転生したらいろんな意味で兄に可愛がられています~ヴァルハラで死合いましょう~

夢咲まゆ

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第19章~トーナメント・第二死合い~

第56話

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「そっか……初めての踏破で余程ひどい幻聴でも聞いたのかな? まあでも、多少の困難はないと鍛錬にならないから、ある程度は我慢しないとね」
「は、はい……」
「じゃ、行こうか」

 すっ……と兄が離れていき、前方を歩いていく音が聞こえる。

 少しでも離れたら兄が暗闇に溶けていってしまう気がして、アクセルも慌てて兄を追った。あまり離れたくないのに、周りが狭く足元もよくないせいか、いつもの速度で追いかけられないのがもどかしかった。

 ――マズい……兄上の足音がどんどん遠ざかっている気がする……。

 実際にはどれだけ離れているかわからない。視界も利かないし、狭い洞窟に足音が反響してしまうせいで、お互いの正確な位置は不明だ。

 けれどアクセルには、兄がどんどん離れて行っている気がしてならなかった。離れれば離れるほど不安が蓄積していって、胸が押し潰されそうな感覚に陥った。

「あ、兄上、待ってくれ……!」

 前方に手を伸ばしても、掴み返してくれる手はない。

 もしかして自分だけ取り残されてしまったんじゃないか。兄は手の届かない遠い場所に行ってしまったんじゃないか。このまま独りぼっちで彷徨わないといけないんじゃないか。

 自分だけここから出られなかったらどうしよう……。

「うう……兄上ぇ……」

 震える声で兄を呼んだ。だけど答えてくれる声はなく、自分の声だけが洞窟に反響してしまう。

 足音も自分のものしか聞こえなくなり、ますます孤独感が深まっていく。
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