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春休み編

第28話

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「あ、サンキュー。後は俺がやっとくから、道具はそこ置いといて」

 お手伝いさんの足音が遠ざかってから、市川はタライとタオルを茶室に取り込んだ。タライは罰ゲームで上から落ちてくるような銀色のタライではなく、昔ながらの洗濯ダライのようだった。

 市川はお釜に沸いていたお湯をタライに開け、水と合わせて温度を調節した。そこに清潔なタオルを浸し、固く絞って渡してくる。

「ほらよ。これで身体拭け」
「あ……ありがとうございます」

 夏樹はホカホカの濡れタオルを受け取り、全身を丹念に拭き取った。

 表面的な汚れは全て落とし(さすがに中はどうにもならなかった)、一通りさっぱりしたところで夏樹は服を身につけた。

 市川も手早く身体の汚れを落とし、さっと和服を着直した。

「それで夏樹、今日はお前らどこに泊まるんだ? どこかホテルでも予約してるのか?」
「……えっ? それは……」

 そう言えば、宿のことは全く考えていなかった。市川の実家に行けばなんとかなるだろうと思っていたけれど、自分から「泊めてください」と言うのはさすがに図々しい。

 すると夏樹の心情を見抜いたのか、市川が軽く笑みを漏らした。

「ああ、まだ決まってない? じゃあうちに泊まっていくか?」
「いいんですか? 翔太もいますけど」
「いいって。部屋はいっぱい余ってるしさ」
「そうですか。ありがとうございます」

 ……まあ、最初から泊まる気満々だったのだが。

「しかし……どうすっかな。お前らをなんて紹介するのが一番いいか……」

 と、市川が顎に手を当てる。

「『高校の教え子です』でいいじゃないですか」
「それで大丈夫かね? 美和さんに目をつけられないかな」
「……ああ、祐介さんのお母さんでしたっけ。嫌がらせが激しいとかいう……」
「そうなんだよ。下手に俺と関係があるってバレると面倒なんだよな。地味に姑息なことをしてくるからさ……」
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