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第22章~トーナメント・第五死合い~
第34話
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「だいたいお前、本当の意味で襲われたことないでしょう? だからそんな悠長なことを言っていられるんだ。殴られて連れ去られそうになったのだって、厳密には未遂だもんね。本当に恐ろしいのはそこから先だ。実際に娼館に連れ込まれて、大勢の男にマワされて、挙句何ヵ月も監禁されたら、とてもじゃないけど正気なんて保てない。きっとお前は、耐えられなくなって自ら破魂を選んじゃうだろうね」
「そんな……」
さすがに破魂はない……と言いたかったが、咄嗟に否定できなかった。正直、兄以外の男に襲われたらしばらく立ち直れなさそうだし、兄にも申し訳なくて一人で引きこもってしまいそうだ。
どう答えていいかわからないでいると、兄は長い息を吐き一緒に言葉も吐き出した。
「……私はね、お前を守るためだったらどんなに汚れてもいいと思っている。逆恨みされたって構わないし、お前から『迷惑だ』って言われても――ショックではあるけど――やめるつもりはない。ヴァルハラの民度は本当に両極端で、いい人はいいけど悪い人はどうしようもないワルだからね。お前を守るには、何かが起こる前に釘を差すしかないんだ。誰が何と言おうと、これだけは絶対に譲れない」
「…………」
「……お前にだけは、綺麗なままでいて欲しいんだ……」
最後はほとんど絞り出すような声になっていた。
兄の切実な訴えを聞いていたら、急に胸が痛くなってきた。叩かれた頬よりも心臓の辺りが痛くてたまらず、アクセルは静かに目を伏せた。
「兄上……あの、俺……」
「そんな……」
さすがに破魂はない……と言いたかったが、咄嗟に否定できなかった。正直、兄以外の男に襲われたらしばらく立ち直れなさそうだし、兄にも申し訳なくて一人で引きこもってしまいそうだ。
どう答えていいかわからないでいると、兄は長い息を吐き一緒に言葉も吐き出した。
「……私はね、お前を守るためだったらどんなに汚れてもいいと思っている。逆恨みされたって構わないし、お前から『迷惑だ』って言われても――ショックではあるけど――やめるつもりはない。ヴァルハラの民度は本当に両極端で、いい人はいいけど悪い人はどうしようもないワルだからね。お前を守るには、何かが起こる前に釘を差すしかないんだ。誰が何と言おうと、これだけは絶対に譲れない」
「…………」
「……お前にだけは、綺麗なままでいて欲しいんだ……」
最後はほとんど絞り出すような声になっていた。
兄の切実な訴えを聞いていたら、急に胸が痛くなってきた。叩かれた頬よりも心臓の辺りが痛くてたまらず、アクセルは静かに目を伏せた。
「兄上……あの、俺……」
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