妖狐と魅惑の遊戯

夢咲まゆ

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第六十五話

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 帰り際、彼は念を押すようにこう告げて来た。

「いろいろ言ったけどさ……これだけは覚えといてね。もし九尾ちゃんのこと泣かせたら、僕はあんたを許さない。とっておきの呪詛をかけて殺してやるから、覚悟しときなよ」
「あ、ああ……」
「じゃあね」

 三尾はタヌキの姿のまま、軽やかに宙を走って虚空へ消えてしまった。

 ――……ったく、物騒なことを言うタヌキだな。

 晴斗は静かにベランダの窓を閉め、部屋の中に戻った。カーテンを閉めてまた布団に入ったのだが、三尾とやり合っていたせいか、目が冴えて寝付けなかった。

「…………」

 仕方なく冷蔵庫から牛乳を取り出し、それをカップに注いで電子レンジで温めた。レンジの中で回っているカップを見つめていると、

「……晴斗?」

 九尾がむくりと身体を起こし、こちらに寄ってきた。

「あ、悪い。起こしちゃったか?」
「いや、私は大丈夫だが……どうしたんだ? 眠れないのか?」
「あー……まあ、ちょっとな」

 さすがに三尾とのやり取りを暴露するわけにもいかず、曖昧にごまかす。

 九尾は何かを察したのか、やや複雑な顔をしつつも、こんなことを言ってきた。

「眠れないなら、私の尻尾で一緒に寝るか? 自慢じゃないが、非常によく眠れるぞ」
「……え? いいのか?」
「ああ。晴斗にはいつも世話になっているから、これくらいは……」

 またとない機会なので、晴斗は九尾の好意に甘えることにした。彼の尻尾はふわふわで温かく、数分と経たないうちにほのかな睡魔が襲ってきた。

「九尾……」

 眠気と戦いながら、晴斗は呟くように言った。

「俺、絶対お前のこと裏切らないから。俺は人間だからいつか必ず寿命がきちゃうけど……九尾のこと、死ぬまで守るつもりでいるから。それだけは……信じてくれよな……」
「晴斗……」

 九尾は少し驚いたようだったが、やがて小さく微笑むと、晴斗の手を握って囁いてきた。

「大丈夫、信じてる……。あなたは晴明とは違う……」

 半分意識が飛んでいたが、その台詞は確かに晴斗の耳に届いた。

 心地いい尻尾に包まれ、晴斗は朝まで熟睡した。とてもいい夢を見たような気がした。
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