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第16話
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「お、柚希じゃん。おはよう」
事務所の先輩・永野翔太が話しかけてきた。彼は低く色気のある声の持ち主で、女性向けの作品に数多く出演している。BLにおいては常連さんだ。
「おはようございます、永野さん。今日はよろしくお願いします」
礼儀を守ってぺこりと頭を下げたら、永野はひらひらと手を振った。
「お前、BLのオーディション参加するの初めて?」
「はい。ゆーちゃんにオススメの仕事があるって社長に言われて」
「ははあ、やっぱりな。社長、だんだんそっちの方向に進出していくつもりらしいぜ? 女性向けの作品ならある程度の需要が見込めるし、コアなファンも多いから、普通のアニメに手を出すよりいいんだってさ。最近はBLのドラマCDも流行ってるしな」
「そうなんですか。じゃ、これからはこういう仕事のオファーが増えていくんですね?」
「だな。でもBLは結構演じるのが難しいから、初めてのお前にはちょっとキツいかもしれないぞ?」
「……わかってます。でも、今回は絶対役をゲットしますんで」
「えっ?」
そう言ったら、永野はポカンと柚希に目をやった。
「あれ、珍しいな。今日はやけに気合い入ってるじゃん。どうしたんだ?」
「いえ……こっちの話です。集中したいのでこれ以上話しかけないでくださいね」
「? なんだぁ?」
怪訝な顔をされたが、詳しいことを説明してやる余裕はなかった。柚希の頭の中は、十夢に対する強い想いでいっぱいになっていた。
オーディションで再会したら、十夢先生はどんな反応を示してくれるだろう。おれのこと、まだ覚えているだろうか。姿かたちは忘れても、この声だけは覚えていて欲しい。何しろ、このニューハーフボイスを最初に「好きだ」と言ってくれたのは十夢先生なのだから……。
緊張と不安と憧れと期待が同時に押し寄せて来て、柚希は無意識に身体を震わせた。
事務所の先輩・永野翔太が話しかけてきた。彼は低く色気のある声の持ち主で、女性向けの作品に数多く出演している。BLにおいては常連さんだ。
「おはようございます、永野さん。今日はよろしくお願いします」
礼儀を守ってぺこりと頭を下げたら、永野はひらひらと手を振った。
「お前、BLのオーディション参加するの初めて?」
「はい。ゆーちゃんにオススメの仕事があるって社長に言われて」
「ははあ、やっぱりな。社長、だんだんそっちの方向に進出していくつもりらしいぜ? 女性向けの作品ならある程度の需要が見込めるし、コアなファンも多いから、普通のアニメに手を出すよりいいんだってさ。最近はBLのドラマCDも流行ってるしな」
「そうなんですか。じゃ、これからはこういう仕事のオファーが増えていくんですね?」
「だな。でもBLは結構演じるのが難しいから、初めてのお前にはちょっとキツいかもしれないぞ?」
「……わかってます。でも、今回は絶対役をゲットしますんで」
「えっ?」
そう言ったら、永野はポカンと柚希に目をやった。
「あれ、珍しいな。今日はやけに気合い入ってるじゃん。どうしたんだ?」
「いえ……こっちの話です。集中したいのでこれ以上話しかけないでくださいね」
「? なんだぁ?」
怪訝な顔をされたが、詳しいことを説明してやる余裕はなかった。柚希の頭の中は、十夢に対する強い想いでいっぱいになっていた。
オーディションで再会したら、十夢先生はどんな反応を示してくれるだろう。おれのこと、まだ覚えているだろうか。姿かたちは忘れても、この声だけは覚えていて欲しい。何しろ、このニューハーフボイスを最初に「好きだ」と言ってくれたのは十夢先生なのだから……。
緊張と不安と憧れと期待が同時に押し寄せて来て、柚希は無意識に身体を震わせた。
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