【18禁】てとくち

クナリ

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第二章 変わらないはずだと信じたものさえ遠ざかるから

青四季海と、先輩の折露杏子3

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 親は深夜まで帰ってこない。
 それだけはまず確認した。

 杏子の家は一戸建てで、二階にある杏子の部屋は、化粧品や服など生活に必要そうなものと全くそんなことはなさそうなもので溢れかえっていた。
 ベッドの上はほかの空間よりも比較的整然としていたが、人間の赤ん坊ほどの大きさのぬいぐるみが三四個置かれている。

「お待たせ。シャワー浴びてきたよ」

 部屋に戻ってきた杏子は、部屋着姿だった。丈の長いTシャツで、腿の半ばまでが隠れている。
 ブラジャーは着けていないのが、胸のあたりを見ると分かった。

「はい。では、そこに寝てください」

 杏子は慣れた様子で、うつ伏せに寝る。

 いくら今親がいないとはいっても、なにかの都合で、ふいと帰ってくることはあり得る。
 あまり時間はかけられない、のだが。
 海はこれまでの経験上、知っていた。女の様子がおかしい場合、体を満足するよう求められても、それだけを真に受けてはいけない。どんなに懸命に尽くしても、尽くした分だけ醒めさせてしまうことが往々にしてある。
 杏子は性欲はそれなりに旺盛かもしれないが、ショッピングセンターの時のような要求の仕方は、普段しない。
 なにかある、と思えた。
 そしてそれは、直接聞くのが最善手だ。

「折露先輩。なにかあったんですか?」
「……彼氏がさあ」

 うつ伏せのまま、杏子がくぐもった声を出す。
 確か処女が好きとかなんとか言っていたな、いや少し違ったか、と海が記憶をさらった。

「言ってましたね、彼氏さん。はい」
「すげえすけべだった」

 ……。
 十数秒、沈黙が訪れる。

「ええと、それは……」海が控えめに言った。「いいこと、だったですか?」
「最初はそう思った。でもなんかあいつ、全然童貞同然のくせに、おもちゃとか使いたがって」

 海は、そうしたものを使ったことがない。
 しかし、人間には到底できない動きをして、指や舌とはまた別物の快感をもたらすというのは聞いていた。

「不愉快、ですか?」
「まあね。男なら自分の体だけで勝負しろよ。なに道具に頼ってんだよ」

 この辺りの価値観は人によって千差万別だが、同時に、言葉通りにとるのもあまりよろしくない。なにか、単に道具を使うのとは別の理由で杏子が傷ついている可能性もある。
 肯定も否定もせずに、海は先を促した。まだなにかあるはずだ。

「しかも、しかもさあ……あたしが結構やってるってことが分かったら、あいつ、いろんな可能性を追求したいとか言い出して……」
「道具以外にも?」

 杏子の後頭部が小さく沈んでうなずく。
 ここはこちらから訊くべきところか、と海が察した。

「たとえば? 訊いてもいいですか?」
「うん。……3Pとか」

「……それはまた」
「ほかはともかくさあ……3Pっておかしくない? 三人ってことは、もう一人いるんじゃん。そいつ、男? 女? コスプレとか変わった場所でやりたいとかなら分かるよ、でもほかの人入れようってさあ。あいつあたしとなにがしたいわけ?」

 海は、一度、その彼氏と会ってみたいと思った。
 性に目覚め始めて、浮かれているのかもしれない。未知の場所にいきなり足を踏み入れて、舞い上がってしまっているのではないか。
 それなら、少しくらいは役に立つ助言ができると思う。
もちろん、実行には移せないが。歯がゆい。

「そんなわけで、いらいらしてさ……海くんに、すっきりさせてもらおうと思ったのに。全然会ってくんないし」
「彼氏とのそういう不満を抱えている時に、おれが入り込むような真似は、よくないですよ……」

「いいんだよ。だってあたしあいつとじゃ全然いけないんだもん」

 これ以上どこまで聞いていいのか判断がつきにくくなり、ひとまず海は、奉仕を開始した。
 服の上から、服と肌をこすれさせないように気をつけながら、手のひらを広く使って触れていく。
 肩甲骨やわき腹を指でなぞり、やがてTシャツの裾にたどり着いた。
 杏子は、ブラジャーだけでなく、下にもなにも穿いていなかった。
 中心部分に直接ではなく、その周囲から触れていく。

「あー、やっぱいい……気持ちいい」

 性的な快感以前に、安心させるような触り方が大事なのだと、海は経験の中で気づかされていった。
杏子の彼氏は、おそらくそうはいかないのだろう。
 杏子はすぐに濡れてきた。
 指を一本だけ、ゆっくりと入れていく。
 奥に行くほど、濡れ方は激しい。
 指を伝って、すぐに手がびしょ濡れになってきた。

 海は、杏子の腰をつかみ、少し浮かせた。
 素直に従う杏子の、下半身とシーツの間にできた隙間に、海は仰向けになって顔を入れる。
 そして、舌で杏子の硬くなった部分を包み前後に動かした。

「う、……んん……あ、それいい……」

徐々に舌の動きを大きくして、陰唇のほうまで、唾液で濡らしながら広く舐め上げる、
指を二本に増やして、つるつると滑らせるように出し入れした。
杏子の腰が動き、声も激しくなってくる。
前もって杏子に要してもらっていたバスタオルを、海はそっとシーツの上に広げた。
濡れてしまうと、今日の杏子の寝床がなくなる。この分では、今日の杏子はそうとう濡らすだろう。

「あー、いい、いいよ、その、べろってやってるやつ……あ、あ、凄い、細かい……」

 舌全体を使いながら、舌先だけは少し硬くして、杏子の尖りを弾いてやる。
 時折それを細かく早くしてやると、杏子が耐えかねたように腰を落としてきた。

「折露先輩、……彼氏さんの名前、呼んでもいいですよ……」

 そう言ったのは、先日、亜由歌のことを思い浮かべた自分が、かつてない快感を味わったからだった。
 しかし、杏子は「ううん、いい……」と断ってきた。

「だってあいつ、絶対こんなことできないもん……」

 杏子が体をずらしてきた。
 仰向けの海の顔のすぐ上に、杏子の顔が来る。

「先輩?」

 杏子が、海の首筋に顔をうずめ、唇と舌をで首を何度も舐め上げる。

「せ、先輩っ」
「ねえ、キスしたい。いいでしょ? だめ?」

 奉仕をする当初からの約束だった。本番とキスはしない。

「だ、だめです。しません」
「じゃあ、入れて」

 杏子が、右手で海の下半身をつかんだ。
 いくら冷静であろうと努めても、当然、そこは完全に張りつめている。

「あっ!? だめです、先輩」

 杏子は手慣れていた。片手で器用にシッパーを下ろし、パンツの合わせ目から、するりと指を滑り入れて、あっという間にそれをつかんでしまう。

「うっ……!」

 それだけで、先端から、とろりと雫がこぼれた。
 杏子は、見ずとも、それを指先で知覚してしまう。

「ほら、こんなじゃん。海くんなら、いいよ。気持ちよくしてあげる。ね? 知らないでしょ、入り口で締めるやり方。あたしできるんだよ。入り口だけで、すっごい気持ちよくできるから」

 しかし、海はかぶりを振った。

「だめ、です。彼氏が、いるでしょ……」
「今ここにはいないよ。ね? 入り口の所だけ……ひっかけるみたいに……。いいって言って、海くん」

 杏子が腰の角度を合わせた。あとは触れるだけで入ってしまう。
 だが、海は自失しなかった。
 体を起こして杏子と入れ替え、自分が上になる。

「あっ、海くん」
「目を閉じて。彼氏でも、誰でもいいです。こうされたい相手を思い浮かべてください」

 杏子は、言われたとおりに目を閉じた。
 だめだ、嫌だと言われている限りキスも挿入もしない。言われたことには、問題がなさそうならとりあえずつき合ってくれる。海はそうした杏子の性格を理解していた。だから奉仕の相手から除外しなかったし、今も会っている。

 海は、再び指を二本、浅めに入れた。
 前後に動かしていく。

「あ……はあ……」

 杏子は濡れやすい。しかし、今までのどの時よりも濡れていた。

「海、くん……」
「はい」

 閉じたままの杏子の目じりに、涙が溜まっている。

「お願い、入れて……」
「それは……すみません」

「海くんの、大きいから……あいつの……彼氏の、来てほしいところまで来ないの……これじゃ、あたし……ずっとあれじゃ、いつか……」
「大きいのが、いいんですか?」

「うん、好き……前はだめだったけど、今は大きいのがいい。海くんので、奥突いて欲しい……」
「奥、ですね」

 奥とはいっても、杏子の言う奥というのは、本当に最奥のことではない。
 奥側にある個所で、さほど大きくないペニスでも届きうるところ。海はすでにそれを知っていた。数度触れれば、杏子の様子を見ていてそれくらいは察せる。
 なのに、なぜ、交際相手がそれを分からないのか。腹立たしい気持ちになる。

 海は、それまで浅めに入れていた指を、ゆっくりと奥まで入れた。
 杏子が一番乱れるその場所に、中指の腹が触れる。
 ひっかくような動きにならないように気をつけて、動きを速めた。
 一見激しい動きに見えるが、力を強くするのではなく、速さだけを上げる。卵の黄身に触れるつもりで、と「仕事」の先輩に教わったことがあった。

 杏子は、あっという間に、ものをしゃべれなくなった。

「あああ……! そ、あっ、かい……く、あ、そっ、あー……!」

 尻が動き、背中が反り、汗の玉が肌に浮かんでくる。
 こするのではなく、押す。
 雑な動きにならないよう気をつけながら、舌で杏子の尖りをとらえ、右手で中心へ出し入れし、左手は杏子の右手とつないだ。

「ぐっ、あ、うああああああ……あ、たし、あああ……!」

 ぱしっ、となにかの液体が一瞬だけしぶいた。
 そして弓なりになった杏子の体が、こわばって制止する。
 それからすぐに、どっとバスタオルの上に倒れてきた。

 ぐったりとした杏子とは対照的に、海のほうは、どうしようもないほど勃起していた。
 入れてしまいたい。その気持ちがないと言えばうそになる。きっと杏子も喜びこそすれ、怒ったりはしない。
 でも、だめだ。
 これが、超えられるけれど超えてはいけない一線だ。
 海は苦労して、まったく収まる様子のないペニスをズボンの中に収めた。
 杏子のシャツを直し、別に出しておいてもらったフェイスタオルで、弛緩した体を拭いていく。

「着替えますか?」

 杏子はゆるゆると首を横に振った。

「いい」
「そうですか。……おれは、こういうの、これで最後にします。だから、これっきりです」

「うん……。学校の外で、おばさんとやってんでしょ? それも?」
「やめます。……おれにはもう、……いや、少し前から、必要がなくなっていたんです。でも、喜んでくれる人がいたから……そう思って続けてきましたけど……」

「そんなに悪いことだとは思わないけど、なくすものともらえるもののつり合いが、とれなくなったかな」

 海は驚いて杏子を見た。
 まさに、言われたとおりの感覚だったからだ。

「そうです、けど……なんだか、折露先輩らしからぬセリフですね」
「あたしがパパ活してたころ、一緒にやってた子がやめる時に言ってた。そしたらもう、やる意味ないよね」

 意味。
 意味か。
 ないなあ、意味。

 海は胸中で苦笑した。しかしその笑いはすぐに顔にも出た。
 杏子もそれを見て、笑っていた。
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