~魂鎮メノ弔イ歌~

宵空希

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第二章 子守唄

七話 甘草家

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甘草手毬には、別の人格が存在している。
俗に言う二重人格である。
普段は温和で気さくでたまにお調子者な手毬ではあるが、霊装をする事によってその別人格が現れる。
だがこれは精神的な問題ではなくて、寧ろ憑依に近い物であった。
幼い頃に死別した友人の魂が未だ成仏されず、時折、霊装を切っ掛けにして手毬の内から姿を見せるのだ。
手毬自身はそれに対して何も思いはしない。
ただちょっとだけ、友人の霊力が高かったが故に手毬本来の実力以上の力が出せてしまう事が気掛かりではあった。
のチート技を使っているのではないかと、そんな目で見られるのは嫌だなぁと思う年頃の女の子なのであった――。



手毬は現在、長旅になると考えて旅支度をしていた。
日帰りか何泊かになるのかは分からないが、とりあえず準備だけはしておいた方がいい。
旅館に泊まれるかすら怪しいのだ、場所が場所だけに野宿とかになるかもしれない。
多分玖々莉はツナしか持ってこないだろう、蒼は男子の為あてにならない。
なので手毬は女子ならではの事前準備を一手にせねばならないのだ。
そんな、このメンツでは何かと気苦労の多い手毬なのであった――。



「いやいや、手毬のターンはまだまだこれからですよ!」

という事なので、今回は甘草手毬にスポットを当てたいと思う。
甘草家は割と古くから続く家系であり、代々八重桜家のサポートを担ってきた。
八重桜玖々莉という飛び切りの実力者であり残念性能ポンコツが現れてからは当然、甘草の負担も大きくなっている。
そんなタイミングで代を引き継いだ手毬はまだまだ未熟ではあるが、基本魂鎮メの当主は若い者ばかりである。
言うなればスポーツ選手の寿命みたいなものだ。
霊装も霊力だけではなく集中力や体力を消耗する為、歳を追うごとに能力が劣化してしまう。
そういった意味では、手毬はまだまだ伸びしろがある若手当主と言えるだろう。

玖々莉は手毬の事を妹の様に思っているかもしれないが、実際どっちがお姉ちゃんをやっているのかは微妙なところである。
四世家の一角である八重桜の管理体制、管轄下の家の統率。
依頼の受注、仲介、下の者への報酬分配、クレーム対応、ほうれんそう等々。
殆どと言っていい程それらは甘草が行っており、当然まだ中学生の手毬だけでは対処しきれないので先代である両親や家系の人間が担っていたりもする。
ちなみに八重桜の先代も勿論やっているのだが、玖々莉の血筋であると言えば察しはついてくれるであろうか。
玖々莉の父は既に他界しているが、母の方はボケーっとしたお方なのだ。
つまりは最もサポート力が必要とされる家系、それが甘草家なのであった。

「よし!だいたいこんなもんですかねー」

旅支度を終えた手毬は気晴らしに買い物へと赴く。
必要最低限は家で揃えられたので、後は移動時に暇を潰せる類の物でも探しに行こうと考えていた。
今回も恐らくは藍葉家の自家用車で行く事になるだろう。
ならばそれなりの広さと自由な空間が用意される訳だから、それなりの遊びは出来ると予想し、無難に選んだのがそれであった。



駅にある中古ショップに入り、真っ先にそれを探す手毬。
すぐにそれを見つけ、レジに並んだ。
すると突然、横から声を掛けられる。

「おい手毬。お前、それをいつ何処でやるつもりだ?」

「あれー、蒼さんじゃないですか奇遇ですねー。これですか?勿論お宅の車内でですよー。みんなで気分上げるには最適じゃないですかー」

そう言って手毬は両手で持っている某ゲーム機のソフト『汚職パーティー10』を蒼に堂々と見せた。

「いやふざけんな、車内でテレビゲームなんかすんじゃねぇ。お前行き先ちゃんと理解してんだろうな?俺らは危ねぇ場所に行くんだぞ」

その発言でレジ周りにいた人たちが手毬たちの方へと視線を向ける。
だがそれを気にもせず、二人は会話を進める。

「だからじゃないですかー。あんな危険なとこに行くんですよ?身の保証もなく、身体を売りに行く様なものなんです。その前に楽しい思い出の一つでも作らせてくださいよー」

え?と周りの人たちが一斉に二人を見た。
中学生と思しき女の子と高校生らしき男の子が、何やら危険なワードを連発していると。

「身体を売る(身を削って祓うと言っているつもり)のが俺たちの役目だろうが、今更引き返す事なんて出来ねぇんだよ。産まれた時からそうだったろ」

え?産まれた時から身体売ってんの?と周囲に動揺が広がる中で、二人のやり取りが激化する。

「じゃあ蒼さんは手毬がどうなってもいいんですかー!?身体を奪われ、自我を失くし、永遠に彷徨う事になっても気にしないって事ですかー!?」

「だからそうならない為に忠告してんだろうが!お前マジで、死ぬぞ!!」

「——あー君たち、ちょっといいかな?」

手毬は声を掛けて来た巡回中だか何だかの警察官を視界に収めたその瞬間、全てを理解した。
頭の良い蒼の僅かコンマ二秒程先を行った手毬、故に次に取るべき行動も誰よりも先を行った。

「後はよろしくね、お兄ちゃん!」

「は?お、おい!」

手毬は瞬時に持っていたソフトを蒼に押し付けて、ダッシュでこの場を後にする。
手毬から楽しみを一つ奪った罰だと、蒼にウィンクを送りながら――。
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