市川先生の大人の補習授業

夢咲まゆ

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冬休み編

第19話

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「よう、夏樹。待ったか?」

 ぴったり一時間後に、市川の車がやってきた。

 夏樹は複雑な気分で見慣れた車を見つめた。

(ああ……やっちゃった……)

 上手い言い訳が思いつかなかったのもあるが、結局市川に会いたいという本心が勝ってしまった。

 やっぱり自分は、何があっても市川から離れられないのだ。それをまざまざと思い知らされた。

「あれ? お前、ちょっと見ない間に痩せてないか? 大丈夫か?」

 市川が軽く頬を撫でてくる。

 夏樹はやんわりとその手を払いのけ、あえてツンとした口調で言った。

「大丈夫ですよ。変な心配しないでください」
「そうか? でもなんか、頬のあたりが痩(こ)けてるように見えるんだけど。ちゃんと食事してるのか?」
「……してますって」

 これは嘘だ。精神的なストレスがかかって食欲が全く湧かず、一日一食採るのがせいぜいだったのだ。体重が落ちているのは自覚している。

 市川が苦い顔をした。

「なんか心配だなぁ……。じゃあ、今日は夏樹の好きなもん食べさせてやるよ。何食べたい?」
「いや、そんなに食欲ないんで……」
「じゃあお茶漬け専門店にでも行く? それならサラッと食べられるだろ」
「だから食べ物はいらないですってば」

 夏樹はさっさと助手席に乗り込んで、言った。

「それより、今日はクリスマスでしょ。デートスポットは混んでるだろうから、ホームセンター連れてってください。そこで新しい花の種を買います」
「そんなんでいいのか? お前、相変わらず物欲に乏しいねぇ」

 もっとおねだりしてくれていいのに、とぼやく市川。

 そんな市川を横目で見つつ、夏樹は頭の中から雑念を追い払った。今だけは……市川と一緒にいる時だけは、河口のことは気にしないでいたかった。
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