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ただの飲み友達
しおりを挟む文官勤めのカレンにとって、休日前の夜が一番心躍る瞬間だった。
仕事終わりにお気に入りの酒場で、大好きなお酒をしっぽり楽しむ___それがカレンのルーティンだ。
この為に生きていると言っても過言ではないほど、カレンはこの日を待ち遠しく思っていた。
(まぁ、最近はそれだけが理由ではないのだけれど___)
「あ、いたいた、カレン!」
カウンター席で一人、いつものように飲んでいたカレンは後ろを見てげんなりした。そこに片頬を真っ赤に腫らした男の姿があったからだ。
「グレン、あんた……また女の子を泣かせたのね?」
男の名はグレン。
簡単に言えば、カレンの飲み友達。補足するならば___女遊びの激しい、ただのチャラ男である。
カレンは呆れた口調で言ってやった。
「あんた、無駄に固いんだから……その子、手が痛かったんじゃない? 可哀想に…」
「え、俺の心配はしてくんないわけ?」
「クズにかける言葉なんかないわよ」
「ひでぇ~」
ひどい、と言う割には全然ダメージを受けてなさそうな表情で、ケタケタと笑う目の前の男。
(この会話、何度目かしら……)
反省という言葉を知らないこの男は、今日もまたどこかで女の子を不幸にして来たようだ。
来るもの拒まず、去る者追わず。風の吹くまま気の向くまま、本命を作ろうとしないグレンに泣かされて(憤怒して)きた女性は数知れず…。
修羅場後のグレンに遭遇するのは、もはやカレンの中では日常茶飯事だった。逆にこの男が無傷だった姿を最後に見たのはいつだったか……思い出す方が難しい。
そんなグレンは相も変わらずヘラヘラと、当たり前のようにカレンの隣に座り、いつものようにビールを注文する。
「あんたも飽きないわね……。いつか刺されるわよ」
「怖いこと言うなよな~。あ、でもカレンになら本望かも!」
「やめてよ、私を犯罪者にするつもり?」
軽口を言っては軽口で返す。そんなやり取りが二人の間では普通だった。
互いに気を張らず、楽に話せる相手。
「カレンと飲んでる時が一番楽だわ」
そんなことを口にするグレンに、カレンが返事をすることはなかった。
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