244 / 393
春休み編
第6話
しおりを挟む
家元のお屋敷は本当に山奥にあるらしく、最寄り駅から降りて、更に舗装された山道を歩かなければならないようだった。
山奥だろうがどこだろうが関係ない……とは思っていたものの、さすがに歩いて行くのはしんどい場所だ。今更ながら、翔太とタクシーを使って割り勘した方がよかったのではないかと思った。
「それにしても、先生の実家ってすごい場所にあるんだね。これじゃスマホの電波も入らなさそう」
「あー……確かに。俺が送ったメッセージも全然既読つかなかったけど、もしかしたら山奥すぎて電波が届きづらかったのかも……」
そう考えると、夏休みに一定期間音信不通になったのも納得がいく。
今までは「浴衣を十着縫っていたためだ」と思っていたが、浴衣制作中でも電話やメールくらいできるはずだ。それを全くして来なかったということは、実家に帰っていた可能性が高い。夏休み中――しかもお盆期間だったから、十日ほどの帰省は当たり前だ。
(でも……それならそうと説明して欲しかったな……)
思えば市川は、実家に関することはあまり話したがらなかった。本名の「真田健介」ですら、元カノ・伶花とのやり取りで判明したくらいである。
余程事情が複雑なのか、親戚との関係がよくないのか、それとももっと別の理由があって……?
「あ、なっちゃん。あれかな?」
「……え?」
翔太に袖を引っ張られ、夏樹は我に返って顔を上げた。
目の前には、和風の高級旅館らしき建物が聳え立っていた。
(これが先生の実家……)
ここが噂に聞く「真田流本家御家元」のお住まいらしい。門を開ける前から背筋がピシッと伸びる心地がする。今更だけど、だんだん緊張してきた。
山奥だろうがどこだろうが関係ない……とは思っていたものの、さすがに歩いて行くのはしんどい場所だ。今更ながら、翔太とタクシーを使って割り勘した方がよかったのではないかと思った。
「それにしても、先生の実家ってすごい場所にあるんだね。これじゃスマホの電波も入らなさそう」
「あー……確かに。俺が送ったメッセージも全然既読つかなかったけど、もしかしたら山奥すぎて電波が届きづらかったのかも……」
そう考えると、夏休みに一定期間音信不通になったのも納得がいく。
今までは「浴衣を十着縫っていたためだ」と思っていたが、浴衣制作中でも電話やメールくらいできるはずだ。それを全くして来なかったということは、実家に帰っていた可能性が高い。夏休み中――しかもお盆期間だったから、十日ほどの帰省は当たり前だ。
(でも……それならそうと説明して欲しかったな……)
思えば市川は、実家に関することはあまり話したがらなかった。本名の「真田健介」ですら、元カノ・伶花とのやり取りで判明したくらいである。
余程事情が複雑なのか、親戚との関係がよくないのか、それとももっと別の理由があって……?
「あ、なっちゃん。あれかな?」
「……え?」
翔太に袖を引っ張られ、夏樹は我に返って顔を上げた。
目の前には、和風の高級旅館らしき建物が聳え立っていた。
(これが先生の実家……)
ここが噂に聞く「真田流本家御家元」のお住まいらしい。門を開ける前から背筋がピシッと伸びる心地がする。今更だけど、だんだん緊張してきた。
0
お気に入りに追加
603
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
「学校でトイレは1日2回まで」という校則がある女子校の話
赤髪命
大衆娯楽
とある地方の私立女子校、御清水学園には、ある変わった校則があった。
「校内のトイレを使うには、毎朝各個人に2枚ずつ配られるコインを使用しなければならない」
そんな校則の中で生活する少女たちの、おしがまと助け合いの物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる