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夏休み編

第20話

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「……そういうところがムカつくんですよ」
「え?」
「何なんですか。俺のこと馬鹿にしてるんですか? それとも、俺が十歳も年下だから、子供だと思ってるんですか?」
「いや、そういうことじゃ……」
「そういうことでしょ! いつも『可愛い』とか『愛してる』とか囁いてくるくせに、自分のことは全然話してくれないじゃないですか! それで対等な恋人でいられると思ってるんですか? 俺はあなたに可愛がられるだけのペットじゃないんですよ!」
「ペットだなんて思ってないって。でもほら、誰にだって言いにくいことのひとつやふたつ、あるじゃん?」

 開き直りに近いような発言に、ついに鬱屈した怒りが爆発してしまった。

「ああ、そうですか! ならもういいです! 先生なんか知りませんっ!」
「あ、おい夏樹!」

 市川が止めるのも聞かず、夏樹は人混みの中を駆け出していた。走って、走って、走って、市川の手の届かないところに行きたかった。とにかく彼から離れたかった。

「はあ……はあ……」

 走れるところまで走ったら、人気の少ない神社の裏通りに着いた。神社を挟んで反対側は祭りの屋台等で賑わっているが、こちら側は比較的静かなものだ。

 夏樹は空いている石段に腰掛け、履いていた下駄を脱いだ。慣れない下駄で走ったため、靴擦れができてしまっていた。鼻緒の部分が足の指に擦れて痛い。

「……はあ……」

 深々と溜息をつき、地面を這っている蟻を見つめた。ウロウロと落ち着きなく動き回り、どこに行こうとしているのかわからない。

(……俺、一体何やってるんだろ……)

 せっかくのデートだったのに喧嘩してしまった。いや、喧嘩というより夏樹が一方的にキレたという方が正しいか。何もあそこまで怒ることなかったのに。

 これからどうしよう……ともうひとつ溜息をついたところで、横から誰かに声をかけられた。
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