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冬休み編

第29話

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(「別れよう」なんて……そんなの、嘘に決まってる……)

 あれはきっと一時的な気の迷いだ。いろいろなことがいっぺんに起こったから、先生も少しネガティブになっていたんだ。きっとそうだ。

(まあいいや……)

 今は何も考えたくない。

 明日になれば頭も冷えるだろうし、電話してちゃんと話し合えば関係も元に戻るはずだ。俺たちが別れる必要なんて全然ないんだから……。

 夏樹は気を失うように眠りについた。夢も見なかった。多分、今日の出来事そのものが夢だったからだろう。

 次に目覚めた時は、顔の怪我も全部消えていて、市川とイチャイチャしながら年末年始の過ごし方を考えている。そうに違いない……。

***

 翌日、夏樹は昼過ぎになってようやくベッドから抜け出した。未だに頭がボーッとしていた。細かい思考力は目覚めていなかったが、生理的な空腹と喉の渇きは感じていた。

 のろのろと冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターをがぶ飲みする。冷え切ったハムやチーズがあったので、それを取り出して余ったパンに挟み、機械的に口に運んだ。

 ぼんやりしたまま食事を終わらせ、血糖値を上げたところでシャワーを浴びることにした。

 額のガーゼや唇の絆創膏をそっと剥がし、裸になって風呂場に入ったら、鏡に映った自分の姿が目に入った。

 ほっそりと痩せこけ、頬には青アザができ、唇は切れて、額には四針縫った痕が残っていた。自分でも痛々しくて、つい目を逸らしてしまった。こんな顔じゃ、しばらく外出できそうにない。

 痛みを堪えながらシャワーを浴び、なんとか身体の汚れを落としてから風呂場を出た。

 ようやく頭がハッキリしてきたので、夏樹は自分の部屋に戻った。時刻は午後二時を過ぎていた。
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