~魂鎮メノ弔イ歌~

宵空希

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第二章 子守唄

二話 緊急会合

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四世家の当主たちは個性的で、纏まった試しがない。
それが現当主たちに対しての課題なのかもしれない。
芽唯は孤立していて尚且つ強情、人の意見など聞くタイプではなく。
蒼は生真面目さと口の悪さから、あまり良くは思われないタイプ。
玖々莉に至っては蒼とは真逆であり、責任感を放棄した人間の末路だ。
そんな面子をいつも宥め、場を収めるのが勇太であった。
なので勇太を欠いたこの状況下で如何に団結出来るかが今後の鍵になってくるのかもしれないし、そうではないのかもしれない――。



仰々しい建物は相も変わらず、その威厳を保つかのように聳えている。
ここは藍葉の本家。
勇太の実家にも似た作りの和風建築ではあるが、庭に遊び心はなく、広大な敷地面積いっぱいに木々が生い茂っているだけのある意味で殺風景な場所。
自然豊かと言えば確かにそうなのだが本質はそこではなく、藍葉の人間は生真面目で遊び心が全くないのだ。
朔耶も蒼も昔から勉強と修行ばかりで、玖々莉とは性格上の大きな亀裂があった。
いや、これは語弊である。
亀裂があったのはあくまでも弟だけであり、姉の方はいつも優しく見守ってくれていたように感じる。
 
立派な玄関を跨ぎ、中へと入る玖々莉と手毬。
既に沢山の靴が下駄箱に並べられていたので、どうやら二人は来るのが遅かったらしい。
使用人に案内されて大広間へと辿り着く。
玖々莉は四世家当主の為自然と蒼の座る上座へと案内され、手毬はまだ新米当主の為下座へと向かう。
大きく四角を作るようにして、当主たちは高価そうな座椅子に腰かけていた。
普段はこういった場に顔を出さないせいか「あれが八重桜の現当主か」「天才問題児」などと玖々莉は多方向から注目の的になる。
大して気にも留めないが、何となく煩わしいのも少しは感じるが。
座って早々に、そんな玖々莉へと隣の蒼が話し掛けてくる。

「気にすんな。あんたがここにいるってだけで、みんな余程の事態だと薄々勘付いているんだろう。だからあえて騒ぎ立ててんだ、気を紛らわす為にな」

何を言われるのかと思えば、蒼が自分に気を使ってくれている事に少しだけ驚いた。
まあ最後に直接会ったのはもう数年も前の話になるのだから、蒼が大人になっていてもおかしくはない。

「うん、ありがと」

「礼を言われるような事は言ってねぇよ。俺は事実を言ったまでだ」

「うん、そうだね」

そう言ってすぐに蒼は代表して会合の進行を始める。
けれどまだ四世家当主の二人が顔を出していない事に、玖々莉は不思議に思った。

「みんな、今日はよく集まってくれた。今回は事態が事態だった為、緊急という方法を取らせてもらった。まず初めに、まあ見れば分かると思うが。藤堂家当主、藤堂勇太が意識不明の重体となった」

「え?」

一気に場がざわつく。
四世家の一角に被害が出た事に、当主たちは動揺を隠せない。
それは玖々莉も同じで、今初めてその事実を知ったのであった。
だがそれに構わず蒼は続ける。

「そして先日の連絡を最後に今度は白百合家当主、白百合芽唯とも連絡が着かない。つまりは四世家の内の二家が動けない状態にある」

更にざわつきを見せる大広間で、同じように玖々莉も驚きを隠せないでいた。
芽唯とは特別仲が良かった訳ではないが、こうも不幸が重なると流石にショックを受ける。
勇太に関しては魂鎮メで唯一連絡先を知っている間柄なのだ。
顔見知り以上友達未満ではあるが、良き先輩くらいには玖々莉も思っていた。
少なくとも二人とも現在の魂鎮メではベスト4に入る実力者。
そんな二人が立て続けにやられるなんて、一体何があったのだろうか。
 
「ついては今後暫くの間、藤堂家と白百合家の管轄下の家は藍葉が仕切る事とする。尚、八重桜は実質現役が一人の為、これまで通り自らの管轄を纏めてもらいたい。次にその際に関しての報酬分配の話に移るが――」

あまり耳には入って来なかったが、蒼は淡々と会合を進めているようであった。
そうして緊急会合は終了し、未だうわの空の玖々莉を残して他の当主たちは帰って行った。



呆けたままの玖々莉に、蒼がお茶を持って来てくれた。
それを受け取って一口啜り、重く閉ざしていた口を開く。

「……蒼は、これからどうするの?」

玖々莉だって朔耶が失踪しているのは知っているし、蒼がずっと探し続けている事も知っている。
だが四世家が二家しか動けない今これまで以上に自由が利かなくなる状態で、蒼は今後どのような方針を立てていくのか。
そう言う意味合いでの質問であったのだが、本人からは想定外の話で返って来る。

「実は、会合では話してない事があるんだ。白百合芽唯からの連絡で、あいつは最後にこう言っていた。『藍葉朔耶の失踪先は何処かの禁地かもしれない』と。そこで俺も禁地について調べてみた。どうやら禁地が聖域と呼ばれていたのは遥か昔の話でな、今はもう呪われた地を指すようだ。今回、手毬に頼んで強引にでもあんたをここに連れて来てもらったのは、まあそう言う理由だ。頼む。俺と一緒に禁地に行ってくれないか?」

蒼が自分に頼みごとをしてくるなんて初めての事であった。
幼い頃は常に素っ気ない態度で、分かり合える日なんて来ないのではないかとも思っていたあの蒼が頭を下げている。
何だか玖々莉は不思議な気分になった。
勿論、答えは決まっている。

「報酬はツナおにぎり一年分」

「……あんた、その内身体壊すぜ?」

決着を見せた話し合いはそこで終わり、かと思いきや飛び入り参加希望者が現れる。

「いいですねー、友情って美しいです。あ、私も行きますから。玖々莉さんの面倒を見れる人がいないと、蒼さんも先が思いやられちゃいますよー?」

「手毬、まだいたんだ」

「だって玖々莉さん、一人で家まで帰れるか心配でしたし」

そう言って甘草手毬は快活な笑顔を浮かべ、二人へと参加の意欲を示した。
だが蒼は役不足だと思ったのか、手毬の参加に感じた心許無さをそのまま口にする。

「手毬、お前の実力じゃ今回は厳しい。禁地は生半可な場所じゃねぇ、だからお前は大人しく――」

「何言ってるんですか蒼さん?この魂鎮メ検定飛び級で霊装大会覇者の甘草手毬が、厳しいなんてそんな事ある訳ないじゃないですかー」

「検定?大会?そんなもんあったか?」

「はい、手毬主催で手毬のみ参加可能ではありますが」

「おい。……ったく、しょうがねぇな。まあ骨くらいは拾って帰ってやる」

「あ、結構です。自分の物は自分で拾いますから」

そんなやり取りをしながらも、三人は禁地の絞り込みからスタートさせる。

だが暫くして、玖々莉は友人である雑賀美冬の母から電話を受けた。
美冬に連絡が着かない、そう美冬の母は切迫した様子で話すのであった――。
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