夜煌蟲伝染圧

クナリ

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第19話 第六章 叶うならば、人形のように

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 小学校に通いながら、ああ、これがいじめなんだ、と気づいた時には、遅かった。
 最初は、適当に構われているのだと思っていた。
 異国の血の入った同級生が珍しいのだろうと。
 けれど小学校も五年生になると、明らかに様子がおかしいことが分かって来る。
 服を汚される。髪を少しだけ切られる。教科書を、読める程度に落書きされる。
 やってる本人や周りから見れば遊びの一環でも、やられる方にすればみじめで仕方なくなるような、冷たくて暗い痛み。
 どうすればこれから逃れられるのだろう、とよく考えた。
 そして色んな方策を実行しては、いじめの主犯格達に嗤いながら踏み潰された。
 先生も、一緒になって嗤っていた。
 その笑い声の中で暮らすうちに、いつからか、色んな事がどうでも良くなって行った。
 生きることへの熱が、急激に冷めて行った。
 怒りも悲しみも感じないことで自分を守るしかなかった身には、好都合だった。
 人形が、お手本だった。最初は物珍しさからいじくりまわされても、何の反応も示さない存在だということが分かれば、やがて皆冷めて離れて行く。
 誤算は、自分の感情だった。
 小石か泥のように静かに生きて行けばいいと言い聞かせる理性の裏で、押し込められた情動は、人間として生きたがっていた。
 押し殺し続ければ良かったのだ。
 気づいては、いけなかった。
 胸の奥で心臓を焼く、寂しさという感情などには。
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