市川先生の大人の補習授業

夢咲まゆ

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春休み編

第33話

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 夏樹は試しに聞いてみた。

「ちなみにお手伝いさんってどういうことをするんですか?」
「家の雑用全般かな。家事ができるのはもちろんだけど、家元やその弟子の身の回りの世話もすることがあるよ」
「そ、そうですか……」

 ……ちょっと不安になってきた。

(家事、あんまり得意じゃないんだけどな……)

 あと一年で、炊事や掃除を練習しておかないとマズいかもしれない。受験勉強も必要だが、花嫁修業も必要ということか。

 ふと、祐介が足を止めた。夏樹もつられて立ち止まった。そこには六文銭を象った大きなつくばいがあった。夜でも鹿威しの先から、ポタ……ポタ……と水滴が落ちている。水道の元栓がわずかに緩んでいるような感じだ。

「あの……水、ちゃんと止めなくていいんですか?」
「いいんだよ。水面を波立たせておかないとボウフラが湧きやすくなるからね」
「えっ? そうなんですか?」
「そうだよ。わざと一定間隔で水滴を落として、夜でも水面を波立たせているんだ。何も知らないお手伝いさんは、完全に水止めてよく怒られるんだけどね」
「へえ……」

 それはいいことを聞いた。忘れないように、心のノートにメモっておこう。

「それより夏樹くん、ちょっとここ見てくれる? 文字が書いてあるでしょう」
「……え? どこですか?」
「このつくばいの周りに。大きな口を中心に、時計回りに読んでみるとある文章が浮かび上がってくるんだよ」
「えっ? ホントに?」
 夏樹は目を凝らしてつくばいを見やった。六文銭のつくばいに、四つの文字が刻まれている。上、右、下、左の順に、「五、隹、疋、矢」と書いてあった。一体何て読むのだろう。
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