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第三章 鳥籠詩
三話 憑着
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◇
だが佇まいからしても只者ではない。
芽唯は菊を前にしてそう思った。
やはり妖怪を地で行くだけある、決して侮れない相手だ。
「誰が妖怪じゃ。失礼な女子じゃなまったく」
芽唯は心を読まれた事に対して驚きを見せると共に、これはもしかしたら本当に強くしてくれるかもしれないという期待感も同時に抱いた。
早速、芽唯は妖怪もとい菊に頼み込む。
「お願い菊ちゃん!私、どうしても助けたい人がいるの!力になって!」
「誰が菊ちゃんじゃ小娘。どう考えても菊お姉さんじゃろ」
「菊お姉さん!お願いします!」
「……はぁ、仕方がないのう。ワシもまだまだ青い。お肌もお主らよりぴちぴちじゃしなあ」
「え……それは許せないんだけど」
菊は屋敷の中へと二人を迎え入れる。
外も一面が紫と橙の提灯の色に染まっていたが、菊の住む屋敷の中も中々の雰囲気があった。
だだっ広い庭には、何やら霊力の粒のような淡い光が無数に浮いており、感じ取れるだけでもかなりの霊気が漂っている。
禁地本来の霊脈に近いのか、だがそれ以上に可視化するほどの、はっきりとした霊力の本流を感じる。
いや、流れて行かない点を踏まえると、まさに霊脈の滞留地だった。
「驚いた様な顔をしておるな?なに、難しい事は何もないぞ。この地は元々呪われた禁地じゃったんじゃ。それをワシが祓い、その上でここを隠れ家にする為に結界を張った。故に霊力は流れ出ないで済むのじゃ」
「じゃあ何でずっと空が薄暗いの?」
「それは結界の影響じゃな。一般人が迷い込まぬように、人避けの効果もあるしのう」
菊はそう言うと庭の中央に立ち、光の粒を手のひらに当てる。
その光の粒はポンと跳ねて、そのまま浮き上がって行った。
「知っておるじゃろうが、ワシら憑き神は霊を使役して霊を祓う。魂鎮メとの最大の相違点は正にそこじゃな。ワシらは霊の力を借りなければ、霊力を持たぬに等しいのじゃ。どれ、試しに粒を触ってみるといい」
芽唯はそう言われて光の粒に触れた。
するとそれは芽唯の身体に吸収されて行き、その場で跡形もなく消えて見せた。
「つまりはそう言う事じゃ。お主らには先天的に霊力を蓄える機能が存在しておる。対してワシらにはそれが存在しておらん。ワシらの戦い方は、これが故に自ずとそうなったものじゃ」
菊の説明を受けて、芽唯はなるほどと思った。
魂鎮メのような霊的要素の強い規格外の存在など、早々現れるものでもないのだろう。
以前に見せた渚の反応もそうだ、持つ者と持たざる者の差を妬んでいたのだ。
渚の方を見ると、案の定不機嫌そうな表情を浮かべていた。
これが生まれた時から優遇された力。
だがこの世は基本的に不条理で構成されている、平等など無いから人々は平等を唱えたがる。
持って生まれた側ではあるけれど、それも今更だなぁと思う芽唯であった。
「まあ前置きもこの辺にしておくかのう。どれ、一度立ち会ってみるか」
菊はお札を一枚取り出してそれを宙に放り投げる。
札はすぐに形を変えて、一体の霊体を形作った。
それは禍々しいまでの霊力を纏った、九つの尻尾を逆立てる狐の姿をしていた。
その狐は現れて早々、菊と融合をする。
「憑着――九尾」
すると突如巻き起こる嵐のような霊力の波動。
その中心で立つ菊の外見は、霊装した魂鎮メに近い形で変化していた。
ボサボサの白髪はそのままに、黒い着物を身に纏っている。
右手には短めの刀を持つ。
加えて右の側頭部には狐のような面を付けていた。
芽唯は先程の考えを改めたい気持ちになった。
何が持たざる者か、これだけの霊力を補えるのであれば十分すぎる程だ。
それはもう、才能でしかないではないか。
「ほれ、お主も準備せよ」
芽唯はそう言われ、自身も戦闘態勢をとる。
「霊装――白銀!」
芽唯も同様に純白の着物を纏い、白銀の刀を手にした。
「ふむ、霊力はまずまずと言ったところか。では行くぞ」
そう言って菊はその場から歩み始める。
ゆっくりとした歩みだった為、芽唯もゆっくりと構えを取る。
だが事は一瞬にして動いた。
菊は歩みのスピードを一気に加速させ、目にも止まらぬ速さで芽唯に刀を振り払った。
咄嗟の出来事に、何とか反応するので精一杯の芽唯。
「くっ!」
「何じゃ、まだまだこれからじゃぞ?」
菊はその場でバックステップを取り、再びゆっくりと芽唯の周囲を歩き出す。
そしてすぐさま右に左にとステップを踏み、急加速して前方から芽唯へと斬り掛かって来た。
再び受ける事で手一杯となるも、だがそれに構わず菊は刀を振るう手を動かし続けた。
「は、速っ!」
防戦一方の芽唯は一度距離を取り、特性の行使を試みる。
「くっ!銀細工――伸縮✖一閃!」
居合斬りの一太刀を距離の空いている菊に見舞う。
だがその一閃を菊は軽々と身を捻って避け、隙が出来た瞬間を狙うようにして一気に距離を詰めて来た。
けれどここまでは芽唯の算段通り。
芽唯は振り払った反動を利用してその場で一回転し、追撃の技を見舞う。
「銀細工――伸縮✖一旋!」
再び伸ばされた刀身が今度は、回転の勢いをつけて横薙ぎに振られる。
芽唯はこれで一太刀は入れられるだろう、そう想定していた。
だが菊はこれに対し、頭上高くまで跳躍して回避して見せた。
芽唯はその身体能力の高さにも驚いたが、これを好機と踏む。
頭上から落ちて来る菊に対し、狙いすましたかのように更なる一撃を放つ。
「銀細工――伸縮✖一徹!」
菊のちょうど付けている面辺りを狙ったその一撃が菊を穿つ。
勝負あった。
と思いきや、菊はそれさえも躱して見せた。
首を傾げる様にして、芽唯の刃のギリギリを通過する。
「嘘でしょ!?」
対して芽唯は決め手だと思っていた為に、大きな隙が出来てしまっていた。
未だ伸びたままの自身の刀、頭上から急接近して来る菊の刃を受ける術がなく。
そのまま降りて来た菊の刀を首元に突き付けられ、芽唯は負けを認めざるを得なくなった。
「っ……!」
「ふむ。ここまでじゃな」
菊は刀を退かして、再びゆっくりとした歩みで庭に設置されていた長椅子に腰かけた。
肘を太ももの上に乗せ、頬杖をつきながら芽唯に言う。
「お主は力に頼り過ぎの様じゃ。その過信が甘さになっておる」
芽唯はそれを聞き、言い返せない気持ちになった。
確かに誤算故の敗北だったであろう。
まあ菊は力を何も使っていなかったから、勝てた保証は何処にもないのだが。
「それと、銀細工だったか。その技自体も打ち直す必要がありそうじゃのう。ワシには酷く脆いように見える」
菊の言う通り、先の藜獄島では一度刀を粉々にされている。
芽唯は何もかもが足りていないと、今更ながらに痛感した。
「じゃあ、私はどうすれば……」
「なに、案ずるでない。ワシに任せておけば、三日でお主をビフォーアフターしてやろう」
そうして特訓が始まるのだが、菊の目が怪しく光って見えるのは気のせいだろうか。
そんな事を思った芽唯であった――。
だが佇まいからしても只者ではない。
芽唯は菊を前にしてそう思った。
やはり妖怪を地で行くだけある、決して侮れない相手だ。
「誰が妖怪じゃ。失礼な女子じゃなまったく」
芽唯は心を読まれた事に対して驚きを見せると共に、これはもしかしたら本当に強くしてくれるかもしれないという期待感も同時に抱いた。
早速、芽唯は妖怪もとい菊に頼み込む。
「お願い菊ちゃん!私、どうしても助けたい人がいるの!力になって!」
「誰が菊ちゃんじゃ小娘。どう考えても菊お姉さんじゃろ」
「菊お姉さん!お願いします!」
「……はぁ、仕方がないのう。ワシもまだまだ青い。お肌もお主らよりぴちぴちじゃしなあ」
「え……それは許せないんだけど」
菊は屋敷の中へと二人を迎え入れる。
外も一面が紫と橙の提灯の色に染まっていたが、菊の住む屋敷の中も中々の雰囲気があった。
だだっ広い庭には、何やら霊力の粒のような淡い光が無数に浮いており、感じ取れるだけでもかなりの霊気が漂っている。
禁地本来の霊脈に近いのか、だがそれ以上に可視化するほどの、はっきりとした霊力の本流を感じる。
いや、流れて行かない点を踏まえると、まさに霊脈の滞留地だった。
「驚いた様な顔をしておるな?なに、難しい事は何もないぞ。この地は元々呪われた禁地じゃったんじゃ。それをワシが祓い、その上でここを隠れ家にする為に結界を張った。故に霊力は流れ出ないで済むのじゃ」
「じゃあ何でずっと空が薄暗いの?」
「それは結界の影響じゃな。一般人が迷い込まぬように、人避けの効果もあるしのう」
菊はそう言うと庭の中央に立ち、光の粒を手のひらに当てる。
その光の粒はポンと跳ねて、そのまま浮き上がって行った。
「知っておるじゃろうが、ワシら憑き神は霊を使役して霊を祓う。魂鎮メとの最大の相違点は正にそこじゃな。ワシらは霊の力を借りなければ、霊力を持たぬに等しいのじゃ。どれ、試しに粒を触ってみるといい」
芽唯はそう言われて光の粒に触れた。
するとそれは芽唯の身体に吸収されて行き、その場で跡形もなく消えて見せた。
「つまりはそう言う事じゃ。お主らには先天的に霊力を蓄える機能が存在しておる。対してワシらにはそれが存在しておらん。ワシらの戦い方は、これが故に自ずとそうなったものじゃ」
菊の説明を受けて、芽唯はなるほどと思った。
魂鎮メのような霊的要素の強い規格外の存在など、早々現れるものでもないのだろう。
以前に見せた渚の反応もそうだ、持つ者と持たざる者の差を妬んでいたのだ。
渚の方を見ると、案の定不機嫌そうな表情を浮かべていた。
これが生まれた時から優遇された力。
だがこの世は基本的に不条理で構成されている、平等など無いから人々は平等を唱えたがる。
持って生まれた側ではあるけれど、それも今更だなぁと思う芽唯であった。
「まあ前置きもこの辺にしておくかのう。どれ、一度立ち会ってみるか」
菊はお札を一枚取り出してそれを宙に放り投げる。
札はすぐに形を変えて、一体の霊体を形作った。
それは禍々しいまでの霊力を纏った、九つの尻尾を逆立てる狐の姿をしていた。
その狐は現れて早々、菊と融合をする。
「憑着――九尾」
すると突如巻き起こる嵐のような霊力の波動。
その中心で立つ菊の外見は、霊装した魂鎮メに近い形で変化していた。
ボサボサの白髪はそのままに、黒い着物を身に纏っている。
右手には短めの刀を持つ。
加えて右の側頭部には狐のような面を付けていた。
芽唯は先程の考えを改めたい気持ちになった。
何が持たざる者か、これだけの霊力を補えるのであれば十分すぎる程だ。
それはもう、才能でしかないではないか。
「ほれ、お主も準備せよ」
芽唯はそう言われ、自身も戦闘態勢をとる。
「霊装――白銀!」
芽唯も同様に純白の着物を纏い、白銀の刀を手にした。
「ふむ、霊力はまずまずと言ったところか。では行くぞ」
そう言って菊はその場から歩み始める。
ゆっくりとした歩みだった為、芽唯もゆっくりと構えを取る。
だが事は一瞬にして動いた。
菊は歩みのスピードを一気に加速させ、目にも止まらぬ速さで芽唯に刀を振り払った。
咄嗟の出来事に、何とか反応するので精一杯の芽唯。
「くっ!」
「何じゃ、まだまだこれからじゃぞ?」
菊はその場でバックステップを取り、再びゆっくりと芽唯の周囲を歩き出す。
そしてすぐさま右に左にとステップを踏み、急加速して前方から芽唯へと斬り掛かって来た。
再び受ける事で手一杯となるも、だがそれに構わず菊は刀を振るう手を動かし続けた。
「は、速っ!」
防戦一方の芽唯は一度距離を取り、特性の行使を試みる。
「くっ!銀細工――伸縮✖一閃!」
居合斬りの一太刀を距離の空いている菊に見舞う。
だがその一閃を菊は軽々と身を捻って避け、隙が出来た瞬間を狙うようにして一気に距離を詰めて来た。
けれどここまでは芽唯の算段通り。
芽唯は振り払った反動を利用してその場で一回転し、追撃の技を見舞う。
「銀細工――伸縮✖一旋!」
再び伸ばされた刀身が今度は、回転の勢いをつけて横薙ぎに振られる。
芽唯はこれで一太刀は入れられるだろう、そう想定していた。
だが菊はこれに対し、頭上高くまで跳躍して回避して見せた。
芽唯はその身体能力の高さにも驚いたが、これを好機と踏む。
頭上から落ちて来る菊に対し、狙いすましたかのように更なる一撃を放つ。
「銀細工――伸縮✖一徹!」
菊のちょうど付けている面辺りを狙ったその一撃が菊を穿つ。
勝負あった。
と思いきや、菊はそれさえも躱して見せた。
首を傾げる様にして、芽唯の刃のギリギリを通過する。
「嘘でしょ!?」
対して芽唯は決め手だと思っていた為に、大きな隙が出来てしまっていた。
未だ伸びたままの自身の刀、頭上から急接近して来る菊の刃を受ける術がなく。
そのまま降りて来た菊の刀を首元に突き付けられ、芽唯は負けを認めざるを得なくなった。
「っ……!」
「ふむ。ここまでじゃな」
菊は刀を退かして、再びゆっくりとした歩みで庭に設置されていた長椅子に腰かけた。
肘を太ももの上に乗せ、頬杖をつきながら芽唯に言う。
「お主は力に頼り過ぎの様じゃ。その過信が甘さになっておる」
芽唯はそれを聞き、言い返せない気持ちになった。
確かに誤算故の敗北だったであろう。
まあ菊は力を何も使っていなかったから、勝てた保証は何処にもないのだが。
「それと、銀細工だったか。その技自体も打ち直す必要がありそうじゃのう。ワシには酷く脆いように見える」
菊の言う通り、先の藜獄島では一度刀を粉々にされている。
芽唯は何もかもが足りていないと、今更ながらに痛感した。
「じゃあ、私はどうすれば……」
「なに、案ずるでない。ワシに任せておけば、三日でお主をビフォーアフターしてやろう」
そうして特訓が始まるのだが、菊の目が怪しく光って見えるのは気のせいだろうか。
そんな事を思った芽唯であった――。
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