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第21話
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「……ん? おい、柚希。あれ十夢先生じゃね?」
「えっ?」
ハッとして顔を上げる。エレベーターホールを涼やかな青年が一人で歩いているのが見えた。
「あっ……」
見間違えるはずもない。あれは十夢先生だ。今日の審査は終わったのか、どこか足取りが軽くなっていた。
「十夢先生!」
堪えきれず、柚希は彼の元に走り寄った。彼は足を止めてこちらを振り返った。
「おや、きみは……」
「オーディションを受けた高島柚希です。今日はどうもありがとうございました。それで、あの……」
「ああ、高島くんね。今日はお疲れさま。オーディション結果は一週間後に通知されるはずだから、それまで待っててね」
「え? いや、そうじゃなくて……」
「それじゃ、失礼するよ」
あっさりと柚希に背を向けてしまう十夢。あまりに素っ気ない態度を取られ、柚希は思わずその袖を掴んだ。
「ちょっと待ってください! 先生、本当におれのこと覚えてないんですか!?」
「放して」
乱暴に振り解かれ、ズキンと胸が痛んだ。なんでこんな冷たい態度を取るのか意味がわからない。仮に覚えていなかったとしても、「ずっとファンでした」と言った人に対して、これはさすがに失礼なのではないか。この人、本当に十夢先生なんだろうか。六年前はあんなに優しかったのに……。
「悪いけど、僕はこれから用があるんだ。オーディションの結果がわかるまではおとなしく待ってなさい」
「そういうことじゃないんです! おれはただ、先生のことが……」
思わず怒鳴りかけた時、横から若い女性の声が聞こえてきた。
「えっ?」
ハッとして顔を上げる。エレベーターホールを涼やかな青年が一人で歩いているのが見えた。
「あっ……」
見間違えるはずもない。あれは十夢先生だ。今日の審査は終わったのか、どこか足取りが軽くなっていた。
「十夢先生!」
堪えきれず、柚希は彼の元に走り寄った。彼は足を止めてこちらを振り返った。
「おや、きみは……」
「オーディションを受けた高島柚希です。今日はどうもありがとうございました。それで、あの……」
「ああ、高島くんね。今日はお疲れさま。オーディション結果は一週間後に通知されるはずだから、それまで待っててね」
「え? いや、そうじゃなくて……」
「それじゃ、失礼するよ」
あっさりと柚希に背を向けてしまう十夢。あまりに素っ気ない態度を取られ、柚希は思わずその袖を掴んだ。
「ちょっと待ってください! 先生、本当におれのこと覚えてないんですか!?」
「放して」
乱暴に振り解かれ、ズキンと胸が痛んだ。なんでこんな冷たい態度を取るのか意味がわからない。仮に覚えていなかったとしても、「ずっとファンでした」と言った人に対して、これはさすがに失礼なのではないか。この人、本当に十夢先生なんだろうか。六年前はあんなに優しかったのに……。
「悪いけど、僕はこれから用があるんだ。オーディションの結果がわかるまではおとなしく待ってなさい」
「そういうことじゃないんです! おれはただ、先生のことが……」
思わず怒鳴りかけた時、横から若い女性の声が聞こえてきた。
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