市川先生の大人の補習授業

夢咲まゆ

文字の大きさ
上 下
166 / 393
文化祭編

第13話

しおりを挟む
 夏樹は早速お茶碗に口をつけた。口元に持ってきた途端、濃厚なお茶の香りがふわっと広がった。

(うわ、何これ……!)

 泡モコモコの抹茶はお店で飲んだことがあるけれど、それとは香り方が全然違う。

 水面が剥き出しになっているせいか、お茶の香りがダイレクトに伝わってくるのだ。こんな美味しいお茶、初めて飲んだかもしれない。思わず感激してしまった。

「な? ちゃんと点てた抹茶は美味いだろ?」

 と言いつつ、市川は二椀目の薄茶を点て始める。再びサッサッと茶筅を動かし、水面を半月状に残したまま翔太に出した。

(体育の授業してる先生もいいけど、お茶やってる先生もかっこいいかも……)

 意外と多才なんだな、と思う。スポーツはもちろん、料理もできるしお茶も点てられるし、浴衣も縫えて着付けもできる。ちょっと抜けているところはあるが、それくらいの方が完璧すぎるより親しみが湧くというものだ。

 俺も先生に飽きられないように、努力しなくちゃ……。

 翔太が完全に抹茶を飲み切ったところで、市川が言った。

「ちゃんと味わったか? もう一服いる?」
「いえ、もう十分です。ごちそうさまでした」

 ぺこり、と三つ指ついてお辞儀をする。美味しい抹茶とお饅頭を味わえて、今日のところは満足だ。次はキチンと作法を勉強したいところだが。

「そうか。じゃあ俺はここを片付けていくから、お前らは先に帰ってな」
「はい。どうもありがとうございました」

 早速立ち上がろうと、夏樹は片膝を立てた。

 ところが……。

「おわっ!」

 脚に力が入らず、その場で豪快に転んでしまった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ひょっとしなくても・・・きっと私だけ??よね。

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

悪役令息の取り巻きに転生した俺乙

BL / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:2,094

婚約破棄を告げたらどうなる?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

悪役令嬢エリザベート様は一途な夢を見る

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:23

【完結】華麗なるマチルダの密約

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,187pt お気に入り:455

教室の戸を開けたら、そこには......中学生の、私がいた。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:6

半隠居爺の猛毒覚え書き

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:2

処理中です...