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春休み編

第6話

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 家元のお屋敷は本当に山奥にあるらしく、最寄り駅から降りて、更に舗装された山道を歩かなければならないようだった。

 山奥だろうがどこだろうが関係ない……とは思っていたものの、さすがに歩いて行くのはしんどい場所だ。今更ながら、翔太とタクシーを使って割り勘した方がよかったのではないかと思った。

「それにしても、先生の実家ってすごい場所にあるんだね。これじゃスマホの電波も入らなさそう」
「あー……確かに。俺が送ったメッセージも全然既読つかなかったけど、もしかしたら山奥すぎて電波が届きづらかったのかも……」

 そう考えると、夏休みに一定期間音信不通になったのも納得がいく。

 今までは「浴衣を十着縫っていたためだ」と思っていたが、浴衣制作中でも電話やメールくらいできるはずだ。それを全くして来なかったということは、実家に帰っていた可能性が高い。夏休み中――しかもお盆期間だったから、十日ほどの帰省は当たり前だ。

(でも……それならそうと説明して欲しかったな……)

 思えば市川は、実家に関することはあまり話したがらなかった。本名の「真田健介」ですら、元カノ・伶花とのやり取りで判明したくらいである。

 余程事情が複雑なのか、親戚との関係がよくないのか、それとももっと別の理由があって……?

「あ、なっちゃん。あれかな?」
「……え?」

 翔太に袖を引っ張られ、夏樹は我に返って顔を上げた。

 目の前には、和風の高級旅館らしき建物が聳え立っていた。

(これが先生の実家……)

 ここが噂に聞く「真田流本家御家元」のお住まいらしい。門を開ける前から背筋がピシッと伸びる心地がする。今更だけど、だんだん緊張してきた。
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