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「みー!」
「ステラちゃん! だめ!」
私と首なし鎧の間に立ちはだかろうとする(体が小さいからそう見えないけど、きっとそう)ステラちゃんを、慌ててつかんで引き戻した。
どうしよう。
どうすればいいの。
私一人で、怪異に立ち向かう方法なんて……
すると、低い声が聞こえてきた。
「あの半吸血鬼は、おらんのだろう。こざかしいカラスも、離れた」
首なし鎧の声みたいだ。
首がないのにどこでしゃべってるんだろうと思って、よく見たせいで、体中に鳥肌が立った。
首なし鎧は、左手に、生首を持ってた。
その口が動いてる。この鎧姿の、頭がそれらしい。
「じゃあ……まゆの家に現れた馬は」
「我が愛馬よ。貴様の友人を襲えば、カラスはそちらに出向くと思ったからな」
そんな。
なら、やっぱり、まゆは私のせいで怖い目に遭ったんだ。
「今なら貴様は、ただのか弱い小娘にすぎん。その魂、いただくぞ」
首なし鎧が、剣を振りかぶった。
周りを見ても、身を守れそうなものはない。逃げようにも、足元が分厚い草で変にふかふかしてて、力が上手く入らない。
靴を履いてなかったので、靴下のすぐ下から、奇妙な感触が伝わってくる。これじゃ、うまく走れる気がしないよ。
これは……もう……
「みー!」
私の手の力が緩んだすきに、ステラちゃんが飛び出した。
「ステラちゃん!」
ステラちゃんは首なし鎧の周りをびゅんびゅんと飛んで、たまに左手に持った頭にくちばしで突きを入れる。
「みーみー!」
「うっとうしいぞ、怪異の出来損ないが!」
ぶん、と首なし鎧が剣を振った。
ステラちゃんは、直撃はしなかったものの、その風圧で吹っ飛ばされて、私の足元にぽとりと落ちる。
「みー……」
「ステラちゃん! もういいよ、こっちにおいで!」
危うく、弱気になるところだった。ステラちゃんのおかげで、強気を取り戻せた。
こんなに小さな体で頑張ってくれてるのに、私があきらめちゃだめだよね。
精一杯、抵抗してやる。
そうすればきっと、ルチルさんが来てくれる。
歯を食いしばって、覚悟を決めた。
……その時。
暗い空間に、白いもやがかかりだした。
こんなところで、急に、霧? 川もないのに? ……ううん、違う。これは、見覚えがある。
たぶん、そうだ。当たってる。
どうしてか、私は、この霧を見間違えることはないっていう、自信があった。
でも、なんで? 今ここに、その人がいるはずないのに。
「遅くなって悪かった、凛」
どこからともなく響く声。
「京都は……どうしたんですか」
アミュレットで危険を察してくれたとしても、新幹線でも何時間もかかる距離なのに。
「半日ほどだが、味わい深い体験をしたよ。でも、楽しければ楽しいほど、足りないものが気になってな。夢野はもう少し京都を見たいっていうんで、あいつ置いて、帰ってきてしまった」
霧の白色が、どんどん濃くなる。
首なし鎧が、「なんだこれは!?」と言いながら、ぶんぶんとあてもなく剣を振ってる姿が、見えなくなっていく。
「なんですか、足りないものって」
「修学旅行もいいけどな。おれは、旅行に行くなら、気心の知れたやつらとがいい。たとえば――」
たとえば?
安心で、膝の力が抜けて、ちょっと涙も出てきちゃう。
ただでさえ霧で見えにくい視界に、黒ずくめのすらりとした姿が現れた。
「――たとえば、君だ、凛。今度、みんなでどこかに行こう。京都でもいいし、もっとどこか、近いところでもいいな」
微笑む月詠さんに、私はこくこくとうなずいた。
「でもその前に、あいつをなんとかしないといかんな」
「おのれ、こわっぱの吸血鬼か! かまわん、叩き切ってくれる!」
「おれのいない隙をこそこそ狙ってた、情けないデュラハンがよく言うぜ!」
首なし鎧――デュラハン?――が、私たちを見つけて、霧をかき分け切りかかってきた。
月詠さんはまた体を霧にすると、今度はデュラハンの頭の上に現れる。
「そらよ!」
「ぬうっ!」
月詠さんが打ち下ろしたこぶしと、デュラハンが切り上げた剣が、両方とも相手に当たった。
「月詠さん!?」
「心配するな、かすっただけだ! もっと離れてろ!」
月詠さんは、霧になったり実体になったりを繰り返しながら、デュラハンの周りを素早く回って攻撃する。
パンチや蹴りが何度も鎧を叩いたけど、決定的なダメージは与えられてないみたいだった。
デュラハンは、ぶんぶんと巨大な剣を振り回し続けてる。
あんなのをまともに受けたら、いくら月詠さんだってどうなるか分からない。
「はははあ、貴様吸血鬼といってもヴァンパイア・ハーフらしいな。その細腕では、技の威力もそんなものか!」
「岩みたいな鎧着といてなに言ってやがる! だったらそれ脱いで戦ってみろってんだ!」
「ぬう、減らず口を!」
「とはいえ、正面からの殴り合いじゃ、らちが明かなさそうだな。……凛!」
「は、はいっ!?」
「このあたり――君の家の近くに、水場はあるか? 川とか、湖とかだ!」
えっ!
か、川とか湖!?
うちの近くは新しい建物が多くて、マンションやスーパーはあるけど、そんなにまとまった水場なんて思いつかない。
えーと、えーと……
あっ!
「あります! ビオトープが!」
「ビオ……なに?」
「えっと、私も正確な意味は分からないんですけど……水辺に植物がたくさん植えられてて、自然の生き物が暮らせる空間みたいなやつです!」
「確かにあんまり詳しくない感じの説明をありがとうよ! とりあえずそこに行ってみるから、案内してくれ!」
私はきょろきょろと周りを見回した。
スミレワタリがふわふわと飛んで、遠くには知らない森と山。
彼岸からなんて、どうやって案内していいか分からない。
「心配するな、今から彼岸を抜けて、現世に戻る! いいか、そこから九十度右を向いて、まっすぐに走れ。いいな、まっすぐだぞ」
「は、はい」
言われたとおりに、私は駆け出した。
後ろから、月詠さんとデュラハンが追いかけてくる気配を感じる。
うう、怖くて振り向けない。
でも、これでいいんだよね?
「よし、いいぞ凛。もう少しだ。三、二、一……抜けた!」
月詠さんがそう言うのと同時に、あたりの様子が一気に変わった。
見慣れた街並み。
アスファルト、街灯、塀、民家。
「も、戻った!? 戻りました!」
「じゃあ、そのビオトープとやらはどこにある!?」
「あっちに、何百メートルか行ったとこです!」
私は、見当をつけて指さした。
「オーケー!」
月詠さんが両手を横に広げると、コウモリのような羽が背中に生えた。
「それじゃあデュラハン、つき合ってもらうぜ! さっき、細腕がどうのと言ってくれたなあ!」
「うっ!? なにをする、やめろ!」
月詠さんは、デュラハンの鎧の首のあたりをつかむと、空に舞い上がった。
「凛、玄関のカギは開けておいたぞ! 靴履いて、一緒に来るか!?」
迷うわけがない。
「行きます!」
私はドアを素早く開けて、スニーカーを履き、また外に飛び出した。
それから戸締りし忘れたことに気づいて、慌ててカギを閉めてまた出る。
うう、しまらないな。
月明かりの中、月詠さんは夜空を羽ばたいて、まっすぐにビオトープに向かう。
そして真上に来たあたりで、一気に急降下した。そのせいで、姿が見えなくなる。
さばあん、と水しぶきが上がる音が聞こえた。
「つ、月詠、さあん。無事ですかあ」
ようやくビオトープに着いた私が、あたりの道路よりも一段低くなってる水場を見下ろすと、真ん中あたりに二つの人影があった。
ビオトープの敷地は、長さ百メートルくらいの楕円形で、下へ降りていくための階段や遊歩道が整備されてる。
水辺でよく見るけど名前は知らないような植物が、真夏ほどではないけど、たくさん生い茂ってた。
月詠さんは、激しく戦ってたりはしておらず、ただ水場の中にたたずんでた。
その足元に、デュラハンの鎧が横たわってる。少しずつ、沈んでるように見えた。
「デュラハン。お前が、水を苦手にしているのは知ってる。その鎧を構成している霊力が、水に触れると流れて消えていくんだよな。……どうだ、もう凛に悪さをしないと誓うなら、そこから出してやるぞ」
「貴様、……吸血鬼とて、水は弱点のはずだ……なぜ、平然としている……」
「おれたちの場合は、流れる川が渡れないだけだ。最もこのおれは、それすら克服したけどな。……お前も、人とともにあろうとしていれば、水や川にも慣れて、こんな負け方はしなくて済んだはずだぜ」
「ふざけるな。あの娘の霊力が手に入らんのなら、怪異として潔く消え去る……のみだ……」
「……そうかよ。……じゃあな」
月詠さんはそう言って、岸に上がった。
デュラハンの鎧は、水の中に沈んでみえなくなっちゃった。
「お待たせ。怖い思いさせて、悪かったな」
「あの、デュラハンて……死んじゃったんですか?」
「人間でいうところの死とは少し違うが。今さっきのあいつが滅びたのは、その通りだ。今頃、ルチルのほうにいるらしい馬も消滅してるだろうよ」
「あんな目にあったのに、変ですけど……なんだか、寂しいですね」
「そうだな。本当は、あいつに、凛へ詫びさせようとしたんだが。できなかったよ」
「えっ。いいんですよ、そんな」
でも、手を振りながら見た月詠さんの目は真剣で、私は手の動きを止める。
「無事でよかった。戻ってきてよかったよ。……お、ステラも来たな」
後ろのほうから、ふわふわとステラちゃんが飛んできた。
「は、しかし、腹が減ったな。夕飯抜きで飛んできたから、どこかでハンバーガーでも食べて帰るか」
「あ、晩ご飯まだなんですね」
「おうよ。今の戦いで霊力を消耗したから、また植物園で補充していくかな」
「あ」
思いついちゃった。
言っていいかな。……いいよね?
「ん? どうした?」
「あの、それって、面倒じゃないですか? 植物園に行くなら、そこでご飯食べればいいのでは」
「確かにそうなんだが、あそこの周りに適当な店がないからなあ」
「そ、それなら、よかったらなんですけど」
「おう?」
「私、お弁当詰めるので、よかったら一緒に食べませんか?」
■
「ステラちゃん! だめ!」
私と首なし鎧の間に立ちはだかろうとする(体が小さいからそう見えないけど、きっとそう)ステラちゃんを、慌ててつかんで引き戻した。
どうしよう。
どうすればいいの。
私一人で、怪異に立ち向かう方法なんて……
すると、低い声が聞こえてきた。
「あの半吸血鬼は、おらんのだろう。こざかしいカラスも、離れた」
首なし鎧の声みたいだ。
首がないのにどこでしゃべってるんだろうと思って、よく見たせいで、体中に鳥肌が立った。
首なし鎧は、左手に、生首を持ってた。
その口が動いてる。この鎧姿の、頭がそれらしい。
「じゃあ……まゆの家に現れた馬は」
「我が愛馬よ。貴様の友人を襲えば、カラスはそちらに出向くと思ったからな」
そんな。
なら、やっぱり、まゆは私のせいで怖い目に遭ったんだ。
「今なら貴様は、ただのか弱い小娘にすぎん。その魂、いただくぞ」
首なし鎧が、剣を振りかぶった。
周りを見ても、身を守れそうなものはない。逃げようにも、足元が分厚い草で変にふかふかしてて、力が上手く入らない。
靴を履いてなかったので、靴下のすぐ下から、奇妙な感触が伝わってくる。これじゃ、うまく走れる気がしないよ。
これは……もう……
「みー!」
私の手の力が緩んだすきに、ステラちゃんが飛び出した。
「ステラちゃん!」
ステラちゃんは首なし鎧の周りをびゅんびゅんと飛んで、たまに左手に持った頭にくちばしで突きを入れる。
「みーみー!」
「うっとうしいぞ、怪異の出来損ないが!」
ぶん、と首なし鎧が剣を振った。
ステラちゃんは、直撃はしなかったものの、その風圧で吹っ飛ばされて、私の足元にぽとりと落ちる。
「みー……」
「ステラちゃん! もういいよ、こっちにおいで!」
危うく、弱気になるところだった。ステラちゃんのおかげで、強気を取り戻せた。
こんなに小さな体で頑張ってくれてるのに、私があきらめちゃだめだよね。
精一杯、抵抗してやる。
そうすればきっと、ルチルさんが来てくれる。
歯を食いしばって、覚悟を決めた。
……その時。
暗い空間に、白いもやがかかりだした。
こんなところで、急に、霧? 川もないのに? ……ううん、違う。これは、見覚えがある。
たぶん、そうだ。当たってる。
どうしてか、私は、この霧を見間違えることはないっていう、自信があった。
でも、なんで? 今ここに、その人がいるはずないのに。
「遅くなって悪かった、凛」
どこからともなく響く声。
「京都は……どうしたんですか」
アミュレットで危険を察してくれたとしても、新幹線でも何時間もかかる距離なのに。
「半日ほどだが、味わい深い体験をしたよ。でも、楽しければ楽しいほど、足りないものが気になってな。夢野はもう少し京都を見たいっていうんで、あいつ置いて、帰ってきてしまった」
霧の白色が、どんどん濃くなる。
首なし鎧が、「なんだこれは!?」と言いながら、ぶんぶんとあてもなく剣を振ってる姿が、見えなくなっていく。
「なんですか、足りないものって」
「修学旅行もいいけどな。おれは、旅行に行くなら、気心の知れたやつらとがいい。たとえば――」
たとえば?
安心で、膝の力が抜けて、ちょっと涙も出てきちゃう。
ただでさえ霧で見えにくい視界に、黒ずくめのすらりとした姿が現れた。
「――たとえば、君だ、凛。今度、みんなでどこかに行こう。京都でもいいし、もっとどこか、近いところでもいいな」
微笑む月詠さんに、私はこくこくとうなずいた。
「でもその前に、あいつをなんとかしないといかんな」
「おのれ、こわっぱの吸血鬼か! かまわん、叩き切ってくれる!」
「おれのいない隙をこそこそ狙ってた、情けないデュラハンがよく言うぜ!」
首なし鎧――デュラハン?――が、私たちを見つけて、霧をかき分け切りかかってきた。
月詠さんはまた体を霧にすると、今度はデュラハンの頭の上に現れる。
「そらよ!」
「ぬうっ!」
月詠さんが打ち下ろしたこぶしと、デュラハンが切り上げた剣が、両方とも相手に当たった。
「月詠さん!?」
「心配するな、かすっただけだ! もっと離れてろ!」
月詠さんは、霧になったり実体になったりを繰り返しながら、デュラハンの周りを素早く回って攻撃する。
パンチや蹴りが何度も鎧を叩いたけど、決定的なダメージは与えられてないみたいだった。
デュラハンは、ぶんぶんと巨大な剣を振り回し続けてる。
あんなのをまともに受けたら、いくら月詠さんだってどうなるか分からない。
「はははあ、貴様吸血鬼といってもヴァンパイア・ハーフらしいな。その細腕では、技の威力もそんなものか!」
「岩みたいな鎧着といてなに言ってやがる! だったらそれ脱いで戦ってみろってんだ!」
「ぬう、減らず口を!」
「とはいえ、正面からの殴り合いじゃ、らちが明かなさそうだな。……凛!」
「は、はいっ!?」
「このあたり――君の家の近くに、水場はあるか? 川とか、湖とかだ!」
えっ!
か、川とか湖!?
うちの近くは新しい建物が多くて、マンションやスーパーはあるけど、そんなにまとまった水場なんて思いつかない。
えーと、えーと……
あっ!
「あります! ビオトープが!」
「ビオ……なに?」
「えっと、私も正確な意味は分からないんですけど……水辺に植物がたくさん植えられてて、自然の生き物が暮らせる空間みたいなやつです!」
「確かにあんまり詳しくない感じの説明をありがとうよ! とりあえずそこに行ってみるから、案内してくれ!」
私はきょろきょろと周りを見回した。
スミレワタリがふわふわと飛んで、遠くには知らない森と山。
彼岸からなんて、どうやって案内していいか分からない。
「心配するな、今から彼岸を抜けて、現世に戻る! いいか、そこから九十度右を向いて、まっすぐに走れ。いいな、まっすぐだぞ」
「は、はい」
言われたとおりに、私は駆け出した。
後ろから、月詠さんとデュラハンが追いかけてくる気配を感じる。
うう、怖くて振り向けない。
でも、これでいいんだよね?
「よし、いいぞ凛。もう少しだ。三、二、一……抜けた!」
月詠さんがそう言うのと同時に、あたりの様子が一気に変わった。
見慣れた街並み。
アスファルト、街灯、塀、民家。
「も、戻った!? 戻りました!」
「じゃあ、そのビオトープとやらはどこにある!?」
「あっちに、何百メートルか行ったとこです!」
私は、見当をつけて指さした。
「オーケー!」
月詠さんが両手を横に広げると、コウモリのような羽が背中に生えた。
「それじゃあデュラハン、つき合ってもらうぜ! さっき、細腕がどうのと言ってくれたなあ!」
「うっ!? なにをする、やめろ!」
月詠さんは、デュラハンの鎧の首のあたりをつかむと、空に舞い上がった。
「凛、玄関のカギは開けておいたぞ! 靴履いて、一緒に来るか!?」
迷うわけがない。
「行きます!」
私はドアを素早く開けて、スニーカーを履き、また外に飛び出した。
それから戸締りし忘れたことに気づいて、慌ててカギを閉めてまた出る。
うう、しまらないな。
月明かりの中、月詠さんは夜空を羽ばたいて、まっすぐにビオトープに向かう。
そして真上に来たあたりで、一気に急降下した。そのせいで、姿が見えなくなる。
さばあん、と水しぶきが上がる音が聞こえた。
「つ、月詠、さあん。無事ですかあ」
ようやくビオトープに着いた私が、あたりの道路よりも一段低くなってる水場を見下ろすと、真ん中あたりに二つの人影があった。
ビオトープの敷地は、長さ百メートルくらいの楕円形で、下へ降りていくための階段や遊歩道が整備されてる。
水辺でよく見るけど名前は知らないような植物が、真夏ほどではないけど、たくさん生い茂ってた。
月詠さんは、激しく戦ってたりはしておらず、ただ水場の中にたたずんでた。
その足元に、デュラハンの鎧が横たわってる。少しずつ、沈んでるように見えた。
「デュラハン。お前が、水を苦手にしているのは知ってる。その鎧を構成している霊力が、水に触れると流れて消えていくんだよな。……どうだ、もう凛に悪さをしないと誓うなら、そこから出してやるぞ」
「貴様、……吸血鬼とて、水は弱点のはずだ……なぜ、平然としている……」
「おれたちの場合は、流れる川が渡れないだけだ。最もこのおれは、それすら克服したけどな。……お前も、人とともにあろうとしていれば、水や川にも慣れて、こんな負け方はしなくて済んだはずだぜ」
「ふざけるな。あの娘の霊力が手に入らんのなら、怪異として潔く消え去る……のみだ……」
「……そうかよ。……じゃあな」
月詠さんはそう言って、岸に上がった。
デュラハンの鎧は、水の中に沈んでみえなくなっちゃった。
「お待たせ。怖い思いさせて、悪かったな」
「あの、デュラハンて……死んじゃったんですか?」
「人間でいうところの死とは少し違うが。今さっきのあいつが滅びたのは、その通りだ。今頃、ルチルのほうにいるらしい馬も消滅してるだろうよ」
「あんな目にあったのに、変ですけど……なんだか、寂しいですね」
「そうだな。本当は、あいつに、凛へ詫びさせようとしたんだが。できなかったよ」
「えっ。いいんですよ、そんな」
でも、手を振りながら見た月詠さんの目は真剣で、私は手の動きを止める。
「無事でよかった。戻ってきてよかったよ。……お、ステラも来たな」
後ろのほうから、ふわふわとステラちゃんが飛んできた。
「は、しかし、腹が減ったな。夕飯抜きで飛んできたから、どこかでハンバーガーでも食べて帰るか」
「あ、晩ご飯まだなんですね」
「おうよ。今の戦いで霊力を消耗したから、また植物園で補充していくかな」
「あ」
思いついちゃった。
言っていいかな。……いいよね?
「ん? どうした?」
「あの、それって、面倒じゃないですか? 植物園に行くなら、そこでご飯食べればいいのでは」
「確かにそうなんだが、あそこの周りに適当な店がないからなあ」
「そ、それなら、よかったらなんですけど」
「おう?」
「私、お弁当詰めるので、よかったら一緒に食べませんか?」
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