妖狐と魅惑の遊戯

夢咲まゆ

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第八十九話

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「九尾、三尾、ここで待っててくれ。俺、ちょっと外の様子を探ってくる」
「……えっ、一人で?」
「ああ。最初の男性を見ただろ? 俺が話しかけた時は態度が変わらなかったのに、お前らを見た途端、態度が豹変した。きっと妖怪だけに反応する呪詛なんだ。だから俺が偵察がてらエレベーターを止めてくるから、お前らはそれまでここにいてくれ」

 そう言い置き、晴斗はトイレの個室を出ようとした。自分は正真正銘の人間だから、テレビ局の人間に見つかっても追いかけ回されることはないはず。

 ところが……。

「ま、待ってくれ! 晴斗、行かないで……!」

 九尾が必死の形相で腕を掴んできた。

「行っちゃ駄目だ。ここで別れたら、あの時と同じになる。あの時も晴明は、自分が他の人を引き付けるからと言って、私から離れて行ってしまった。これは絶対玉藻前の罠だ。ここで離ればなれになったら、あの女の思う壺だ」
「いや、それはさ……」
「お願いだ……晴斗、側にいてくれ。私はもう、あんな思いはしたくないんだ……」

 紫色の瞳が揺れている。そこには不安と恐怖と、大きな悲しみがあった。そんな顔をされたら、出て行けなくなってしまう。

「でも……じゃあ一体どうすりゃいいんだよ?」
「しょーがないなぁ……。それじゃあここは、僕が人肌脱ぎましょうか」

 三尾が自分の肩を揉みながら、ぐるりと首を回した。

「僕が出て行って人間たちを引き付けるから、きみたちはその隙に階段使って十三階まで上がりなよ。作戦としては、そっちの方が確実だ」
「はっ? いや、でも……それじゃお前が捕まっちゃうんじゃ」
「捕まらないよ。玉藻前ほどじゃないけど、僕だって呪詛は得意なんだ。囲まれても脱出できるくらいの力はある」
「三尾……」
「それにあんたのエレベーター作戦、ハッキリ言って穴だらけだからね。エレベーター止めてくれるのはいいけど、そこに乗り込んで十三階に到着する前に他の人間が乗ってきたら逃げ場がない。あのエレベーターが十三階に直通してるかもわからないし、それ以前に、エレベーター前ではたくさんの人間が見張ってる。どうやって無事に乗り込めって言うのさ?」
「う……」
「というわけで、あんたの作戦は却下。ここは僕の囮作戦で行くよ」
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