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第二章 ダンテと離婚希望の君7
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ダンテが一気にダッシュした。
リドーレは、作戦通りゴール前に走り込む。
ダンテに、二人の相手選手が飛びかかってきた。
私は、それを見た瞬間に、魔道の発動体制に入る。
「爆ぜろ、――」
「ルリエル!」
「オッケー、爆炎よッ!」
最近自分でもあまり見ていなかったレベルの、容赦ない火柱が、フィールドから噴き上がった。
さっきの二人が上空に吹っ飛ばされ、ぼとぼとと地面に落ちる。
そして、確かにけがしていないのを確認する(落下のダメージもないようだ)と、私は次の魔法をつがえた。
「穿て、――」
相手の誰かが、「ま、待てよ! なんだよあの魔道……」と悲鳴を上げたけど。
「待たないっ! 紫焔よッ!」
私の右手のひらから飛び出した紫色の炎の矢が二発、遠間にいた敵のもう二人を直撃した。
これも、けがさせることなくただ転ばせただけだったけど、衝撃がゼロというわけではないらしく、しばらく立ち上がっては来られない。
「はあっはっは! がら空きだなあ!」
ダンテが突進する。
残る四人のうち、魔術師らしい一人が、「盾よ!」と叫んだ。すると、彼ら四人の体の前に、光の盾が現れる。
よおし、あんなものかいくぐる技はいくらでもあるけど、
「逆巻け、――」
ここは潔く、正面から出力勝負!
「渦炎よッ!」
渦を巻いて殺到した炎の帯が、光の盾をあっさりと砕き、四人ともを巻き込んで炸裂した。四つの人影が空中に舞い、またもぼとぼとと落ちる。
うち二人はキーパーだったので、完全に敵ゴールが無防備になった。
「リドーレ!」
「は、はいい!」
ダンテからリドーレへのパス。
今度はしっかり受け取ったリドーレは、ボールをきっちりとゴールの中に投げ込んだ。
実況が叫ぶ。
『ゴオオオオル! ダンテのカットインからのアシスト、そしてリドーレが決めたああ! それをおぜん立てしたのは、赤いマスクの魔道士! なんというフロントラインかああああ!』
リドーレが自分の手を見て、
「ゴール……いつ振りだ……?」
と呟く。
それをダンテが、
「おら、センターサークルに戻れ戻れ! すぐにもう一点だ!」
「は、は、はいいい!」
私も、再び魔素を収束して、構成し、錬成を準備する。
「う、ううう……くそ……」と復活した相手チームが立ち上がり、陣形を整えた。
「フェイス・オフ!」と再び審判が告げる。
それと同時に私は、
「舞え、――」
「嘘だろ!?」と敵チーム
「嘘じゃないっ! 火群よッ!」
数十個の火球が、雨あられとフィールドの一角に降り注いだ。
ボールを取りに来ていた敵チームがその威力でなぎ倒されて、ダンテがやすやすとボールを捕まえる。
「よし、速攻!」
「はいい!」
もともと、ダンテの突破は、一筋縄では止められない代物のようだった。
相手はどうしてもダンテを食い止めるほうに注意が行き、そうなると私の魔道を直撃で食らってしまう。
かといって私の魔道を警戒していると、集中力が散漫になって、ダンテに抜き去られてしまう。
向こうの魔術師も耐久力アップやスピードアップの魔術を使ってくるんだけど、スピードアップは効果が切れるまで爆炎で空中に吹き飛ばし続けていればいいし、少々の耐久力アップでは私の魔道は止められなかった。
『こ、これは、メメン・トモモリの一方的な攻勢になってきました! とにかく、本日特別加入の魔道士が、リョシナカの面々を片っ端から吹っ飛ばす! 落ちてきては吹っ飛び、落ちてきては吹っ飛んで、もはやお手玉状態! かつてこんな戦術があったでしょうか!? どういう威力と魔力量をしているんでしょう!?』
そうか、普通の魔法使いだと、三十分ハーフの間ずっと魔法なんて使い続けられないから、こういう戦い方は無理なのか、と今更気づいた。
逆に言えば、それができるプレイヤーならなんの遠慮もなく魔法を使い放題なわけで、つまり私は計六十分の間、好きに魔道を撃ちっぱなしでいられると。
「よおおおおし、燃えてきたわっ! 爆炎よッ!」
どごおんっ!
「渦炎よッ! 」
きゅぼおっ!
「火群よッ!」
ばごごごご!
「紫焔よッ!」
ずどどどんっ!
「爆炎よ爆炎よ爆炎よッッッ!」
どん、どん、どばごおん……!
ああ、気持ちいい!
かつて、こんなに気持ちいい対人魔道攻撃があっただろうか。
合法的に、お日様の下で、相手にけがをさせることもなく、全力でぶっぱなし放題!
「ルリエル……よだれ垂れてるぞ」
いつの間にか隣に来ていたダンテにそう言われて、我に返る。
ふと客席を見ると、キールが嬉しそうに拍手してくれていた。リシュは若干、引いていた。
「あ、え、う、嘘。あれ、今何対何? 試合時間てあと何分?」
「今、十五対ゼロだな。ちなみに前半は残り十分くらいだ。ここまで、全得点をリドーレが決めてる。全アシストはおれだがな。歴史的な点数だぜ。……まあ、今日の試合は奴のプレイヤーとしての評価にはつながらんだろうが、いい思い出にはなるだろ」
そうか。それじゃあ……
「この、魔道ボーナスタイムは、後半入れてもあと四十分ほどで終わっちゃうのね……」
「……いや、それはどうとは言わんが、ちったあ相手のことも考えてやったらどうだ? 敵チームの半分くらい、泣き始めてるぞ」
「私、真剣勝負に臨んで手を抜くっていうのは、最大級の侮辱だと思ってるの」
「……あそう」
「というわけで、――爆炎よッ!」
私たちは戦法を変えないまま、戦い続けた。
ただし、全てがこちらの目論見通りにはいかなかった。誤算もあった。
前半終了時点、二十八対ゼロのスコアが積み上がった時。
敵チームの監督が危険を申し入れてきて、私たちの試合は、前半だけで終了した。
なお、一試合だけで今シーズンの得点王になれそうなゴールを挙げたリドーレは、顔から色んな液体を流して喜んでいた。
……けど、棄権試合になったことで、その得点記録が参考記録になってしまったことは、一応記しておく。
■
「嘘……だろ?」
「本当よ。別れてください」
試合の後、私とダンテがつき添って、フルクトラさんはリドーレと相対した。
場所は、邪魔が入らないよう、スタジアムからそう離れていないホテルの一室を借りていた。
セレラは、隣に借りたもう一室で、キールに見てもらっている。リシュには、買い出しの荷物を持って先に帰ってもらった。
「な、なんでだよ……なんで今日、こんな人生最良の日に、そんなことを言う……おれは今日から、生まれ変わると思ったのに……あんな活躍をして、今までにない点を決めて……」
「今日の活躍は、全部、ダンテさんとルリエルさんのお陰でしょう」
ぴしゃりと言われて、リドーレが怯んだ。
「い、今まで、夫婦としてやってきたじゃないか……それなのに、おれを棄てるのか? あの、傷ついて、裏通りをとぼとぼ歩いてたお前を、おれが救ってやったのに……」
「出会った頃、王宮で体操局の役員をしているという嘘をつかれて、……その後、本当はお酒を飲んでばかりのマジカルボウルの二軍選手と知って……あの時、別れるべきだったの。そんな大切なことで、これから一緒に暮らしていく相手に、嘘をつくような人とは」
「そ、それは、お前を愛していたから……」
「お酒を飲んで、好き勝手に振舞うのを支えて欲しかったから? そんな都合のいい愛は、愛とは言いません」
ぎし、とリドーレが歯ぎしりした。かちかちと奥歯を鳴らしてから、口を開く。
「な、なら、こっちだって言わせてもらうけどな。プレッシャーなんだよ。男が欲しそうだったから手を出してやったのに、結婚が決まったら、化粧も服もいかにも女として見られようとしやがって。それはこっちだって、身も心も愛してやるって言ったさ。でも、リップサービスってもんもあるだろ。お前の気分をよくしてやろうと思って言っただけだ、その責任取れなんて言われたって萎えるんだよ」
「なにそれ……責任ってなに!? 私は、そんなこと言ってない!」
「言ってなくても伝わるもんなんだよ。ちょっとちょっかい出されただけで、露骨に抱かれたがりやがって!」
なっ……。こ、このお。
思わず、進み出そうになったけれど。
先にフルクトラさんが言い返した。
「なら、そうかもしれない。そういう気持ちが、私には確かにあったから。でも、今はもう違う。自分に欠けているものを、あなたで埋め合わせようっていう気持ちは、もう全然ない。あなたも、同じ気持ちってことよね」
話が離婚の方向へ進んで、リドーレが、しまったというよにちょっと後ずさった。
おお。いいぞ、フルクトラさん。
思わず私は拳を握った。
けれど、その一方で。
「お、お、お前……そんな言い方……」
リドーレは、言葉だけじゃなく、手も震えていた。アルコールの禁断症状だろうか。
彼の目に、どんよりと濁った光が走っている。あまり追い詰めると、危険かもしれない。
その時、ダンテが、二人の間に割って入った。さすがだな、こういうところ。
「今日のゲームは、フルクトラさんから、お前への最後の土産だ。いい思いしただろう? 若い頃はずいぶん期待されていたんだろう、その頃を思い出してやり直せよ。自分の力でな。フルクトラさんとセレラがお前の人生に寄り添うのは、ここまでだ」
「か、勝手な……勝手なことを言って……」
「勝手なことは、お前がし続けてきたんだ。これはその、ただの結果だよ。フルクトラさんは、今の家はお前にやるとよ。引っ越しにはおれとルリエルがつき合う。妙な真似するんじゃねえぞ」
リドーレが、いよいよ全身を震わせて、怒りを隠さなくなった。
「セレラも……奪うっていうのか……やっと手に入った、おれの子供を……本当にかわいがってきたのに……」
「だから、お前の因果応報で、その子供を失うんだ。稼ぎもないのに一人でお使いにやって酒買わせて、お前の本当ってなんなんだよ」
「あ、あい、愛してた……おれなりに……」
「その愛が仮に、いいか仮にだぞ、正しいものだったとしても、伝え方を間違えていれば、人を幸せにはしない。人の気持ちを考えない親切が、本当の優しさとは言えないようにだ。一方で、人から忌まれる行為でも、本当に相手と向き合えば、救いをもたらすことはある。たとえば、……マジカルボウルや素手格闘をやめてから、おれが今至った場所なんかは、そういうところだ」
ダンテが私に目配せした。
……たまに嬉しいこと言ってくれるな、こやつめ。
リドーレは、作戦通りゴール前に走り込む。
ダンテに、二人の相手選手が飛びかかってきた。
私は、それを見た瞬間に、魔道の発動体制に入る。
「爆ぜろ、――」
「ルリエル!」
「オッケー、爆炎よッ!」
最近自分でもあまり見ていなかったレベルの、容赦ない火柱が、フィールドから噴き上がった。
さっきの二人が上空に吹っ飛ばされ、ぼとぼとと地面に落ちる。
そして、確かにけがしていないのを確認する(落下のダメージもないようだ)と、私は次の魔法をつがえた。
「穿て、――」
相手の誰かが、「ま、待てよ! なんだよあの魔道……」と悲鳴を上げたけど。
「待たないっ! 紫焔よッ!」
私の右手のひらから飛び出した紫色の炎の矢が二発、遠間にいた敵のもう二人を直撃した。
これも、けがさせることなくただ転ばせただけだったけど、衝撃がゼロというわけではないらしく、しばらく立ち上がっては来られない。
「はあっはっは! がら空きだなあ!」
ダンテが突進する。
残る四人のうち、魔術師らしい一人が、「盾よ!」と叫んだ。すると、彼ら四人の体の前に、光の盾が現れる。
よおし、あんなものかいくぐる技はいくらでもあるけど、
「逆巻け、――」
ここは潔く、正面から出力勝負!
「渦炎よッ!」
渦を巻いて殺到した炎の帯が、光の盾をあっさりと砕き、四人ともを巻き込んで炸裂した。四つの人影が空中に舞い、またもぼとぼとと落ちる。
うち二人はキーパーだったので、完全に敵ゴールが無防備になった。
「リドーレ!」
「は、はいい!」
ダンテからリドーレへのパス。
今度はしっかり受け取ったリドーレは、ボールをきっちりとゴールの中に投げ込んだ。
実況が叫ぶ。
『ゴオオオオル! ダンテのカットインからのアシスト、そしてリドーレが決めたああ! それをおぜん立てしたのは、赤いマスクの魔道士! なんというフロントラインかああああ!』
リドーレが自分の手を見て、
「ゴール……いつ振りだ……?」
と呟く。
それをダンテが、
「おら、センターサークルに戻れ戻れ! すぐにもう一点だ!」
「は、は、はいいい!」
私も、再び魔素を収束して、構成し、錬成を準備する。
「う、ううう……くそ……」と復活した相手チームが立ち上がり、陣形を整えた。
「フェイス・オフ!」と再び審判が告げる。
それと同時に私は、
「舞え、――」
「嘘だろ!?」と敵チーム
「嘘じゃないっ! 火群よッ!」
数十個の火球が、雨あられとフィールドの一角に降り注いだ。
ボールを取りに来ていた敵チームがその威力でなぎ倒されて、ダンテがやすやすとボールを捕まえる。
「よし、速攻!」
「はいい!」
もともと、ダンテの突破は、一筋縄では止められない代物のようだった。
相手はどうしてもダンテを食い止めるほうに注意が行き、そうなると私の魔道を直撃で食らってしまう。
かといって私の魔道を警戒していると、集中力が散漫になって、ダンテに抜き去られてしまう。
向こうの魔術師も耐久力アップやスピードアップの魔術を使ってくるんだけど、スピードアップは効果が切れるまで爆炎で空中に吹き飛ばし続けていればいいし、少々の耐久力アップでは私の魔道は止められなかった。
『こ、これは、メメン・トモモリの一方的な攻勢になってきました! とにかく、本日特別加入の魔道士が、リョシナカの面々を片っ端から吹っ飛ばす! 落ちてきては吹っ飛び、落ちてきては吹っ飛んで、もはやお手玉状態! かつてこんな戦術があったでしょうか!? どういう威力と魔力量をしているんでしょう!?』
そうか、普通の魔法使いだと、三十分ハーフの間ずっと魔法なんて使い続けられないから、こういう戦い方は無理なのか、と今更気づいた。
逆に言えば、それができるプレイヤーならなんの遠慮もなく魔法を使い放題なわけで、つまり私は計六十分の間、好きに魔道を撃ちっぱなしでいられると。
「よおおおおし、燃えてきたわっ! 爆炎よッ!」
どごおんっ!
「渦炎よッ! 」
きゅぼおっ!
「火群よッ!」
ばごごごご!
「紫焔よッ!」
ずどどどんっ!
「爆炎よ爆炎よ爆炎よッッッ!」
どん、どん、どばごおん……!
ああ、気持ちいい!
かつて、こんなに気持ちいい対人魔道攻撃があっただろうか。
合法的に、お日様の下で、相手にけがをさせることもなく、全力でぶっぱなし放題!
「ルリエル……よだれ垂れてるぞ」
いつの間にか隣に来ていたダンテにそう言われて、我に返る。
ふと客席を見ると、キールが嬉しそうに拍手してくれていた。リシュは若干、引いていた。
「あ、え、う、嘘。あれ、今何対何? 試合時間てあと何分?」
「今、十五対ゼロだな。ちなみに前半は残り十分くらいだ。ここまで、全得点をリドーレが決めてる。全アシストはおれだがな。歴史的な点数だぜ。……まあ、今日の試合は奴のプレイヤーとしての評価にはつながらんだろうが、いい思い出にはなるだろ」
そうか。それじゃあ……
「この、魔道ボーナスタイムは、後半入れてもあと四十分ほどで終わっちゃうのね……」
「……いや、それはどうとは言わんが、ちったあ相手のことも考えてやったらどうだ? 敵チームの半分くらい、泣き始めてるぞ」
「私、真剣勝負に臨んで手を抜くっていうのは、最大級の侮辱だと思ってるの」
「……あそう」
「というわけで、――爆炎よッ!」
私たちは戦法を変えないまま、戦い続けた。
ただし、全てがこちらの目論見通りにはいかなかった。誤算もあった。
前半終了時点、二十八対ゼロのスコアが積み上がった時。
敵チームの監督が危険を申し入れてきて、私たちの試合は、前半だけで終了した。
なお、一試合だけで今シーズンの得点王になれそうなゴールを挙げたリドーレは、顔から色んな液体を流して喜んでいた。
……けど、棄権試合になったことで、その得点記録が参考記録になってしまったことは、一応記しておく。
■
「嘘……だろ?」
「本当よ。別れてください」
試合の後、私とダンテがつき添って、フルクトラさんはリドーレと相対した。
場所は、邪魔が入らないよう、スタジアムからそう離れていないホテルの一室を借りていた。
セレラは、隣に借りたもう一室で、キールに見てもらっている。リシュには、買い出しの荷物を持って先に帰ってもらった。
「な、なんでだよ……なんで今日、こんな人生最良の日に、そんなことを言う……おれは今日から、生まれ変わると思ったのに……あんな活躍をして、今までにない点を決めて……」
「今日の活躍は、全部、ダンテさんとルリエルさんのお陰でしょう」
ぴしゃりと言われて、リドーレが怯んだ。
「い、今まで、夫婦としてやってきたじゃないか……それなのに、おれを棄てるのか? あの、傷ついて、裏通りをとぼとぼ歩いてたお前を、おれが救ってやったのに……」
「出会った頃、王宮で体操局の役員をしているという嘘をつかれて、……その後、本当はお酒を飲んでばかりのマジカルボウルの二軍選手と知って……あの時、別れるべきだったの。そんな大切なことで、これから一緒に暮らしていく相手に、嘘をつくような人とは」
「そ、それは、お前を愛していたから……」
「お酒を飲んで、好き勝手に振舞うのを支えて欲しかったから? そんな都合のいい愛は、愛とは言いません」
ぎし、とリドーレが歯ぎしりした。かちかちと奥歯を鳴らしてから、口を開く。
「な、なら、こっちだって言わせてもらうけどな。プレッシャーなんだよ。男が欲しそうだったから手を出してやったのに、結婚が決まったら、化粧も服もいかにも女として見られようとしやがって。それはこっちだって、身も心も愛してやるって言ったさ。でも、リップサービスってもんもあるだろ。お前の気分をよくしてやろうと思って言っただけだ、その責任取れなんて言われたって萎えるんだよ」
「なにそれ……責任ってなに!? 私は、そんなこと言ってない!」
「言ってなくても伝わるもんなんだよ。ちょっとちょっかい出されただけで、露骨に抱かれたがりやがって!」
なっ……。こ、このお。
思わず、進み出そうになったけれど。
先にフルクトラさんが言い返した。
「なら、そうかもしれない。そういう気持ちが、私には確かにあったから。でも、今はもう違う。自分に欠けているものを、あなたで埋め合わせようっていう気持ちは、もう全然ない。あなたも、同じ気持ちってことよね」
話が離婚の方向へ進んで、リドーレが、しまったというよにちょっと後ずさった。
おお。いいぞ、フルクトラさん。
思わず私は拳を握った。
けれど、その一方で。
「お、お、お前……そんな言い方……」
リドーレは、言葉だけじゃなく、手も震えていた。アルコールの禁断症状だろうか。
彼の目に、どんよりと濁った光が走っている。あまり追い詰めると、危険かもしれない。
その時、ダンテが、二人の間に割って入った。さすがだな、こういうところ。
「今日のゲームは、フルクトラさんから、お前への最後の土産だ。いい思いしただろう? 若い頃はずいぶん期待されていたんだろう、その頃を思い出してやり直せよ。自分の力でな。フルクトラさんとセレラがお前の人生に寄り添うのは、ここまでだ」
「か、勝手な……勝手なことを言って……」
「勝手なことは、お前がし続けてきたんだ。これはその、ただの結果だよ。フルクトラさんは、今の家はお前にやるとよ。引っ越しにはおれとルリエルがつき合う。妙な真似するんじゃねえぞ」
リドーレが、いよいよ全身を震わせて、怒りを隠さなくなった。
「セレラも……奪うっていうのか……やっと手に入った、おれの子供を……本当にかわいがってきたのに……」
「だから、お前の因果応報で、その子供を失うんだ。稼ぎもないのに一人でお使いにやって酒買わせて、お前の本当ってなんなんだよ」
「あ、あい、愛してた……おれなりに……」
「その愛が仮に、いいか仮にだぞ、正しいものだったとしても、伝え方を間違えていれば、人を幸せにはしない。人の気持ちを考えない親切が、本当の優しさとは言えないようにだ。一方で、人から忌まれる行為でも、本当に相手と向き合えば、救いをもたらすことはある。たとえば、……マジカルボウルや素手格闘をやめてから、おれが今至った場所なんかは、そういうところだ」
ダンテが私に目配せした。
……たまに嬉しいこと言ってくれるな、こやつめ。
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