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第6話
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朝食を済ませた後、リデルは外出用のトランクを引きずって自分の家を出た。
そして山を下り、麓にある村に向かった。普段は自給自足の生活をしているが、定期的にここでまじないをかけたり薬を売ったりしているのである。
村の広場にあるスペースに簡易テーブルを出し、目印となる旗を立てていると、若い女性が赤子を抱えて駆け寄ってきた。
「ああ、魔法使い様! 待ってたんです! 実はうちの子が昨日から高熱を出してしまって……! 熱冷ましのまじないをかけてください! お願いします!」
「おや、それは大変だ。ではこちらに座っていただけますか」
リデルは母親に椅子を勧め、抱えられている子供を見た。子供はだいぶ熱っぽい顔をしており、ぐったりしていて元気がない。よく見れば、顔にポツポツと斑点ができかけている。
(そう言えば、去年もこれと同じような患者を何人か見たな……)
あの時は、既に手遅れで助けられなかった人もいた。この病は重篤化すると手の施しようがなくなるのだ。どうすることもできなかったとはいえ、関係者には「人殺し!」と随分なじられたものだ……。
そんなことを思い出しながら、リデルは子供の額に右手を当てた。火傷しそうなくらい熱かった。
小声でまじないを唱えながら、自分の手のひらで熱を吸い取っていく。
まじないを全て唱え終わる頃には子供の熱もすっかり引き、斑点もだいぶ薄くなってきた。少しホッとした。
リデルは右手を引っ込め、鞄から特別に調合した薬を取り出した。
「はい。あとはこの薬を毎食後に飲ませれば大丈夫ですよ」
「ああ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
母親は小瓶を奪うように受け取り、素早く自分の服のポケットに入れてしまった。
そして一瞬にして態度を翻し、
「すいません。うち、貧乏でお金がなくて。お代はできた時に支払わせてもらいますね!」
と言い捨て、回復した子供を抱えて立ち去ってしまった。
「…………」
リデルは小さく溜息をつき、鞄を閉じた。
人間なんてあんなものだ。自分が困った時だけこちらを頼り、目的を果たせばすぐに手のひらを返す。お代を払ってもらえないことだって珍しくない。
そして山を下り、麓にある村に向かった。普段は自給自足の生活をしているが、定期的にここでまじないをかけたり薬を売ったりしているのである。
村の広場にあるスペースに簡易テーブルを出し、目印となる旗を立てていると、若い女性が赤子を抱えて駆け寄ってきた。
「ああ、魔法使い様! 待ってたんです! 実はうちの子が昨日から高熱を出してしまって……! 熱冷ましのまじないをかけてください! お願いします!」
「おや、それは大変だ。ではこちらに座っていただけますか」
リデルは母親に椅子を勧め、抱えられている子供を見た。子供はだいぶ熱っぽい顔をしており、ぐったりしていて元気がない。よく見れば、顔にポツポツと斑点ができかけている。
(そう言えば、去年もこれと同じような患者を何人か見たな……)
あの時は、既に手遅れで助けられなかった人もいた。この病は重篤化すると手の施しようがなくなるのだ。どうすることもできなかったとはいえ、関係者には「人殺し!」と随分なじられたものだ……。
そんなことを思い出しながら、リデルは子供の額に右手を当てた。火傷しそうなくらい熱かった。
小声でまじないを唱えながら、自分の手のひらで熱を吸い取っていく。
まじないを全て唱え終わる頃には子供の熱もすっかり引き、斑点もだいぶ薄くなってきた。少しホッとした。
リデルは右手を引っ込め、鞄から特別に調合した薬を取り出した。
「はい。あとはこの薬を毎食後に飲ませれば大丈夫ですよ」
「ああ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
母親は小瓶を奪うように受け取り、素早く自分の服のポケットに入れてしまった。
そして一瞬にして態度を翻し、
「すいません。うち、貧乏でお金がなくて。お代はできた時に支払わせてもらいますね!」
と言い捨て、回復した子供を抱えて立ち去ってしまった。
「…………」
リデルは小さく溜息をつき、鞄を閉じた。
人間なんてあんなものだ。自分が困った時だけこちらを頼り、目的を果たせばすぐに手のひらを返す。お代を払ってもらえないことだって珍しくない。
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