あのスープが飲みたい

夢咲まゆ

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第11話

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 翌朝、ゼクスはエンデに連れられて港町の市場に向かった。早朝の市場は人で賑わい、海が朝日に輝いて活気で満ちていた。

「わあ……海って綺麗ですね、エンデさん! 俺、海初めて見ました。舐めるとしょっぱいって聞いたんですけど、本当ですか?」
「ああ、本当だよ。興味があるなら少し舐めてみるといい」

 そう返事をしつつ、エンデは市場の中をスタスタ歩いて行った。見れば、『ワケありペットコーナー』の主人と何か会話していた。

(エンデさん、やっぱり俺を手放す気なんだ……)

 新しい家族に引き取られるのが嫌なわけではない。だが、ゼクスの心には何か引っかかるものが残っていた。

 本当にこれでいいのだろうか。エンデさんとこのまま別れて本当に後悔しないだろうか。大家族に囲まれるよりも、もっと大事なことがあるのではないか……。

「ゼクス、きみの引き取り手が見つかったよ」

 エンデは品のいい老夫婦と一緒に戻ってきた。

 その老夫婦はいかにも人のよさそうな顔をしていた。身なりも綺麗だったし、それなりに裕福な生活をしていることも伺えた。きっと大きな家で子供や孫に囲まれた生活をしているのだろう。

「隣町に住んでいるノディオン夫妻だ。息子夫婦や娘夫婦とも仲がいいようだから、きっと上手くやっていけると思う。それでは、私はこれで失礼」

 挨拶もそこそこに、エンデはサッと黒いローブを翻した。そして何事もなかったかのように立ち去ってしまった。

(エンデさん……)

 初めて「美しい」と言ってくれた。初めて食事の美味しさを教えてくれた。初めて自分に目をかけてくれて、自分の命を救ってくれた。初めて同じ孤独を感じた。

 それなのに……。

 老婦人がにこやかに話しかけてくる。

「綺麗なワンちゃんね。顔にちょっと傷はあるけど、気にすることないわ。さ、うちに帰りましょう」
「あ……はい……」

 後ろ髪を引かれながらも、ゼクスは導かれるまま、小型のボートに乗り込んだ。夫婦が住んでいる隣町とは、海の向こうにあるようだった。

 ゆっくりとボートが動き出した。港町がどんどん離れていく。

 もう二度と、エンデに会うこともない……。
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