65 / 134
第六十五話
しおりを挟む
帰り際、彼は念を押すようにこう告げて来た。
「いろいろ言ったけどさ……これだけは覚えといてね。もし九尾ちゃんのこと泣かせたら、僕はあんたを許さない。とっておきの呪詛をかけて殺してやるから、覚悟しときなよ」
「あ、ああ……」
「じゃあね」
三尾はタヌキの姿のまま、軽やかに宙を走って虚空へ消えてしまった。
――……ったく、物騒なことを言うタヌキだな。
晴斗は静かにベランダの窓を閉め、部屋の中に戻った。カーテンを閉めてまた布団に入ったのだが、三尾とやり合っていたせいか、目が冴えて寝付けなかった。
「…………」
仕方なく冷蔵庫から牛乳を取り出し、それをカップに注いで電子レンジで温めた。レンジの中で回っているカップを見つめていると、
「……晴斗?」
九尾がむくりと身体を起こし、こちらに寄ってきた。
「あ、悪い。起こしちゃったか?」
「いや、私は大丈夫だが……どうしたんだ? 眠れないのか?」
「あー……まあ、ちょっとな」
さすがに三尾とのやり取りを暴露するわけにもいかず、曖昧にごまかす。
九尾は何かを察したのか、やや複雑な顔をしつつも、こんなことを言ってきた。
「眠れないなら、私の尻尾で一緒に寝るか? 自慢じゃないが、非常によく眠れるぞ」
「……え? いいのか?」
「ああ。晴斗にはいつも世話になっているから、これくらいは……」
またとない機会なので、晴斗は九尾の好意に甘えることにした。彼の尻尾はふわふわで温かく、数分と経たないうちにほのかな睡魔が襲ってきた。
「九尾……」
眠気と戦いながら、晴斗は呟くように言った。
「俺、絶対お前のこと裏切らないから。俺は人間だからいつか必ず寿命がきちゃうけど……九尾のこと、死ぬまで守るつもりでいるから。それだけは……信じてくれよな……」
「晴斗……」
九尾は少し驚いたようだったが、やがて小さく微笑むと、晴斗の手を握って囁いてきた。
「大丈夫、信じてる……。あなたは晴明とは違う……」
半分意識が飛んでいたが、その台詞は確かに晴斗の耳に届いた。
心地いい尻尾に包まれ、晴斗は朝まで熟睡した。とてもいい夢を見たような気がした。
「いろいろ言ったけどさ……これだけは覚えといてね。もし九尾ちゃんのこと泣かせたら、僕はあんたを許さない。とっておきの呪詛をかけて殺してやるから、覚悟しときなよ」
「あ、ああ……」
「じゃあね」
三尾はタヌキの姿のまま、軽やかに宙を走って虚空へ消えてしまった。
――……ったく、物騒なことを言うタヌキだな。
晴斗は静かにベランダの窓を閉め、部屋の中に戻った。カーテンを閉めてまた布団に入ったのだが、三尾とやり合っていたせいか、目が冴えて寝付けなかった。
「…………」
仕方なく冷蔵庫から牛乳を取り出し、それをカップに注いで電子レンジで温めた。レンジの中で回っているカップを見つめていると、
「……晴斗?」
九尾がむくりと身体を起こし、こちらに寄ってきた。
「あ、悪い。起こしちゃったか?」
「いや、私は大丈夫だが……どうしたんだ? 眠れないのか?」
「あー……まあ、ちょっとな」
さすがに三尾とのやり取りを暴露するわけにもいかず、曖昧にごまかす。
九尾は何かを察したのか、やや複雑な顔をしつつも、こんなことを言ってきた。
「眠れないなら、私の尻尾で一緒に寝るか? 自慢じゃないが、非常によく眠れるぞ」
「……え? いいのか?」
「ああ。晴斗にはいつも世話になっているから、これくらいは……」
またとない機会なので、晴斗は九尾の好意に甘えることにした。彼の尻尾はふわふわで温かく、数分と経たないうちにほのかな睡魔が襲ってきた。
「九尾……」
眠気と戦いながら、晴斗は呟くように言った。
「俺、絶対お前のこと裏切らないから。俺は人間だからいつか必ず寿命がきちゃうけど……九尾のこと、死ぬまで守るつもりでいるから。それだけは……信じてくれよな……」
「晴斗……」
九尾は少し驚いたようだったが、やがて小さく微笑むと、晴斗の手を握って囁いてきた。
「大丈夫、信じてる……。あなたは晴明とは違う……」
半分意識が飛んでいたが、その台詞は確かに晴斗の耳に届いた。
心地いい尻尾に包まれ、晴斗は朝まで熟睡した。とてもいい夢を見たような気がした。
0
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
愛欲の炎に抱かれて
藤波蕚
BL
ベータの夫と政略結婚したオメガの理人。しかし夫には昔からの恋人が居て、ほとんど家に帰って来ない。
とある日、夫や理人の父の経営する会社の業界のパーティーに、パートナーとして参加する。そこで出会ったのは、ハーフリムの眼鏡をかけた怜悧な背の高い青年だった
▽追記 2023/09/15
感想にてご指摘頂いたので、登場人物の名前にふりがなをふりました
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
彼は最後に微笑んだ
Guidepost
BL
エルヴィン・アルスランは、冷たい牢の中で大切だった家族を思い、打ちひしがれていた。
妹はさんざんつらい思いをした上に出産後亡くなり、弟は反逆罪で斬首刑となった。母親は悲しみのあまり亡くなり、父親は自害した。
エルヴィンも身に覚えのない反逆罪で牢に入れられていた。
せめてかわいい甥だけはどうにか救われて欲しいと願っていた。
そして結局牢の中で毒薬を飲まされ、死んだはず、だった。
だが気づけば生きている。
9歳だった頃の姿となって。
懐かしい弟妹が目の前にいる。
懐かしい両親が楽しそうに笑ってる。
記憶では、彼らは悲しい末路を辿っていたはずだ。
でも彼らも生きている。
これは神の奇跡なのだろうか?
今度は家族を救え、とチャンスを授けてくれたのだろうか?
やり直せるのだろうか。
──そう、エルヴィン・アルスランの時間は18年前に遡っていた。
(R指定の話には話数の後に※印)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる