アビーの落とし穴

夢咲まゆ

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第1話

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 晴れやかで平和な朝だった。朝陽が窓から差し込み、山鳥たちのさえずりが聞こえる。

 起床したジェームズは、腰にエプロンを巻き、キッチンで鍋に火をかけた。

 二十歳そこそこの青年で、背が高く肩幅も広い。彫りの深い顔立ちは遠くからでもパッと目を引き、ほどよく突き出た喉仏がやたらとセクシーに見える。

 主夫業とはかけ離れていそうな青年だが、ここでの雑用は全てジェームズが引き受けていた。掃除、洗濯、炊事、更には育児まで。特に料理は物心ついてからずっと作り続けているので、かなりの得意分野になっていた。

(料理は魔法の勉強の役に立つからな)

 そう考えながらジェームズは、使い慣れたおたまで鍋の中を掻き回した。

 今日の朝食はマカロニスープだ。敬愛するお師匠様の好きな料理でもある。刻んだ野菜を適当に入れ、マカロニをちょうどいい固さに煮込み、シンプルに塩・胡椒で味付けしたら完成だ。

「よっしゃ、できた!」

 鍋の火を消し、皿にたっぷりスープを盛る。美味しそうな匂いが、白い湯気と一緒に鼻腔をくすぐった。

 それを銀色のトレーに乗せ、食卓まで運ぶ。

 ところが……。

「どわっ!」

 リビングに到着した途端、いきなりフローリングの床が抜けた。

 見事なまでにズボッと足下が崩れ、身体が垂直に穴に嵌まる。その勢いで持っていた皿もひっくり返り、ジェームズは熱々のスープを頭からかぶってしまった。

「ぎゃあぁっ、ちー! スープが! スープが!」
「きゃははは! ひっかかったー!」

 ジェームズが大騒ぎしている頭上から、甲高い笑い声が聞こえてきた。

 頭の左右をゴムで結わえている金髪碧眼の女の子だ。お気に入りの赤いワンピースを翻し、ジェームズが落ちた穴の周りをぴょんぴょんスキップしている。

「アビィィィ! てめっ、また家の中に落とし穴作りやがったな!? 料理運んでる時はやめろって言っただろうが!」
「きゃ~! ジェームズ怖い~!」

 本気で怒ったのだが、アビーは完全に舐めきっているらしく、ケラケラ笑いながら穴から離れていく。
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