~魂鎮メノ弔イ歌~

宵空希

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第三章 鳥籠詩

五話 あやめ

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「はぁー、くったくたや……」

「いや、あんた何もしてないでしょ」

この三日間、芽唯と渚は菊の屋敷で世話になっていた。
こんな広い屋敷なのに一人住まいであった為、空き部屋は沢山あった。
だが何となく芽唯は部屋をいくつも借りるのも気が引けたので、渚と十二畳の和室を相部屋にしている。
二人は現在、全ての用事を済ませて布団の上でお喋りをしていた。

「いやいや、ウチはずーっとお婆に言いつけられたトレーニングしとったからな!あんたの方がこの三日間、お婆にいじられてただけやないか!」

「あ、そうだったんだ。全然視界に入らなかったから気付かなかったわ」

芽唯はラフな白のTシャツ姿で寝転がりながら、渚に淡々とした素振りでそう言った。
渚も黒のTシャツ姿で布団の上に座り、立て続けに芽唯に文句を言う。

「あんたはさっさと強なってええけど、ウチは基本から見直しって言われとんねん。これやから魂鎮メの人間は気に食わんのや。ウチが何倍も努力しても、あっという間に先へ進んでまう。ウチの血と汗と人情を返して欲しいわ……!」

ぐぬぬ……!と唸る渚に一応は気を使って芽唯は言葉を選ぶ。

「まあでもさ、いつかきっと日の光を浴びる事だって出来るって。ずっと薄暗い場所にいたんだからさ、自然と自由になれる日も来るよ」

「……あんた、ウチを囚人扱いしとらんか?」

「そんな事ないって。これは例え話だから」

「せやから囚人に例えて話しとるよな?例えやなかったら殴っとるで」

芽唯はそんな渚を優しく見つめ、改まって問い掛ける。

「渚はさ」

「人の話聞けやコラ」

「渚はどうして、私を助けてくれたの?私がいたら、彼氏にだって会いに行けないでしょ」

芽唯の真剣で真摯な問いに、渚は目を見開いて見せた。
だが偽るような事でもなかったのだろう、真面目に返してくる。

「なんや、いきなり。そんなん当然ちゃうかー?ウチやって二人に助けられたおかげで、無事にこうしておれんねん。それにあんた、なんか放っておけんしなー。ま、お姉さんのウチが面倒みるんは当たり前の事やろ」

「は?お姉さん?」

「せやで。ウチ、22歳やからな。あんたは18やろ?ホームページで見たで」

「えっ、それは引くわ……」

「アイドルの公式ホームページは公の場や!引く意味が分からへん!」

「いや、あんたの歳にさ……」

「なんで歳で引かれんねん!お婆とちゃうわ!」

そんな他愛もないやり取りをして、その日は就寝するのであった。



翌日。
四日目の日を迎え、菊は中庭で長椅子に腰かけていた。
何やら真剣な面持ちをしているので、もしかしたらまた冗談を言ってくるのかもしれないと芽唯は身構える。

「お主らには話しておかねばならぬ事がある。心して聞くがよい」

冗談だ、それも飛びっきりの過激な冗談が飛んでくる。
芽唯は身構える気持ちを一層引き締めた。

「ワシには、ひ孫がおる」

結果、微妙だった。
絶妙にツッコみどころがあるのかないのかの瀬戸際をチョイスされた、そんな気分になる芽唯。
確かに歳は124歳のモンスターだが、見た目は中学生止まりのモンスターなのだ。
なので芽唯はその場で思いついた、辺り障りがないと思えた言葉をチョイスする。

「いや、その体型で子供とか産めるの?」

「ん?感度は抜群に良いぞ?」

うわぁ……、地雷を踏んだわぁ……。
そう内心で猛省し、嫌な顔を前面に見せる芽唯。

「やめやお婆、気色悪い!夢に出たらどないすんねん!」

芽唯に代わって渚が言ってくれたので、良く言ってくれたと芽唯は思った。

「まあ冗談はさておき。ワシのひ孫、あやめは昔から霊と戯れるような子でのう。憑き神としての才能はワシ以上じゃった。可愛い初ひ孫でのう、将来も有望じゃった」

そこで一息置いて、菊は横に置いてあった湯呑を手に取る。
お茶を一口啜り、再びゆっくりと口を開く。

「じゃがあやめは、憑き神を裏切りおった」

想定外の話が出て来た事に驚く芽唯は、そのまま続きに耳を傾ける。

「今回お主らに協力したのは、出来ればあやめを止めて欲しいと思ったからじゃ。いずれは相まみえる事になるじゃろう、その時の為に力は付けておいた方が良い」

あやめ。
何だろう、凄く嫌な予感がする。
芽唯は時折、感が冴え渡る時がある。
両の瞳の紫が、アメジストのような煌めきを見せて警告をしてくるように。
目の前の視界に少しだけ、青紫色のフィルターが掛かる。

「そのあやめって子が裏切ったってどういう事?何に対しての裏切りなの?」

菊はその質問に真顔でこう答える。

「あやめは、ワシの子供たちと孫たちを。自分の家族を、一人残らず殺したんじゃ。ワシの力では、止められんかった……。あやめは歴史上でも最強に値する程の、自我を保った異形なのじゃ」

菊はそう言って詳しく語り始めるのであった――。
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