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初めてのお稽古編
第35話
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「それにしても、きみ達もなんで何も言ってくれなかったの? 母にこれこれこういうことを言われた、ってあらかじめ相談してくれれば、何かしらの対応策を考えたのに」
「すみません……。若旦那のお手を煩わせてはいけないと思いまして」
美和のムチャ振りに唯々諾々と従ってしまった男たちだが、彼らも本当は悪い人たちではないのだろう。それは今までの言動からして明らかだ。
(……面倒なのは美和さんだけってことか……)
諸悪の根源はわかっている。けれど、こればかりはどうすることもできない。実子の祐介ですら手を焼いているのだ。トラブルが起こりそうな時は上手くやりすごすしかない。
すると市川は重い息を吐いて、すっ……と立ち上がった。
「ああ胸糞悪い。祐介、俺はもう帰るわ。しばらく屋敷には顔出さないから、よろしくな」
「……そうだね。ごめん、健介」
「謝るくらいなら、あの母親をなんとかしてくれよ」
「それは……」
「夏樹、行くぞ」
「……え? あ、はい……」
取り付く島もなく、市川が倉庫を出て行く。仕方なく夏樹もその後に続いた。
お互い無言で車に乗り込み、屋敷を後にする。市川の運転がいつもより荒っぽかった。明らかに怒っていた。
(先生……)
これから弟子としてバリバリお稽古をつけてもらうつもりだった。市川と一緒にお茶の勉強をしていくつもりだった。
でも、このままギスギスした関係が続くなら、いっそのこと……。
夏樹の中で、初心の決意が揺らぎつつあった。
「すみません……。若旦那のお手を煩わせてはいけないと思いまして」
美和のムチャ振りに唯々諾々と従ってしまった男たちだが、彼らも本当は悪い人たちではないのだろう。それは今までの言動からして明らかだ。
(……面倒なのは美和さんだけってことか……)
諸悪の根源はわかっている。けれど、こればかりはどうすることもできない。実子の祐介ですら手を焼いているのだ。トラブルが起こりそうな時は上手くやりすごすしかない。
すると市川は重い息を吐いて、すっ……と立ち上がった。
「ああ胸糞悪い。祐介、俺はもう帰るわ。しばらく屋敷には顔出さないから、よろしくな」
「……そうだね。ごめん、健介」
「謝るくらいなら、あの母親をなんとかしてくれよ」
「それは……」
「夏樹、行くぞ」
「……え? あ、はい……」
取り付く島もなく、市川が倉庫を出て行く。仕方なく夏樹もその後に続いた。
お互い無言で車に乗り込み、屋敷を後にする。市川の運転がいつもより荒っぽかった。明らかに怒っていた。
(先生……)
これから弟子としてバリバリお稽古をつけてもらうつもりだった。市川と一緒にお茶の勉強をしていくつもりだった。
でも、このままギスギスした関係が続くなら、いっそのこと……。
夏樹の中で、初心の決意が揺らぎつつあった。
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