市川先生の大人の補習授業

夢咲まゆ

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春休み編

第7話

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「ふー……」

 とはいえ、ここで怖気づくわけにはいかない。

 夏樹は勇気を出して木製の門を開けた。インターフォンのようなものがなかったので、「ご自由にお入りください」という意味だと勝手に解釈することにした。

 建物の扉の前まで行き、周りの様子を確かめる。これまたインターフォンのようなものはなかった。

 仕方なく、翔太に確認してみる。

「……これ、勝手に開けていいと思う?」
「いいんじゃない? 多分、昔ながらの家なんだと思うよ。ほら、よくあるじゃない? 扉を開けて玄関で『ごめんくださーい』って言うやつ」
「……はあ、やっぱりか。面倒だなぁ……」

 さすがに少し辟易したが、文句を言っても仕方がない。

 夏樹は思い切って扉を開け、玄関で声を張り上げた。

「ごめんくださーい! どなたかいらっしゃいませんかー?」
「……はーい、ちょっと待ってくださいねー!」

 廊下の奥から声が聞こえ、しばらくして若い二十代の男性がやってきてくれた。紺色の和服に身を包んでいる、端整な男性だ。穏やかで優しそうな雰囲気をしている。

 ただ、杖をついているのでかなり歩みが遅かった。どうやら足が悪いらしい。

 男性は夏樹たちを眺めて、少し首をかしげた。

「ええと、どちら様かな? 入門希望者……ではないよね?」
「は、はい。あの、こちらに市川……じゃない、『真田健介』さんはいらっしゃいますか?」
「ああ、健介のお客さんか。健介なら今ちょうどお稽古が終わったところだから、呼んで来てあげるよ」
「あ、でも……」

 杖ついている人に歩かせるのは悪いな……と思っていると、奥から軽快な足音が聞こえて来た。その人物は、杖の男性と同じく紺色の和服を着ていた。
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