを苦しめた怪異に、一発くらい痛い目を見せてやりたいとは思う、けど。
「もしあいねさんがその気なら、力をお貸ししましょう」
「で……できるんですか? そんなこと?」
時雨さんが微笑んだ。
今までもそうだったけど、時雨さんの笑顔を見ると、ほとんどのことがうまくいくように思える。
好きだなあ、この顔……
って、なにを考えてるんだ、私っ。
「お願いしますっ。私にできることがあるなら、やらせてくださいっ」
時雨さんは、二匹の怪異を視線でけん制すると、私の目元に指を滑らせた。
あ、これ、前と同じだ。
私の目ににじんだ涙が、時雨さんの指を少しだけ湿らせる。
そして光の粒がその涙からはじけて、私の体を覆った。きらきらの輝きに包まれて、自分の体が見えなくなるくらいに。
「こ、これっ。今度はなんですか!?」
「僕の能力の一部を、あいねさんにお分けします」
そして、私の服は、いつの間にか、黒いドレスに変わってた。
「わっ!? 服っ!?」
「よくお似合いですよ、吸血鬼の装いが。では、見ていてください。このようにやるんです」
時雨さんが、右の手のひらを、スカイ・イビルに向けた。
「手の先に、神経を集中します。そして、引き絞った弓で矢を放つイメージで……」
スカイ・イビルが、腕を振り上げた時。
「撃つ! ――雷よ!」
ばちいっ!
時雨さんが叫ぶと、手のひらから稲妻がほとばしる。
それはスカイ・イビルの胸を打ち抜いて、一瞬で消えた。
向こうの壁や本棚には、焦げ目ひとつついてない。
どさりと倒れたスカイ・イビルは、ぱらぱらと灰みたいに砕けて、空中に消えていく。
そういえば、暗い中でもさっきよりずっとよくものが見えるようになってるって、この時初めて気がついた。
「残念だったね、お前たち。この暗闇で本来の力を発揮できるというなら、ぼくも同じだ。さて、あいねさん。あちらをどうぞ」
今度は、時雨さんがダーク・インプを手で示すけど。
ど……どうぞって?
「えっ!? い、いまの、雷みたいなやつを出すってことですか!? ぶっつけで!?」
「そうです。大切なのは、必ずうまくいくと信じること、成功する姿をイメージすることです。さっきのぼくの姿を思い浮かべながらやってみてください」
ダーク・インプはこっちをじろじろとにらんでる。
下手に動いたら、時雨さんにやられちゃうと思っているのかな。
それなら今のうち。急がないと。
えーと、弓を引き絞って、矢を撃つみたいに……
私が右手のひらをダーク・インプに向かって広げると、手首から先が光り始めた。
こ、これ!? これでいいの!?
「や、やあっ! い、雷よっ!?」
矢を放つイメージをすると、私の手から稲妻が飛び出した。
ぱりぱりっ、と時雨さんのよりも軽い音を立てる光の筋はばらばらで、矢って言うより勢いよく出したシャワーみたいな感じだったけど、とにかくそれがダーク・インプを直撃した。
「ぎゅえっ!」
ダーク・インプが、びくんと体を震わせてから、そう叫んで倒れた。
そして、黒い灰に変わっていく。
「や……やった……?」
「やりましたね。お見事です」
「よ、よかったっ。メイ! 今明るくするからね!」
私はすぐに窓に駆け寄る。早く日の光を入れて、この真っ暗な部屋をもとにもどしてあげないと。
「あ、お待ちください、あいねさ――」
時雨さんの言葉より早く、私はテープと段ボールを取ろうとした。
吸血鬼の力なのか、固く貼りつけられてたテープもすぐにはがせて、段ボールの向こうから出てきたカーテンを全部開ける。
まぶしい光が、部屋いっぱいに差し込んできた。
「どう、メイ、少しは気分が……」
そう言いかけた時だった。
がくんと膝から力が抜けて、目まいがする。
う、……うわ?
な、なにこれ!? 急に、体がものすごくだるくなった!?
風邪をひいて高い熱が出た時みたいに、急に全身が不調になってる。どうして?
「あいねさん、今楽になりますからね」
時雨さんがそう言ってくれてから、三十秒くらいして、急に体が元通り楽になった。
ありがたいんだけど、なにが起きたのかがぜんぜん分からない。なにがあったの、今?
体を見ると、あの黒いドレスが消えて、来た時の服装に戻ってる。
「申し訳ありません、言っていませんでした。ぼくの力を分け与えている時のあいねさんは半吸血鬼化しているので、太陽の光には弱くなるんです。人間に戻れば、すぐによくなります」
吸血鬼……そっか、それで……
「あ、ということは、時雨さんも、昼間はずっとあんなに気分が悪いものなんですか?」
時雨さんが、あっと口に手をやった。
やっぱりそうなんだ!?
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