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第二章 子守唄
十二話 雷鳴
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◇
中庭で異形と対峙した蒼と手毬。
「こいつが例の奴か。だが武器を持ってるなんて聞いてねぇぞ」
蒼は眼前の異形の腰に携えられている刀を見てそう言った。
鳴咲神社では確かに、神主の異形はそのような物は所持していなかった筈である。
まあ玖々莉が情報を言いそびれていた可能性も否定は出来ないが、とも思ったが。
不確定要素が多分に見て取れる敵を観察しながら、蒼は思考を巡らせる。
この支倉屋敷は、前回の鳴咲神社とは何かが違う。
敷地内の規模もそうだが、肌で感じ取れる感覚そのものが違うのだ。
前回よりもより一層歪んでいるように感じ、だからこそその奥まで見通すことが出来ないような、そんな感覚。
濁り切った水底までゆっくりと沈んでいく様な、得も言われぬ不安感にも苛まれるようだ。
だとすれば。
蒼の脳内に最悪の発想が過って来る。
眼前の怨霊、異形以上の存在の可能性が。
「蒼さん?そろそろこっちも霊装した方がいいんじゃないでしょうかー?」
手毬に急かされ、これ以上考えても仕方ないと判断し戦闘態勢を取る。
「……しゃあねぇ、やるしかねぇな!霊装――雷羅っ!」
まず蒼が目を閉じてその言葉を口にし、和装を纏った。
青を基調とした着物にスタイリッシュな黒の肩衣を着用し、両手には武器として使用する籠手が填められていた。
次いで手毬が霊装を行う。
「霊装――双葉!」
濃緑の着物は白の花柄をモチーフに、左側の髪には銀の小さな花飾りを。
武器は刀を二振り、それぞれ両手に持っていた。
霊装を終えた二人は一斉に異形へと飛び掛かる。
蒼は豪快に右の拳を打ち付けるように。
手毬は二刀を同時に走らせた。
が、異形はそれらを抜き出した刀一本で交互に受け流すと、そのまま蒼に追撃して来る。
咄嗟に左の籠手でそれを受けるも、二度三度と立て続けに迫り来る斬撃を何とか受けるので精一杯であった。
両手の籠手で交互に刀を捌く。
スピードは今のところ五分と五分、ならば決め手はパワーとなるか。
そう考えた蒼は敵の刀を受けるのに対し、その刀身の中ほど辺りを力いっぱいぶん殴った。
大きく弾き返す事に成功し、その隙を手毬も同様に見逃さず。
異形の前方には蒼の痛打を、後方には手毬の斬撃を見舞ったのだが。
「……あ!?手ごたえが、ねぇ?」
思わず大きく後ろに飛んで距離を取る蒼。
同様に手毬も並んだ。
「どういう事だ。確かに当てたのに何の効果もなかったぞ」
「私に言われましてもねー」
そこで蒼は玖々莉の言葉を思い出す。
「そういえば前回、空間にズレを感じたとか何とか、あの人が言ってたっけか」
「玖々莉さんがですか?じゃあそれをどうにかしないと、浄化は見込めないってことですねー」
だが玖々莉はあの時調整したと言っていたが、それをどうやったのかまでは訊いていなかった事を思い出す。
完全に手探りで戦い方を見つけなければならない事実に、蒼は今更ながらに訊かなかった事を後悔した。
「ちっ、予想以上に厄介な事態じゃねぇか!」
若干の焦りを浮かべる蒼に対し、手毬はもうギブですかーといつもの調子で煽って来た。
蒼は苛立ちを込めて拳を握り直し、異形へと目標を定める。
「けっ、そこで見てろ手毬!これが四世家の力だ!」
そう言って蒼は左肩を前に出して右拳を引き手にした左構えを取った。
右の拳を中心にして、全身の霊力を溜め始める。
「いいですねー、どんどん調子に乗っちゃってください。そうすれば私は労する事もないですし、コケたらコケたでおもしろいですからねー。あ、でも蒼さんの骨は拾いたくないんで、いっそやられるなら骨も残さない方向でお願いしますよー?」
「ごちゃごちゃうるせぇ!黙って見てらんねぇのか!」
思考を巡らすだけではこの状況を打破できない。
だが凡その決着点を既に見い出している蒼は、自身の渾身の必殺技で挑む。
「『雷鳴』――覇王の鉄槌!!」
蒼の周囲に電光が迸り、パァン!!と乾いた音を響かせて飛び出し、異形との間合いを一瞬で詰めた。
その光の如きスピードに乗ったまま、霊力を雷に変換させて溜め込んだ右の拳を振り被る。
蒼の身体はその勢いそのままに異形を透過し、中庭の端の方で着地した。
そんな雷に打たれた異形は、その動きを止めて崩れ落ちる。
蒼が振り返ると異形は光の断片にはならず、そのまま無となり消えて行くのだった。
霊装を解除した蒼と手毬は、中庭から建物の方へと歩みを進める。
「やりましたねー。でも蒼さん、どうやって空間のズレを破ったんですか?」
そう訊ねられて、蒼は真顔で返答をする。
「あ?だから空間のズレごとぶん殴ったんだよ。したら上手くいった、それだけだ」
「んん?蒼さんにしては頭の悪そうな事言ってますねー。結果的に上手くいったから良かったような物ですけど」
「だから結果で示してんだろ。過程や仕組みなんて今はどうだっていい、ここで欲しいのは祓えるって言う実績だけだ」
「ま、蒼さんがそう言うなら別にいいんですけどねー。おかげで私は楽できましたから」
そう言い合いながら玄関まで辿り着き、扉を開けようとしたその時。
背後から複数の気配を感じ取った。
「……おい、お前が余計な事言うから敵がリポップしてんじゃねぇか」
目の前の中庭には、先程と近しい姿の異形が二体ほど見受けられる。
「いやいやいや、フラグ回収とかってレベルじゃないですよ。だってリポップのペース、完全にバグってますから」
更に追加で三体ほど現れた異形に対し、流石の二人も徐々に余裕を失くしていくのであった――。
中庭で異形と対峙した蒼と手毬。
「こいつが例の奴か。だが武器を持ってるなんて聞いてねぇぞ」
蒼は眼前の異形の腰に携えられている刀を見てそう言った。
鳴咲神社では確かに、神主の異形はそのような物は所持していなかった筈である。
まあ玖々莉が情報を言いそびれていた可能性も否定は出来ないが、とも思ったが。
不確定要素が多分に見て取れる敵を観察しながら、蒼は思考を巡らせる。
この支倉屋敷は、前回の鳴咲神社とは何かが違う。
敷地内の規模もそうだが、肌で感じ取れる感覚そのものが違うのだ。
前回よりもより一層歪んでいるように感じ、だからこそその奥まで見通すことが出来ないような、そんな感覚。
濁り切った水底までゆっくりと沈んでいく様な、得も言われぬ不安感にも苛まれるようだ。
だとすれば。
蒼の脳内に最悪の発想が過って来る。
眼前の怨霊、異形以上の存在の可能性が。
「蒼さん?そろそろこっちも霊装した方がいいんじゃないでしょうかー?」
手毬に急かされ、これ以上考えても仕方ないと判断し戦闘態勢を取る。
「……しゃあねぇ、やるしかねぇな!霊装――雷羅っ!」
まず蒼が目を閉じてその言葉を口にし、和装を纏った。
青を基調とした着物にスタイリッシュな黒の肩衣を着用し、両手には武器として使用する籠手が填められていた。
次いで手毬が霊装を行う。
「霊装――双葉!」
濃緑の着物は白の花柄をモチーフに、左側の髪には銀の小さな花飾りを。
武器は刀を二振り、それぞれ両手に持っていた。
霊装を終えた二人は一斉に異形へと飛び掛かる。
蒼は豪快に右の拳を打ち付けるように。
手毬は二刀を同時に走らせた。
が、異形はそれらを抜き出した刀一本で交互に受け流すと、そのまま蒼に追撃して来る。
咄嗟に左の籠手でそれを受けるも、二度三度と立て続けに迫り来る斬撃を何とか受けるので精一杯であった。
両手の籠手で交互に刀を捌く。
スピードは今のところ五分と五分、ならば決め手はパワーとなるか。
そう考えた蒼は敵の刀を受けるのに対し、その刀身の中ほど辺りを力いっぱいぶん殴った。
大きく弾き返す事に成功し、その隙を手毬も同様に見逃さず。
異形の前方には蒼の痛打を、後方には手毬の斬撃を見舞ったのだが。
「……あ!?手ごたえが、ねぇ?」
思わず大きく後ろに飛んで距離を取る蒼。
同様に手毬も並んだ。
「どういう事だ。確かに当てたのに何の効果もなかったぞ」
「私に言われましてもねー」
そこで蒼は玖々莉の言葉を思い出す。
「そういえば前回、空間にズレを感じたとか何とか、あの人が言ってたっけか」
「玖々莉さんがですか?じゃあそれをどうにかしないと、浄化は見込めないってことですねー」
だが玖々莉はあの時調整したと言っていたが、それをどうやったのかまでは訊いていなかった事を思い出す。
完全に手探りで戦い方を見つけなければならない事実に、蒼は今更ながらに訊かなかった事を後悔した。
「ちっ、予想以上に厄介な事態じゃねぇか!」
若干の焦りを浮かべる蒼に対し、手毬はもうギブですかーといつもの調子で煽って来た。
蒼は苛立ちを込めて拳を握り直し、異形へと目標を定める。
「けっ、そこで見てろ手毬!これが四世家の力だ!」
そう言って蒼は左肩を前に出して右拳を引き手にした左構えを取った。
右の拳を中心にして、全身の霊力を溜め始める。
「いいですねー、どんどん調子に乗っちゃってください。そうすれば私は労する事もないですし、コケたらコケたでおもしろいですからねー。あ、でも蒼さんの骨は拾いたくないんで、いっそやられるなら骨も残さない方向でお願いしますよー?」
「ごちゃごちゃうるせぇ!黙って見てらんねぇのか!」
思考を巡らすだけではこの状況を打破できない。
だが凡その決着点を既に見い出している蒼は、自身の渾身の必殺技で挑む。
「『雷鳴』――覇王の鉄槌!!」
蒼の周囲に電光が迸り、パァン!!と乾いた音を響かせて飛び出し、異形との間合いを一瞬で詰めた。
その光の如きスピードに乗ったまま、霊力を雷に変換させて溜め込んだ右の拳を振り被る。
蒼の身体はその勢いそのままに異形を透過し、中庭の端の方で着地した。
そんな雷に打たれた異形は、その動きを止めて崩れ落ちる。
蒼が振り返ると異形は光の断片にはならず、そのまま無となり消えて行くのだった。
霊装を解除した蒼と手毬は、中庭から建物の方へと歩みを進める。
「やりましたねー。でも蒼さん、どうやって空間のズレを破ったんですか?」
そう訊ねられて、蒼は真顔で返答をする。
「あ?だから空間のズレごとぶん殴ったんだよ。したら上手くいった、それだけだ」
「んん?蒼さんにしては頭の悪そうな事言ってますねー。結果的に上手くいったから良かったような物ですけど」
「だから結果で示してんだろ。過程や仕組みなんて今はどうだっていい、ここで欲しいのは祓えるって言う実績だけだ」
「ま、蒼さんがそう言うなら別にいいんですけどねー。おかげで私は楽できましたから」
そう言い合いながら玄関まで辿り着き、扉を開けようとしたその時。
背後から複数の気配を感じ取った。
「……おい、お前が余計な事言うから敵がリポップしてんじゃねぇか」
目の前の中庭には、先程と近しい姿の異形が二体ほど見受けられる。
「いやいやいや、フラグ回収とかってレベルじゃないですよ。だってリポップのペース、完全にバグってますから」
更に追加で三体ほど現れた異形に対し、流石の二人も徐々に余裕を失くしていくのであった――。
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