89 / 134
第八十九話
しおりを挟む
「九尾、三尾、ここで待っててくれ。俺、ちょっと外の様子を探ってくる」
「……えっ、一人で?」
「ああ。最初の男性を見ただろ? 俺が話しかけた時は態度が変わらなかったのに、お前らを見た途端、態度が豹変した。きっと妖怪だけに反応する呪詛なんだ。だから俺が偵察がてらエレベーターを止めてくるから、お前らはそれまでここにいてくれ」
そう言い置き、晴斗はトイレの個室を出ようとした。自分は正真正銘の人間だから、テレビ局の人間に見つかっても追いかけ回されることはないはず。
ところが……。
「ま、待ってくれ! 晴斗、行かないで……!」
九尾が必死の形相で腕を掴んできた。
「行っちゃ駄目だ。ここで別れたら、あの時と同じになる。あの時も晴明は、自分が他の人を引き付けるからと言って、私から離れて行ってしまった。これは絶対玉藻前の罠だ。ここで離ればなれになったら、あの女の思う壺だ」
「いや、それはさ……」
「お願いだ……晴斗、側にいてくれ。私はもう、あんな思いはしたくないんだ……」
紫色の瞳が揺れている。そこには不安と恐怖と、大きな悲しみがあった。そんな顔をされたら、出て行けなくなってしまう。
「でも……じゃあ一体どうすりゃいいんだよ?」
「しょーがないなぁ……。それじゃあここは、僕が人肌脱ぎましょうか」
三尾が自分の肩を揉みながら、ぐるりと首を回した。
「僕が出て行って人間たちを引き付けるから、きみたちはその隙に階段使って十三階まで上がりなよ。作戦としては、そっちの方が確実だ」
「はっ? いや、でも……それじゃお前が捕まっちゃうんじゃ」
「捕まらないよ。玉藻前ほどじゃないけど、僕だって呪詛は得意なんだ。囲まれても脱出できるくらいの力はある」
「三尾……」
「それにあんたのエレベーター作戦、ハッキリ言って穴だらけだからね。エレベーター止めてくれるのはいいけど、そこに乗り込んで十三階に到着する前に他の人間が乗ってきたら逃げ場がない。あのエレベーターが十三階に直通してるかもわからないし、それ以前に、エレベーター前ではたくさんの人間が見張ってる。どうやって無事に乗り込めって言うのさ?」
「う……」
「というわけで、あんたの作戦は却下。ここは僕の囮作戦で行くよ」
「……えっ、一人で?」
「ああ。最初の男性を見ただろ? 俺が話しかけた時は態度が変わらなかったのに、お前らを見た途端、態度が豹変した。きっと妖怪だけに反応する呪詛なんだ。だから俺が偵察がてらエレベーターを止めてくるから、お前らはそれまでここにいてくれ」
そう言い置き、晴斗はトイレの個室を出ようとした。自分は正真正銘の人間だから、テレビ局の人間に見つかっても追いかけ回されることはないはず。
ところが……。
「ま、待ってくれ! 晴斗、行かないで……!」
九尾が必死の形相で腕を掴んできた。
「行っちゃ駄目だ。ここで別れたら、あの時と同じになる。あの時も晴明は、自分が他の人を引き付けるからと言って、私から離れて行ってしまった。これは絶対玉藻前の罠だ。ここで離ればなれになったら、あの女の思う壺だ」
「いや、それはさ……」
「お願いだ……晴斗、側にいてくれ。私はもう、あんな思いはしたくないんだ……」
紫色の瞳が揺れている。そこには不安と恐怖と、大きな悲しみがあった。そんな顔をされたら、出て行けなくなってしまう。
「でも……じゃあ一体どうすりゃいいんだよ?」
「しょーがないなぁ……。それじゃあここは、僕が人肌脱ぎましょうか」
三尾が自分の肩を揉みながら、ぐるりと首を回した。
「僕が出て行って人間たちを引き付けるから、きみたちはその隙に階段使って十三階まで上がりなよ。作戦としては、そっちの方が確実だ」
「はっ? いや、でも……それじゃお前が捕まっちゃうんじゃ」
「捕まらないよ。玉藻前ほどじゃないけど、僕だって呪詛は得意なんだ。囲まれても脱出できるくらいの力はある」
「三尾……」
「それにあんたのエレベーター作戦、ハッキリ言って穴だらけだからね。エレベーター止めてくれるのはいいけど、そこに乗り込んで十三階に到着する前に他の人間が乗ってきたら逃げ場がない。あのエレベーターが十三階に直通してるかもわからないし、それ以前に、エレベーター前ではたくさんの人間が見張ってる。どうやって無事に乗り込めって言うのさ?」
「う……」
「というわけで、あんたの作戦は却下。ここは僕の囮作戦で行くよ」
0
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
愛欲の炎に抱かれて
藤波蕚
BL
ベータの夫と政略結婚したオメガの理人。しかし夫には昔からの恋人が居て、ほとんど家に帰って来ない。
とある日、夫や理人の父の経営する会社の業界のパーティーに、パートナーとして参加する。そこで出会ったのは、ハーフリムの眼鏡をかけた怜悧な背の高い青年だった
▽追記 2023/09/15
感想にてご指摘頂いたので、登場人物の名前にふりがなをふりました
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
彼は最後に微笑んだ
Guidepost
BL
エルヴィン・アルスランは、冷たい牢の中で大切だった家族を思い、打ちひしがれていた。
妹はさんざんつらい思いをした上に出産後亡くなり、弟は反逆罪で斬首刑となった。母親は悲しみのあまり亡くなり、父親は自害した。
エルヴィンも身に覚えのない反逆罪で牢に入れられていた。
せめてかわいい甥だけはどうにか救われて欲しいと願っていた。
そして結局牢の中で毒薬を飲まされ、死んだはず、だった。
だが気づけば生きている。
9歳だった頃の姿となって。
懐かしい弟妹が目の前にいる。
懐かしい両親が楽しそうに笑ってる。
記憶では、彼らは悲しい末路を辿っていたはずだ。
でも彼らも生きている。
これは神の奇跡なのだろうか?
今度は家族を救え、とチャンスを授けてくれたのだろうか?
やり直せるのだろうか。
──そう、エルヴィン・アルスランの時間は18年前に遡っていた。
(R指定の話には話数の後に※印)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる