夜煌蟲伝染圧

クナリ

文字の大きさ
上 下
15 / 51

第15話 第五章 イチサカシンクロウ 4

しおりを挟む
 千堂の死体が、家の近所のため池で発見されたのは、それから一週間もしない日の早朝だった。
 千堂は手首を深く切って水に浸し、失血死していた。
 恩藤は、
「最近、下校の時に千堂に夜煌蟲が付いていたのを見たぜ」
 などと、堂々とうそぶいていた。
 結局、千堂の死は夜煌蟲の仕業として処理された。
 それから数日後、千堂の遺族は引っ越して行った。
 僕は、見送りに行けなかった。千堂の妹の顔を思い浮かべただけで、胸が詰まって呼吸ができなくなった。
 更に一週間ほど経った頃、恩藤とその取り巻きが死んだ。
 夜煌蟲に取り憑かれての、自殺だった。夜遊び中に、不意に大量の蟲に全員見舞われたらしい。
 僕は、それを聞いても嬉しくもなかったし、天罰だとも思わなかった。神様がいるなら、そもそも千堂達をあんな目に合わせるはずが無い。
 僕は全てを見過ごしていた先生達のあまりの情けなさに、真実を話すことをためらった。この大人達には、千堂の生も死も、理解できないに違いない。
 何日か、抜け殻のような日々が続いた。
 後悔はぐるぐると頭の中を回り、夜も眠れなくなった。
 それでもこのまま時間が過ぎれば、いつしか千堂達の記憶は鮮度を失くして、忘却に薄められて行くだろう。でも決して、無かったことになどさせない。
 僕はまだ、世を儚むつもりは無い。
 これからはもう、自分に関わってくれた人を、決して一人にはしない。
 そう決めて、僕は日常を取り戻して行った。
 高校に入って第四文芸部に入部した僕は、すぐに彼女など作って、でもすぐに振られたりして、早速高校生活に振り回されていた。この部を選んだのは、あまり熱心に活動しなければならない部に入ると、力になってあげたい人を見つけた時に自分に余裕が無くては困るという、そんな理由だった。
 そして、二学期から入部して来た時森エリヤという同級生を見て、軽い既視感を覚えた。
 ちょっとしたしぐさや言葉遣いから、自分の値打ちをとにかく低く見積もっている彼女の価値観が、ありありと伝わって来た。
 千堂と彼女が似ているところなどそれくらいだったけど、それでも、放っておくことができなかった。
 馴れ馴れしい僕に、エリヤは戸惑いを隠さなかった。彼女は学年一の変人のように見えたけど、それは単に、人との付き合い方を知らない――そんなことに興味もないし、仮にその気になったとしても恐らくはコミュニケイションの仕方が絶望的に下手――ことが大きいのだと、すぐに分かった。
 エリヤに迷惑そうに煙たがられても、僕は態度を変えなかった。ちょっかいを出し、声をかけ、少し困らせているのを承知で、エリヤに関わり続けた。
 端から見れば、僕は病気みたいなものかもしれない。
 けど、僕はもう、そういう風にしか生きられなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

視える棺―この世とあの世の狭間で起こる12の奇譚

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、「気づいてしまった者たち」 である。 誰もいないはずの部屋に届く手紙。 鏡の中で先に笑う「もうひとりの自分」。 数え間違えたはずの足音。 夜のバスで揺れる「灰色の手」。 撮ったはずのない「3枚目の写真」。 どの話にも共通するのは、「この世に残るべきでない存在」 の気配。 それは時に、死者の残した痕跡であり、時に、境界を越えてしまった者の行き場のない魂でもある。 だが、"それ"に気づいた者は、もう後戻りができない。 見てはいけないものを見た者は、見られる側に回るのだから。 そして、最終話「最期のページ」。 読み進めることで、読者は気づくことになる。 なぜ、この短編集のタイトルが『視える棺』なのか。 なぜ、彼らは"見えてしまった"のか。 そして、最後のページに書かれていたのは—— 「そして、彼が振り返った瞬間——」 その瞬間、あなたは気づくだろう。 この物語の本当の意味に。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

熾ーおこりー

ようさん
ホラー
【第8回ホラー・ミステリー小説大賞参加予定作品(リライト)】  幕末一の剣客集団、新撰組。  疾風怒濤の時代、徳川幕府への忠誠を頑なに貫き時に鉄の掟の下同志の粛清も辞さない戦闘派治安組織として、倒幕派から庶民にまで恐れられた。  組織の転機となった初代局長・芹澤鴨暗殺事件を、原田左之助の視点で描く。  志と名誉のためなら死をも厭わず、やがて新政府軍との絶望的な戦争に飲み込まれていった彼らを蝕む闇とはーー ※史実をヒントにしたフィクション(心理ホラー)です 【登場人物】(ネタバレを含みます) 原田左之助(二三歳) 伊代松山藩出身で槍の名手。新撰組隊士(試衛館派) 芹澤鴨(三七歳) 新撰組筆頭局長。文武両道の北辰一刀流師範。刀を抜くまでもない戦闘の際には鉄製の軍扇を武器とする。水戸派のリーダー。 沖田総司(二一歳) 江戸出身。新撰組隊士の中では最年少だが剣の腕前は五本の指に入る(試衛館派) 山南敬助(二七歳) 仙台藩出身。土方と共に新撰組副長を務める。温厚な調整役(試衛館派) 土方歳三(二八歳)武州出身。新撰組副長。冷静沈着で自分にも他人にも厳しい。試衛館の弟子筆頭で一本気な男だが、策士の一面も(試衛館派) 近藤勇(二九歳) 新撰組局長。土方とは同郷。江戸に上り天然理心流の名門道場・試衛館を継ぐ。 井上源三郎(三四歳) 新撰組では一番年長の隊士。近藤とは先代の兄弟弟子にあたり、唯一の相談役でもある。 新見錦 芹沢の腹心。頭脳派で水戸派のブレインでもある 平山五郎 芹澤の腹心。直情的な男(水戸派) 平間(水戸派) 野口(水戸派) (画像・速水御舟「炎舞」部分)

あるバイク乗りの話~実体験かフィクションかは、ご自由に~

百門一新
ホラー
「私」は仕事が休みの日になると、一人でバイクに乗って沖縄をドライブするのが日課だった。これは「私」という主人公の、とあるホラーなお話。 /1万字ほどの短編です。さくっと読めるホラー小説となっております。お楽しみいただけましたら幸いです! ※他のサイト様にも掲載。

視える棺2 ── もう一つの扉

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、"視えてしまった"者たちの記録である。 影がずれる。 自分ではない"もう一人"が存在する。 そして、見つけたはずのない"棺"が、自分の名前を刻んで待っている——。 前作 『視える棺』 では、「この世に留まるべきではない存在」を視てしまった者たちの恐怖が描かれた。 だが、"視える者"は、それだけでは終わらない。 "棺"に閉じ込められるべきだった者たちは、まだ完全に封じられてはいなかった。 彼らは、"もう一つの扉"を探している。 影を踏んだ者、"13階"に足を踏み入れた者、消えた友人の遺書を見つけた者—— すべての怪異は、"どこかへ繋がる"ために存在していた。 そして、最後の話 『視える棺──最後の欠片』 では、ついに"棺"の正体が明かされる。 "視える棺"とは何だったのか? 視えてしまった者の運命とは? この物語を読んだあなたも、すでに"視えている"のかもしれない——。

足が落ちてた。

菅原龍馬
ホラー
これは実際に私が体験した話です。 皆さん、夜に運転する時は気を付けて下さい。

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

こわくて、怖くて、ごめんなさい話

くぼう無学
ホラー
怖い話を読んで、涼しい夜をお過ごしになってはいかがでしょう。 本当にあった怖い話、背筋の凍るゾッとした話などを中心に、 幾つかご紹介していきたいと思います。

処理中です...