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第二章 子守唄
十七話 友達
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◇
蒼は最早、自分の感覚機能の全てを疑うしかなかった。
手毬の外見の変化も勿論そうなのだが、一番はその圧倒的な霊力に対してだ。
この力は何だ?どこから来る?何故いきなり変化した?こいつは本当に手毬か?などと瞬時に幾つもの疑問が浮かんでくるが、今は考えに浸っている場合でもない。
そう切り替えた蒼ではあったが、流亜との連携は到底見込めなかった。
やがて戦いの場は、流亜の独壇場となる。
「はぁ、弱そうなのばかりじゃない。まあ手毬じゃあ荷が重いのかしら。この身体を失うのは勿体ないから、助けてはあげるけど――」
そう一人呟いたかと思ったら、次の瞬間には既に異形の一体の目の前にいた。
二振りの刀を振り上げて、交差する様に振り下ろす。
「退屈なんて嫌よ。精々頑張って着いて来てちょうだい?」
一瞬にして異形の一体を消してしまった流亜は、立て続けに次の異形へと刃を走らせた。
異形たちは完全にターゲットを流亜に絞ったようで、すぐに流亜を取り囲んだ。
けれどもそれに対して何とも思っていないのか、一考する価値すらないのか。
流亜は二体目の異形を切り裂いたと同時に、特性を行使する。
「『午后の茶会』13時の余興――庭園遊戯」
流亜は左手の刀を逆手に持ち、地面に突き立てた。
すると周囲の地面からは複数の荊の蔓が生えてきて、それぞれ残り五体となった異形を素早く絡めとる。
そのまま伸び進めた蔓は高々と異形を持ち上げてゆっくりと、だが最後にはそれらの霊体を締め潰し、あっという間に異形を消し去ってしまった。
「あら、もう終わり?とんだ茶番だったわ」
一連の様子を見ている事しか出来なかった蒼は、やはり自分を疑うしかなかった。
あれだけの脅威をこうもあっさりと打破してしまうなんて、どうすれば信じる事が出来るのか。
そんな逡巡を経ている蒼に、流亜は何でもなかったかのように近寄って来る。
「ねぇ、そこのあなた。今のは全て異形でしょう?ならここは何処かの禁地なの?」
「……異形?何だそれは?」
何とか流亜の言葉に返して見せた蒼。
だがその知らぬワードに対し、頭を悩ませる要素がまた一つ増えたと胸中でぼやく。
それに言葉遣いにしても、やはり手毬のものではない。
今自分は一体誰と会話をしているのか、蒼の頭には疑問しか浮かばなかった。
流亜はそんな蒼を蔑んだような目で見る。
「……何にも知らないのね。いいわ、教えてあげる。異形とは即ち、成れの果てよ。黄泉ノ国の者が現世の者に干渉する事で融合し生まれた者。あなた、黄泉ノ国の事は勿論知っているわよね?」
「いや、知らねぇが」
「はぁ、だと思った。時代が時代なだけに、魂鎮メも随分と平和な仕事になったものね。昔はもっと多くの禁地が存在していたのよ?記録にどれだけ残されているのか知らないけれど、町一つに一カ所はあったほど。まあいいわ」
やれやれとした素振りで流亜は話を続ける。
「黄泉ノ国とは、輪廻転生の循環からはみ出してしまった、憐れな魂たちを幽閉している世界の事よ。恨み辛み、怨念や怨嗟が理由で、上手く軌道に乗れなかった者たちの末路が行き着く最後の場所。そんな黄泉ノ国だけれども、どうしても要領がある。だから霊脈に引き寄せられて、要領を超えた魂たちが定期的に溢れ出てきてしまうの。そうなってしまったのが禁地であり、その上で黄泉ノ国の亡者に乗っ取られた者が異形。分かった?」
「……ああ、理解はした。けど、仕組みが分かってんなら防ぎようはねぇのかよ?」
「ある訳ないじゃない。あなた、死後の世界のコントロールでも出来るの?魂鎮メだって一人の人間でしかない。神にでもならない限り到底無理な話よ。まぁ異形なんて所詮は神に見捨てられたような者たちよ、だから成仏だってもう二度と出来ない。祓った時、光の断片にならなかったでしょう?それは成仏するサインであり、起こらなかったという事は存在ごと消えて無くなったって事」
話の内容は頭に入るのだが、これは信じても良い事なのか判断しかねる蒼。
これが事実なら、完全にいたちごっこだ。
禁地を祓ってもまたいずれ次の禁地が誕生してしまうという解釈になる。
「なぁ、そもそもあんたは誰なんだ?手毬に憑りついてんのか?」
はぁ、と流亜は嘆息して身長差のある蒼を見上げた。
「私は流亜よ。前に生まれた時代では、四世家の一角を担っていたわ。もう手毬に返す時間ね。さよなら、何も知らない愚かな魂鎮メの方――」
「は?ってちょ、待てよ!」
そうして流亜はいなくなり、変わって髪のインナーカラーと着物の色が元のグリーンに戻った。
「……手毬か?」
「――はい。どうやら無事に終わったようですねー」
あっけらかんとした態度の手毬は、辺りの様子を伺ってすぐに納得したようだった。
そのまま蒼に向き直り、ドヤ顔で言ってくる。
「どうでしたか?流亜は強かったでしょー?ムッフー」
「……ちっ。だがお前の実力じゃねぇ。お前が威張ることじゃねぇだろ」
手毬はそんな蒼の捻くれた感想を、快活な笑顔でぶった切る。
「いーえ、威張るのは当然の権利ですよー。だって流亜は私のとーっても大切な、友達なんですから!」
にこやかな笑顔の裏に何故か蒼は複雑なものを読み取るのだが、イマイチそれが何を意味するのか分からなかった――。
蒼は最早、自分の感覚機能の全てを疑うしかなかった。
手毬の外見の変化も勿論そうなのだが、一番はその圧倒的な霊力に対してだ。
この力は何だ?どこから来る?何故いきなり変化した?こいつは本当に手毬か?などと瞬時に幾つもの疑問が浮かんでくるが、今は考えに浸っている場合でもない。
そう切り替えた蒼ではあったが、流亜との連携は到底見込めなかった。
やがて戦いの場は、流亜の独壇場となる。
「はぁ、弱そうなのばかりじゃない。まあ手毬じゃあ荷が重いのかしら。この身体を失うのは勿体ないから、助けてはあげるけど――」
そう一人呟いたかと思ったら、次の瞬間には既に異形の一体の目の前にいた。
二振りの刀を振り上げて、交差する様に振り下ろす。
「退屈なんて嫌よ。精々頑張って着いて来てちょうだい?」
一瞬にして異形の一体を消してしまった流亜は、立て続けに次の異形へと刃を走らせた。
異形たちは完全にターゲットを流亜に絞ったようで、すぐに流亜を取り囲んだ。
けれどもそれに対して何とも思っていないのか、一考する価値すらないのか。
流亜は二体目の異形を切り裂いたと同時に、特性を行使する。
「『午后の茶会』13時の余興――庭園遊戯」
流亜は左手の刀を逆手に持ち、地面に突き立てた。
すると周囲の地面からは複数の荊の蔓が生えてきて、それぞれ残り五体となった異形を素早く絡めとる。
そのまま伸び進めた蔓は高々と異形を持ち上げてゆっくりと、だが最後にはそれらの霊体を締め潰し、あっという間に異形を消し去ってしまった。
「あら、もう終わり?とんだ茶番だったわ」
一連の様子を見ている事しか出来なかった蒼は、やはり自分を疑うしかなかった。
あれだけの脅威をこうもあっさりと打破してしまうなんて、どうすれば信じる事が出来るのか。
そんな逡巡を経ている蒼に、流亜は何でもなかったかのように近寄って来る。
「ねぇ、そこのあなた。今のは全て異形でしょう?ならここは何処かの禁地なの?」
「……異形?何だそれは?」
何とか流亜の言葉に返して見せた蒼。
だがその知らぬワードに対し、頭を悩ませる要素がまた一つ増えたと胸中でぼやく。
それに言葉遣いにしても、やはり手毬のものではない。
今自分は一体誰と会話をしているのか、蒼の頭には疑問しか浮かばなかった。
流亜はそんな蒼を蔑んだような目で見る。
「……何にも知らないのね。いいわ、教えてあげる。異形とは即ち、成れの果てよ。黄泉ノ国の者が現世の者に干渉する事で融合し生まれた者。あなた、黄泉ノ国の事は勿論知っているわよね?」
「いや、知らねぇが」
「はぁ、だと思った。時代が時代なだけに、魂鎮メも随分と平和な仕事になったものね。昔はもっと多くの禁地が存在していたのよ?記録にどれだけ残されているのか知らないけれど、町一つに一カ所はあったほど。まあいいわ」
やれやれとした素振りで流亜は話を続ける。
「黄泉ノ国とは、輪廻転生の循環からはみ出してしまった、憐れな魂たちを幽閉している世界の事よ。恨み辛み、怨念や怨嗟が理由で、上手く軌道に乗れなかった者たちの末路が行き着く最後の場所。そんな黄泉ノ国だけれども、どうしても要領がある。だから霊脈に引き寄せられて、要領を超えた魂たちが定期的に溢れ出てきてしまうの。そうなってしまったのが禁地であり、その上で黄泉ノ国の亡者に乗っ取られた者が異形。分かった?」
「……ああ、理解はした。けど、仕組みが分かってんなら防ぎようはねぇのかよ?」
「ある訳ないじゃない。あなた、死後の世界のコントロールでも出来るの?魂鎮メだって一人の人間でしかない。神にでもならない限り到底無理な話よ。まぁ異形なんて所詮は神に見捨てられたような者たちよ、だから成仏だってもう二度と出来ない。祓った時、光の断片にならなかったでしょう?それは成仏するサインであり、起こらなかったという事は存在ごと消えて無くなったって事」
話の内容は頭に入るのだが、これは信じても良い事なのか判断しかねる蒼。
これが事実なら、完全にいたちごっこだ。
禁地を祓ってもまたいずれ次の禁地が誕生してしまうという解釈になる。
「なぁ、そもそもあんたは誰なんだ?手毬に憑りついてんのか?」
はぁ、と流亜は嘆息して身長差のある蒼を見上げた。
「私は流亜よ。前に生まれた時代では、四世家の一角を担っていたわ。もう手毬に返す時間ね。さよなら、何も知らない愚かな魂鎮メの方――」
「は?ってちょ、待てよ!」
そうして流亜はいなくなり、変わって髪のインナーカラーと着物の色が元のグリーンに戻った。
「……手毬か?」
「――はい。どうやら無事に終わったようですねー」
あっけらかんとした態度の手毬は、辺りの様子を伺ってすぐに納得したようだった。
そのまま蒼に向き直り、ドヤ顔で言ってくる。
「どうでしたか?流亜は強かったでしょー?ムッフー」
「……ちっ。だがお前の実力じゃねぇ。お前が威張ることじゃねぇだろ」
手毬はそんな蒼の捻くれた感想を、快活な笑顔でぶった切る。
「いーえ、威張るのは当然の権利ですよー。だって流亜は私のとーっても大切な、友達なんですから!」
にこやかな笑顔の裏に何故か蒼は複雑なものを読み取るのだが、イマイチそれが何を意味するのか分からなかった――。
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