平衡ゴーストジュブナイル――この手紙を君が読むとき、私はこの世界にいないけれど

クナリ

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ゴーストたちは出逢う

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 生きていたいと願うべきだと分かっている。
 でも心からそう思える瞬間が、生きているうちに、何度あるだろう。

■■■

 十一月になって間もない、新月の日の夜。
 僕――五月女奏さおとめそうが住むこの町では、雨が降っていた。
 部屋の窓から空を見上げる。月はもちろん、星も雨雲に隠れて見えない。
 黒色と、闇がかった藍色にまだらに染まった夜空は、空と言うよりも深海のようだった。
 ただ、雨が街灯の明かりをまとって、細い糸を引いて目の前を流れていく。
 日曜日が間もなく終わる。そしてまた一週間が始まる。――僕が学校に行けないままの一週間が。
 町外れにある二階建ての一軒家。二階には、高校一年の僕の部屋と、中学二年の妹の部屋。
 兄妹は、二人して引きこもっている。
 父親はとうの昔に、この家だけを残して出ていった。
 母さんは、何を思って毎日を暮らしているんだろう。
 やりきれなくなって、僕は足音を殺しながら玄関へ向かった。
 夜、それも雨で人目が少ないだろう今日のような日なら、僕にだって外出はできる。
 特に行くあてはない。でも、少しずつでも外へ出ることに慣れていくのは、必要なことに思えた。
 スマートフォンを見ると、もう夜の零時を回っていた。……月曜日になってしまった。
 コンビニくらいしか開いていないだろうけど、あまり人には会いたくない。
 静かに門を出て、傘を差し、とりあえずいつもの病院へ向かった。
 歩いて十五分ほどのところに、この辺りで一番大きい市立病院はある。
 当然、中に入る気はないので、適当に病院の外周を回った。靴の裏から響く水音が、まるで小さく頬を叩かれ続けている音のように聞こえて、雨の日の外出もいいことばかりではないなと嘆息する。
 ふと、奇妙なものが見えた。
 雨は、豪雨というほどではないものの、傘がないと出歩けない程度には降っている。その雨の中に、やや小柄な人影が見えた。
 僕と同じくらいか、少し低い背丈。それだけなら珍しくはない。奇妙だったのは、それがまさに「人影」だったからだ。
 髪は長いように見える。そして、スカート姿のように見える。女性だろうか。しかし、その人影の向こうの・・・・・・・・・風景が透けている・・・・・・・・。透明人間の輪郭だけが、うっすらと見て取れているような光景だ。
 病院の方を向いているらしい人影を、雨粒がいくつも通り抜けていた。見間違いかと目をこすっても、半透明人間は消えない。
 ふと、人影が身じろぎをした。そしてすぐに動きが止まる。
 僕は直感した。今、こちらを向いた。――目が合っている。
 わずかに、人影が後ずさりしたのが分かった。
 僕はきびすを返し、家への道を小走りに帰った。
 なんだあれば。
 幽霊? 妖怪?
 いや、違う。
 僕が知っている限りの知識の中で、最も正解に近いと考えられるのは。
 あれは、僕と同じ人だ・・・・・・
 でも。
 なぜ、「この世界」にいるんだ? まさか……。
 僕は足を止めた。再び、病院へ駆け戻る。
 雨にけぶる道の上で、あの人影を探した。
 けれど、もうその姿を見ることはできなかった。
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