37 / 58
第二章 子守唄
十五話 絶体絶命
しおりを挟む
◇
絶体絶命なんて事は、人生の内で何度あるだろうか。
経験した人間は果たしてどれくらいいるのか、人口の何割を占めるのか。
大体はこれ以上は無理なんて事でも、案外乗り越えて行けるのが人生である筈だ。
逆にそういう風に出来ていなければ人間は生存さえも難しくなってしまう。
勿論ケースバイケースであり、各々程度も異なるのだが。
余程の波乱万丈な人生でもない限り、生死を分けるなんてそんな展開など頻繁に起こる訳がないのではなかろうか。
だからこそ人は刺激を求めたり、娯楽に興じたり出来るのだから。
その上であえて言おう。
今現在、手毬は絶体絶命のピンチを迎えている。
「どどど、どうすんですかこの状況!おい蒼ー!なんとかしろよー!」
「あぁ!?お前なに堂々とタメ口聞いてんだコラ!せめてさり気なく言えよ!」
パニック、イッツァマジカァルパニックゥワァァルド。
とまあ一先ず霊装を再度使用したのはいいものの、相手は先程と同等レベルの異形が既に七体も現れている。
幾ら一体祓えたという実績があろうとも、七体同時に相手にしなければならない事を考慮するとその実績はカスである。
つまり蒼はカスである、そう結論付けた手毬は仕方なく妥協点を探る。
「蒼さん、さっきの技で一気に倒せないんですかー!?」
その妥協点はやはり、他力本願であった。
基本自分の手を煩わせたくない手毬。
使える物は何でも使う主義とは実に素晴らしい、人間の本分であると考える。
例えカスの擬人化したような存在が相手であろうとも、今はそんな人間のフリをしたカスの手でも借りたいところであった。
「この数相手じゃ無理だ!霊力溜めてる間にこっちがバラバラにされちまう!」
「もういいじゃないですかそれで!いっその事バラバラになって数だけでも対応するべきです!行け、蒼ー!」
「パニくってんじゃねぇ!お前の脳みそに溜まってるアホ遺伝子から祓ってやろうかぁ!?」
声を張り上げながら、二人はお互いを鼓舞し合った。
だがそんなやり取りも長くは続かなかった。
異形たちが一斉に刀を抜き出して、二人へと斬りかかってくる。
手毬の右からも左からも攻撃が続き、回避、或いは両側に刀一本ずつで受け止める。
だが例え左右の異形を同時に受けても、今度は別の異形が正面から斬りかかって来るのだから、最早どうしようもなかった。
その正面は蒼が殴った事により防げたが、今度はまた別の異形が刀を振って来る。
そうして何とかやり過ごす事だけに専念していた二人は、いつの間にか中庭の中央に追いやられていた。
「蒼さん、今こそ四世家の力を見せる時ですよ!さあ、やっちゃってください!」
「できるならとっくにやってるわ!お前もなんか考えろ!」
「えー!私ですかー!?私に振るんですかー!?」
そう言い返された手毬は、不本意にも蒼の言葉に従って状況の打破に考えを巡らせる。
試しに自分に何か出来る事は無いか模索してみた。
だがどうしたところで、思いつく方法なんて一つしか浮かんでこない。
仕方なく手毬は諦めて、自分の手を汚す事を選択する。
「……はー、しょうがないですねー。蒼さんの為にってのは反吐が出そうになるので、今回は玖々莉さんの所に早く行きたいからという理由にしておきましょう」
「あ!?お前なに言って――」
蒼の言葉を遮り、手毬は瞳を閉じて呟く。
「おいで、……流亜」
そうして手毬は、人格の入れ替えを行った。
突如、爆発的に湧き上がる霊力。
その波動が波紋となって、辺りの瘴気を洗い流していく。
霊力は純粋な物なのに、何処か異様な重たさが場を満たす。
「……おい。手毬お前、一体何して――」
「――手毬ぃ?あんな弱いのと一緒にしないでちょうだい」
手毬の目付きが変わった、鋭いものになった。
そして手毬トレードマーク、髪のインナーカラーのグリーンまでもが、赤く染まっている。
それだけではない、纏う和服までもが黒地に赤帯の二色となっていた。
「あはは、久方ぶりの現世ねぇ。さぁて、暴れがいのある相手はいるのかしら?」
そう言って手毬であった者は、辺りを見回して早々に、ため息を吐いた――
絶体絶命なんて事は、人生の内で何度あるだろうか。
経験した人間は果たしてどれくらいいるのか、人口の何割を占めるのか。
大体はこれ以上は無理なんて事でも、案外乗り越えて行けるのが人生である筈だ。
逆にそういう風に出来ていなければ人間は生存さえも難しくなってしまう。
勿論ケースバイケースであり、各々程度も異なるのだが。
余程の波乱万丈な人生でもない限り、生死を分けるなんてそんな展開など頻繁に起こる訳がないのではなかろうか。
だからこそ人は刺激を求めたり、娯楽に興じたり出来るのだから。
その上であえて言おう。
今現在、手毬は絶体絶命のピンチを迎えている。
「どどど、どうすんですかこの状況!おい蒼ー!なんとかしろよー!」
「あぁ!?お前なに堂々とタメ口聞いてんだコラ!せめてさり気なく言えよ!」
パニック、イッツァマジカァルパニックゥワァァルド。
とまあ一先ず霊装を再度使用したのはいいものの、相手は先程と同等レベルの異形が既に七体も現れている。
幾ら一体祓えたという実績があろうとも、七体同時に相手にしなければならない事を考慮するとその実績はカスである。
つまり蒼はカスである、そう結論付けた手毬は仕方なく妥協点を探る。
「蒼さん、さっきの技で一気に倒せないんですかー!?」
その妥協点はやはり、他力本願であった。
基本自分の手を煩わせたくない手毬。
使える物は何でも使う主義とは実に素晴らしい、人間の本分であると考える。
例えカスの擬人化したような存在が相手であろうとも、今はそんな人間のフリをしたカスの手でも借りたいところであった。
「この数相手じゃ無理だ!霊力溜めてる間にこっちがバラバラにされちまう!」
「もういいじゃないですかそれで!いっその事バラバラになって数だけでも対応するべきです!行け、蒼ー!」
「パニくってんじゃねぇ!お前の脳みそに溜まってるアホ遺伝子から祓ってやろうかぁ!?」
声を張り上げながら、二人はお互いを鼓舞し合った。
だがそんなやり取りも長くは続かなかった。
異形たちが一斉に刀を抜き出して、二人へと斬りかかってくる。
手毬の右からも左からも攻撃が続き、回避、或いは両側に刀一本ずつで受け止める。
だが例え左右の異形を同時に受けても、今度は別の異形が正面から斬りかかって来るのだから、最早どうしようもなかった。
その正面は蒼が殴った事により防げたが、今度はまた別の異形が刀を振って来る。
そうして何とかやり過ごす事だけに専念していた二人は、いつの間にか中庭の中央に追いやられていた。
「蒼さん、今こそ四世家の力を見せる時ですよ!さあ、やっちゃってください!」
「できるならとっくにやってるわ!お前もなんか考えろ!」
「えー!私ですかー!?私に振るんですかー!?」
そう言い返された手毬は、不本意にも蒼の言葉に従って状況の打破に考えを巡らせる。
試しに自分に何か出来る事は無いか模索してみた。
だがどうしたところで、思いつく方法なんて一つしか浮かんでこない。
仕方なく手毬は諦めて、自分の手を汚す事を選択する。
「……はー、しょうがないですねー。蒼さんの為にってのは反吐が出そうになるので、今回は玖々莉さんの所に早く行きたいからという理由にしておきましょう」
「あ!?お前なに言って――」
蒼の言葉を遮り、手毬は瞳を閉じて呟く。
「おいで、……流亜」
そうして手毬は、人格の入れ替えを行った。
突如、爆発的に湧き上がる霊力。
その波動が波紋となって、辺りの瘴気を洗い流していく。
霊力は純粋な物なのに、何処か異様な重たさが場を満たす。
「……おい。手毬お前、一体何して――」
「――手毬ぃ?あんな弱いのと一緒にしないでちょうだい」
手毬の目付きが変わった、鋭いものになった。
そして手毬トレードマーク、髪のインナーカラーのグリーンまでもが、赤く染まっている。
それだけではない、纏う和服までもが黒地に赤帯の二色となっていた。
「あはは、久方ぶりの現世ねぇ。さぁて、暴れがいのある相手はいるのかしら?」
そう言って手毬であった者は、辺りを見回して早々に、ため息を吐いた――
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる