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第三章 鳥籠詩
十三話 裏返り
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◇
芽唯は驚愕した、そして愕然とした。
アナウンスもなしに、迷子の藍葉朔耶が見つかったからだ。
「良かった、芽唯ちゃん元気そうね。お姉ちゃん、心配してたのよ?」
「……いや、誰が誰の心配だって?あんたも相変わらずだわ」
朔耶はとても、マイペースな性格であった。
言っていいのか分からないが、勇太もよくこんなのと婚約したと思う。
確かに綺麗ではある、モデル並みに美人だ。
でも性格がちょっとおっとりし過ぎていて、実は八重桜の血でも混ざっているんじゃないかと本気で疑った事もあった程に。
魂鎮メでは至高とか言われているが、マイペース思考の思考を至高にもじっただけじゃんと芽唯は常々思っていた。
「あ~、後で蒼に謝らなきゃ……」
「蒼がどうかしたの?」
どうかしたの?
いやあんたがどうかしてんなと、芽唯は内心で呟いた。
家族に行方不明者が出てるのだから、それはもう心配もしただろうし、蒼に至っては血眼になって探していたもんだ。
これじゃあ蒼が浮かばれないなと、流石の芽唯も蒼が可哀そうになってきた。
そんな芽唯の、というか蒼の気苦労を知りもせずに朔耶は渚に視線を向ける。
「そちらの方は、興梠渚さんですね?」
「え?ウチを知ってるんですか?」
朔耶が渚へと声を掛けたのに対し、渚は驚いたような顔を見せてそう訊ねると、朔耶は微笑を浮かべながら言う。
「ええ、知っていますとも。私は藍葉朔耶、魂鎮メでは情報通で通っていますから。それにあなたのお兄さんは、勇太の先輩なのでしょう?勇太からも話は聞いていますよ」
「……そうですか。ほなら自己紹介はいりませんね」
そうして朔耶を加えた三人の面々は一度話を区切る。
芽唯はこれからどうするかを考えた。
朔耶を含めたこのメンバーでこのまま進むべきか、それとも朔耶は一度外に戻すべきかと。
朔耶の外見は、三年前と何も変わっていなかった。
恐らくだが髪の毛すらも伸びていない。
この地の時間が止まっているというだけあって朔耶は三年間何一つ変化していない、故に外に出た時に朔耶はどうなってしまうのか。
タイムラグが発生するのかしないのか、そんな朔耶の安否確認だけでも先にしておくべきだろうかと悩んでいたのだが。
「ちょっと待って芽唯ちゃん。もう一人、ここに来る人がいるの」
「……は?」
今なんて言った?もう一人?
芽唯の脳内で朔耶の言葉が反芻される。
もう一人この禁地に囚われていた人間という事だろうか。
それは一体誰のことか、実里の探していた友人だろうか。
もしかして、と一瞬だけ、記憶に過ってしまったのは。
母の顔だった。
「え?それって、まさか――」
すると入口の方向から、その人物はやって来た。
「――あー、やっと見つけたー。もう、探しましたよ」
そう言って芽唯の背後から掛けられた声が、芽唯の耳にも届いた。
母の声じゃない、それはそうかと少しだけ落胆してしまう。
けれど間違いなく、芽唯には聞き覚えのある声だった。
芽唯はそちらへと振り向く。
「やほー、芽唯ー!ひっさしぶりだねー。元気してた?」
オレンジ色の髪はゆるふわな巻き髪で、両耳には派手なピアスと首にはチョーカーにネックレス。
着ているのは初冬だというのにも関わらず、露出度の高いビキニのような服に肩を開けさせた申し訳程度の上着。
そう、芽唯はこいつを知っている。
アイドルユニット、LOVE※のメンバーの一人だ。
「……千夏。あんた、何でこんなとこに」
朝倉千夏。
芽唯の一つ歳上のメンバーで、芽唯同様モデルとしても活動していた。
そんなただの芸能人の筈の千夏が、何故ここにいるのか。
芽唯にはその意味が全く分からない。
「なんでって、そっか。まだ知らなかったんだね」
千夏は一度考え込むような素振りを見せたが、すぐに芽唯へと視線を合わせて、わざわざ遠回しな発言をする。
「ねえ芽唯?知らない方がいい事って、世の中いっぱいあると思わない?」
どことなく不穏な空気が流れ始める。
芽唯はこの人物に対して、良い印象を持っていないから余計にだ。
「いいから答えなさいよ」
「はぁ。……芽唯さぁ、自分は特別だとか思ってない?言っとくけど、メンバーみんな芽唯のそういうとこ、嫌いだったから」
そう言って千夏は微笑んで見せる。
「私は特に芽唯が嫌いだった。だからスマホも盗んだりしたし、ストーカーだって私が仕向けた。全部、芽唯が悪いんだよ?……でも今はね、私、殺女様の仲間になったんだ」
芽唯の理解を置き去りに、千夏はそのまま続ける。
「殺女様は今、大変ご立腹なの。魂鎮メの人たちの禁地を祓うペースが遅すぎるって。私らはね、芽唯たちに禁地を祓ってもらった方が都合が良かった。なのにあんまりにも仕事が遅いから、もう殺女様が直々に動くんだって」
そうして千夏は両手を広げながら、楽しそうに語り続ける。
「殺女様は素晴らしい方なの!理想が高い!私らただのアイドルじゃ到底見れないような夢を見させてくれるの!芽唯、黄泉ノ国って知ってる?そこにはあの世では抱えきれないような亡者が沢山いて、この世界にも干渉して来るんだって。殺女様はそんな黄泉ノ国の亡者を、あえてこの世界に引きずり降ろそうとしてるんだよ!映画みたいでワクワクするでしょ!?」
「あんた、さっきから何言って――」
千夏は芽唯の言葉も聞かずに、言う。
「という訳で、殺女様がお待ちですよ。お姉様?」
芽唯の隣から前に出て歩き出し、すぐに千夏の横に並んだ。
対面する形となった芽唯は、余計に意味が分からなくなる。
「……ねえ、どういう事?なんであんたがそっちに行くの?」
そう言われて千夏の横に並びながら。
不敵な笑みを浮かべる、渚であった――。
芽唯は驚愕した、そして愕然とした。
アナウンスもなしに、迷子の藍葉朔耶が見つかったからだ。
「良かった、芽唯ちゃん元気そうね。お姉ちゃん、心配してたのよ?」
「……いや、誰が誰の心配だって?あんたも相変わらずだわ」
朔耶はとても、マイペースな性格であった。
言っていいのか分からないが、勇太もよくこんなのと婚約したと思う。
確かに綺麗ではある、モデル並みに美人だ。
でも性格がちょっとおっとりし過ぎていて、実は八重桜の血でも混ざっているんじゃないかと本気で疑った事もあった程に。
魂鎮メでは至高とか言われているが、マイペース思考の思考を至高にもじっただけじゃんと芽唯は常々思っていた。
「あ~、後で蒼に謝らなきゃ……」
「蒼がどうかしたの?」
どうかしたの?
いやあんたがどうかしてんなと、芽唯は内心で呟いた。
家族に行方不明者が出てるのだから、それはもう心配もしただろうし、蒼に至っては血眼になって探していたもんだ。
これじゃあ蒼が浮かばれないなと、流石の芽唯も蒼が可哀そうになってきた。
そんな芽唯の、というか蒼の気苦労を知りもせずに朔耶は渚に視線を向ける。
「そちらの方は、興梠渚さんですね?」
「え?ウチを知ってるんですか?」
朔耶が渚へと声を掛けたのに対し、渚は驚いたような顔を見せてそう訊ねると、朔耶は微笑を浮かべながら言う。
「ええ、知っていますとも。私は藍葉朔耶、魂鎮メでは情報通で通っていますから。それにあなたのお兄さんは、勇太の先輩なのでしょう?勇太からも話は聞いていますよ」
「……そうですか。ほなら自己紹介はいりませんね」
そうして朔耶を加えた三人の面々は一度話を区切る。
芽唯はこれからどうするかを考えた。
朔耶を含めたこのメンバーでこのまま進むべきか、それとも朔耶は一度外に戻すべきかと。
朔耶の外見は、三年前と何も変わっていなかった。
恐らくだが髪の毛すらも伸びていない。
この地の時間が止まっているというだけあって朔耶は三年間何一つ変化していない、故に外に出た時に朔耶はどうなってしまうのか。
タイムラグが発生するのかしないのか、そんな朔耶の安否確認だけでも先にしておくべきだろうかと悩んでいたのだが。
「ちょっと待って芽唯ちゃん。もう一人、ここに来る人がいるの」
「……は?」
今なんて言った?もう一人?
芽唯の脳内で朔耶の言葉が反芻される。
もう一人この禁地に囚われていた人間という事だろうか。
それは一体誰のことか、実里の探していた友人だろうか。
もしかして、と一瞬だけ、記憶に過ってしまったのは。
母の顔だった。
「え?それって、まさか――」
すると入口の方向から、その人物はやって来た。
「――あー、やっと見つけたー。もう、探しましたよ」
そう言って芽唯の背後から掛けられた声が、芽唯の耳にも届いた。
母の声じゃない、それはそうかと少しだけ落胆してしまう。
けれど間違いなく、芽唯には聞き覚えのある声だった。
芽唯はそちらへと振り向く。
「やほー、芽唯ー!ひっさしぶりだねー。元気してた?」
オレンジ色の髪はゆるふわな巻き髪で、両耳には派手なピアスと首にはチョーカーにネックレス。
着ているのは初冬だというのにも関わらず、露出度の高いビキニのような服に肩を開けさせた申し訳程度の上着。
そう、芽唯はこいつを知っている。
アイドルユニット、LOVE※のメンバーの一人だ。
「……千夏。あんた、何でこんなとこに」
朝倉千夏。
芽唯の一つ歳上のメンバーで、芽唯同様モデルとしても活動していた。
そんなただの芸能人の筈の千夏が、何故ここにいるのか。
芽唯にはその意味が全く分からない。
「なんでって、そっか。まだ知らなかったんだね」
千夏は一度考え込むような素振りを見せたが、すぐに芽唯へと視線を合わせて、わざわざ遠回しな発言をする。
「ねえ芽唯?知らない方がいい事って、世の中いっぱいあると思わない?」
どことなく不穏な空気が流れ始める。
芽唯はこの人物に対して、良い印象を持っていないから余計にだ。
「いいから答えなさいよ」
「はぁ。……芽唯さぁ、自分は特別だとか思ってない?言っとくけど、メンバーみんな芽唯のそういうとこ、嫌いだったから」
そう言って千夏は微笑んで見せる。
「私は特に芽唯が嫌いだった。だからスマホも盗んだりしたし、ストーカーだって私が仕向けた。全部、芽唯が悪いんだよ?……でも今はね、私、殺女様の仲間になったんだ」
芽唯の理解を置き去りに、千夏はそのまま続ける。
「殺女様は今、大変ご立腹なの。魂鎮メの人たちの禁地を祓うペースが遅すぎるって。私らはね、芽唯たちに禁地を祓ってもらった方が都合が良かった。なのにあんまりにも仕事が遅いから、もう殺女様が直々に動くんだって」
そうして千夏は両手を広げながら、楽しそうに語り続ける。
「殺女様は素晴らしい方なの!理想が高い!私らただのアイドルじゃ到底見れないような夢を見させてくれるの!芽唯、黄泉ノ国って知ってる?そこにはあの世では抱えきれないような亡者が沢山いて、この世界にも干渉して来るんだって。殺女様はそんな黄泉ノ国の亡者を、あえてこの世界に引きずり降ろそうとしてるんだよ!映画みたいでワクワクするでしょ!?」
「あんた、さっきから何言って――」
千夏は芽唯の言葉も聞かずに、言う。
「という訳で、殺女様がお待ちですよ。お姉様?」
芽唯の隣から前に出て歩き出し、すぐに千夏の横に並んだ。
対面する形となった芽唯は、余計に意味が分からなくなる。
「……ねえ、どういう事?なんであんたがそっちに行くの?」
そう言われて千夏の横に並びながら。
不敵な笑みを浮かべる、渚であった――。
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