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第7章~ラグナロクの最中に~

第87話

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 彼女は言い聞かせるように言った。

「ごめんなさい、フレイン。もう行かなければならないのよ。あなたはいい子でお留守番しててね」
「どこに行くの? いつ帰ってくる?」
「あなたがいい子にしていれば、あっという間よ」
「…………」

 それを聞いた兄は、黙って視線を落とした。そして小さく呟いた。

「……母上は嘘ばかりだ」
「え?」
「……何でもない。いってらっしゃい」

 それだけ言うと、兄は諦めたように自分から母に背を向けた。母がどこに行くつもりなのかも、もう帰って来ないであろうことも、全てわかっているような様子だった。小さな子供であっても、親の嘘は見破られるらしい。いや、単に兄が賢いだけなのか……。

 ――あんな女性が母なのか……。

 懐かしいどころか、逆に落胆してしまう。

 あの様子から察するに、多分父とは違う別の男性のところに行ったのだろう。要するに不倫だ。父は出陣で長期間不在になることが多かったから、若い母親は退屈していたに違いない。

 しかしだからと言って、子供がいる身で育児を放り出して他の男のところに行くとは何事かと思う。常に貞淑であれとは言わないが、あれではあまりに兄が可哀想だ。自分が母親だったら、四六時中一緒にいてあげるのに。

 心配になって兄を追いかけたら、兄は一人で草原にしゃがみ込んでいた。手元の草をブチッと引き抜き、八つ当たり気味にまたブチッと草を抜いた。
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