~魂鎮メノ弔イ歌~

宵空希

文字の大きさ
上 下
44 / 58
第三章 鳥籠詩

一話 再燃

しおりを挟む

時は遡る。
あの日、藜獄島を脱出した芽唯は、絶望の淵にいた。
楓を救えなかった。
一緒に連れ出す事が出来ず、置き去りにしてしまった。
勇太を犠牲にしてしまった。
まさか自分を庇ってくれるだなんて、思いもしなかった。
それらの自責の念が芽唯を追い詰め、苦しめる。
ただただ喪失感が胸を締め付けた。

そんな芽唯を放っておけなかったのだろう、渚が自分の住む家に迎え入れてくれた。
もう帰る場所もないのだ、あの家に戻っても辛くなるだけ。
そう思った芽唯は大人しく世話になる事を決めた。
幸い渚は関西で一人暮らしだったらしく、ワンルームに二人は少し狭かったが住めない事もなかった。
けれど暫くは塞ぎ込んでいた芽唯。
何をする気にもなれない。
アイドルの仕事もモデルの仕事も、行っていない。
そもそも関東にも一度も戻ってない。
マネージャーからの電話も一切出ないで、一日中を座り込んで過ごして。

そんなある日、渚が芽唯に提案をしてくる。

「なあ芽唯、力が欲しいんとちゃうか?ホンマは楓さんを助けに行きたいと思っとるんやろ?」

「……。」

俯いたまま黙りこくる芽唯に対し、渚はそのまま続ける。

「ならウチら憑き神の本拠地に来いへんか?ゆーとくけどなあ、憑き神の連中はみんなちゃんと強いで?あんたも特訓して強なって、早う楓さんを助けに行かんとやろ?」

「……夜御坂さんが生きてる保証がないでしょ。あんなとこに一人でなんて、無理よ」

「本当にそう思うか?じゃあ先ずはこれを見てみい」

「……何?」

渚は自分のiPhoneに保存されている画像を表示し、芽唯に見せて来た。

「これが藜獄島に入る直前の時間や」

15時43分の時間を表した、何の変哲もない画像だった。
それが何なんだ、芽唯は訝し気な表情をして渚を睨む。

「ほんで、これが藜獄島から出た時の時間や」

再び表示されたのは、またしても15時43分の全く同じ画像であった。
一体それが何になるのか、芽唯には分からない。

「ウチうっかりしてて、時間をスクショしたまま船に置いてったんや。今回は何分間いられるか思うてな。したら出た時、時間が変わってへん事に気付いたんや。つまり何が言いたいかいうと、藜獄島の中の時が止まってるっちゅうことや。これは全ての禁地においても言える事らしい」

「……だからそれが何なの?」

渚は禁地の説明を簡単にして、更に楓の置かれている状況を語り始める。

「多分やけど、楓さんは止まった時の中におる。難しい事はよー分からんが、多分楓さんはこのままやと永遠に島の中を彷徨うっちゅーことや。誰かが助けに行かんと。とまあ、これがウチの彼氏の見解や」

「……何それ、また自慢話?大体あんたさっきから多分ばっかじゃん。夜御坂さんを救える方法なんてほんとにあるの?」

渚は大きく頷いて見せる。

「ある。けどそれは、あんたの気持ち次第や。希望は最後まで捨てたらあかん、これは憑き神の理念でもある」

「知らないし、憑き神の事なんて。……はぁー。じゃ、さっさと行くわよ」

「お?やっぱあんたはそのくらいやないと、張り合いないわ」

可能性が示される事を、何処かで待っていたような気がする。
だからそれがゼロじゃない事を示された今、芽唯に迷いは一切なかった。
ここでいつまでも嘆いていても仕方ない、芸能界でも思い切りの良さで仕事を増やして来たのだ。
そうして最後の頼みの綱である、憑き神へと向かう事を芽唯はすぐに決めた。

だがその前に芽唯はまず、マネージャーに電話を掛けた。
芸能界を引退する事を手短に伝え、契約している仕事に対しての違約金を払う趣旨も伝えた。
マネージャーは必死になって止めて来たけど、芽唯は決して折れなかった。
渋々折れたマネージャー、けれど最後まで芽唯の評価を鑑みてくれて、違約金等の請求はこれから支払われる予定の給料から差し引いてくれると言った。
CMなどの企業に関する仕事は請け負っていなかったが、それでもそれなりの借金が発生するだろうと覚悟はしていた。
けれどマネージャーが事務所に何とか掛け合ってくれるそうで、芽唯に大きな損害も出ないようにしてくれるそうだ。
ただもしも落ち着きを取り戻した後、復帰する気があるならば。
必ずまた同じ事務所でやって欲しいと、その要望だけは伝えて来た。
芽唯は二つ返事で了承し、その電話を終えた。

「なんや、ずいぶんとスッキリしたよーな顔しとるな?てっきり芸能人やなくなって寂しくなるんかと思ったわ」

「まあね。でも、何だかんだ人には恵まれてたんだなーって思って。じゃ、次は――」

そうして芽唯は再びスマホを耳に当てる。
出たのは四世家の同僚である、蒼だった。

「――何だ、お前から電話なんて珍しいな。今日は雪でも降んのか?」

「天気の話なんてどうでもいい。真面目に聞いて。これから話すのは、本当に起きた出来事だから」

芽唯はこれまでの経緯の全てを蒼に話した。

「……おいおい、マジかよ!勇太さんは本当に無事なのか!?」

「一命は取り留めた。でも危険な状態に変わりはない。だからあんたに連絡したの、藤堂さんを任せたわよ」

「……お前はどうするつもりだ。その夜御坂楓って奴は、島に残ったままなんだろ?」

「それはこれから……あ、ごめん。充電が切れるわ。最後に一つ。藍葉朔耶の失踪先は何処かの禁地かもしれないから。じゃ、後はよろしく」

「は!?お、おい――」

ツー、ツー。
通話はそこで途切れ、電話は強制的に終了となった。
それを横で聞いていた渚は、芽唯の足りていなかった説明に対して口出しをする。

「芽唯、あんた肝心な事ゆーてないやろ。禁地の時間が止まってるから助けられるんやで?それ伝えな向こうはアホちゃうんかって思うだけやん」

「あ。まあいいでしょ。蒼ならどうせそれにも気付くだろうし」

「ホンマてきとーやなー」

そう、蒼の苦労はここから始まっていたのであった。
だが芽唯のスマホも充電器が無い為、これ以上の連絡手段は現状なかった。
その内また掛ければいーや、そう思い芽唯はその場で立ち上がる。

「じゃ、渚。案内して。時間が惜しいから、出来れば手短に強くなりたい」

「無茶苦茶言うな自分。ま、おばばなら何とかしてくれるかー」

そうして芽唯は修行を積む為に憑き神の本拠地を目指す。
けれどこの先、予想だにしない展開が待ち受けていた――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

【完結済】ダークサイドストーリー〜4つの物語〜

野花マリオ
ホラー
この4つの物語は4つの連なる視点があるホラーストーリーです。 内容は不条理モノですがオムニバス形式でありどの物語から読んでも大丈夫です。この物語が読むと読者が取り憑かれて繰り返し読んでいる恐怖を導かれるように……

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/3/14:『かげぼうし』の章を追加。2025/3/21の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/13:『かゆみ』の章を追加。2025/3/20の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/12:『あくむをみるへや』の章を追加。2025/3/19の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/11:『まぐかっぷ』の章を追加。2025/3/18の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/10:『ころがるゆび』の章を追加。2025/3/17の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/9:『かおのなるき』の章を追加。2025/3/16の朝8時頃より公開開始予定。 2025/3/8:『いま』の章を追加。2025/3/15の朝8時頃より公開開始予定。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

第一機動部隊

桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。 祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...