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第3章~新たなる試練~

第169話

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 森の中に、巨大なイノシシが倒れている。かつてランゴバルトが誘き出したイノシシ神より、もっと大きなものだった。

「……!」

 そんな中、倒れたイノシシの腹を兄が必死に切り開いていた。見たことがないほど慌てていて、綺麗な金髪も乱れていた。

 ――兄上……?

 兄は何をあんなに取り乱しているのだ? 俺は何を見ているのだ? 森で一体何が起こったのだろう……?

 兄上、と呼びかけようとしたのに何故か声が出なかった。近づいて触れようとしたのに、触ることもできなかった。というか、兄には自分の姿が見えていないようだった。

 夢だからそういう変なことも起こり得るのかもしれないが……。

 兄が身の丈ほどもありそうなイノシシの胃袋を引きずり出し、それを太刀で薄く切り裂く。中からはイノシシが食べたと思しき草や肉(を消化したもの)、それと人の脚部のようなものが出てきた。よく見れば脚だけでなく腕、溶け残りの頭部まであった。正直、あまり積極的に見たいものではなかった。

「……ああ……」

 がくりと兄が膝を折る。四つん這いの格好でうずくまり、細かく背中を震わせている。どうやら泣いているみたいだ。

 ――兄上……。

 夢の中とはいえ、兄の涙を見たのは久しぶりだった。兄もこんな風に泣くのかと、少なからず衝撃を覚えた。

 慰められるものなら慰めてやりたい。声も出せず、触れることもできないのがもどかしかった。兄に会えたのは嬉しいが、よりにもよって何故こんな夢を見なければならないのかと、自分の頭を少し恨んだ。
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