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第一話(九尾目線)
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薄暗い山の中を、一人の青年が必死に駆けていた。
星のような銀髪を持つ、美しい青年だった。けれど人間ではない。頭にキツネの耳を持ち、尻尾も九本に分かれた――俗に言う『九尾の狐』であった。平安というこの時代には、当たり前のように存在している妖怪の一種だった。
「はあ……はあ……」
九尾は近くの木に手をつき、荒い息を吐いた。
何故こんなことになってしまったんだろう。自分は人間に対して危害を加えた覚えはないし、むしろ世間一般の人間とは一定の距離を保ってきたはずだ。親しくしていたのは、天才陰陽師と名高い安倍晴明のみ。それ以外の人間とは関わって来なかった。
それなのに、何故……。
「いたぞ! こっちだ!」
「人間に呪詛をかける悪しき妖狐め!」
「殺せ、殺せー!」
「っ……!」
目と鼻の先を一本の矢が通過し、それが大木に突き刺さった。人間たちの声と松明の火が近付いてくる。
九尾は身を翻してその場から離れた。暗い山では、この銀髪は目立ちすぎる。もっと遠くへ逃げなければ。人間たちの手が届かないくらい、どこか遠くへ……。
――晴明……!
命の危機に晒されながらも、九尾の頭は涼やかな青年のことで占められていた。
彼は――安倍晴明は一体どうしただろう。今どこにいるのだろう。晴明がいなかったら、自分は何を頼りに生きていけばいいかわからない。妖狐である自分に居場所を与えて愛してくれた人間は、後にも先にも晴明だけなのだ。九尾も、そんな晴明を心から慕っている。彼と共に穏やかな時を過ごし、思い出を共有していくことが、今の九尾の『全て』だった。
だから、こんなところで捕まるわけにはいかない。どんなに理不尽であっても――身に覚えのない理由で都を追われ、命まで狙われ、一時的に晴明と離れ離れになってしまったとしても、再び晴明に会えるまでは、なんとしても生き延びなければ……。
「はあ……はあ……」
そう自分を奮い立たせても、身体はだんだん重くなってくる。胸が苦しい。膝が震えて、立っているのさえ辛い。前に進みたくても、これ以上足が動かない。
もう嫌だ……。助けて、晴明……!
星のような銀髪を持つ、美しい青年だった。けれど人間ではない。頭にキツネの耳を持ち、尻尾も九本に分かれた――俗に言う『九尾の狐』であった。平安というこの時代には、当たり前のように存在している妖怪の一種だった。
「はあ……はあ……」
九尾は近くの木に手をつき、荒い息を吐いた。
何故こんなことになってしまったんだろう。自分は人間に対して危害を加えた覚えはないし、むしろ世間一般の人間とは一定の距離を保ってきたはずだ。親しくしていたのは、天才陰陽師と名高い安倍晴明のみ。それ以外の人間とは関わって来なかった。
それなのに、何故……。
「いたぞ! こっちだ!」
「人間に呪詛をかける悪しき妖狐め!」
「殺せ、殺せー!」
「っ……!」
目と鼻の先を一本の矢が通過し、それが大木に突き刺さった。人間たちの声と松明の火が近付いてくる。
九尾は身を翻してその場から離れた。暗い山では、この銀髪は目立ちすぎる。もっと遠くへ逃げなければ。人間たちの手が届かないくらい、どこか遠くへ……。
――晴明……!
命の危機に晒されながらも、九尾の頭は涼やかな青年のことで占められていた。
彼は――安倍晴明は一体どうしただろう。今どこにいるのだろう。晴明がいなかったら、自分は何を頼りに生きていけばいいかわからない。妖狐である自分に居場所を与えて愛してくれた人間は、後にも先にも晴明だけなのだ。九尾も、そんな晴明を心から慕っている。彼と共に穏やかな時を過ごし、思い出を共有していくことが、今の九尾の『全て』だった。
だから、こんなところで捕まるわけにはいかない。どんなに理不尽であっても――身に覚えのない理由で都を追われ、命まで狙われ、一時的に晴明と離れ離れになってしまったとしても、再び晴明に会えるまでは、なんとしても生き延びなければ……。
「はあ……はあ……」
そう自分を奮い立たせても、身体はだんだん重くなってくる。胸が苦しい。膝が震えて、立っているのさえ辛い。前に進みたくても、これ以上足が動かない。
もう嫌だ……。助けて、晴明……!
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