79 / 82
079 太郎、メインヒロインと出逢う
しおりを挟む「わたしは大浦弥四郎為信である!!」
呆然となった俺を見て、慌てたように弥四郎は繰り返した。
良かった……と、俺は心の中で涙する。
俺の考えているゾンビ発生の事前撲滅計画には欠かすことのできないキーマンとなる津軽為信にこうして巡り合えるとは……
感慨のあまり思わず抱き着いてしまう。
「為信……っ!!」
「うわっ!……なんじゃお主、泣いておるのか?」
抱きしめた体の柔らかさと温もりに包まれながら違うと俺は答えた。
「泣いてなどいない。涙は心の汗だ。
……弥四郎、もう離さない」
「それは困る。お主に抱きすくめられておっては身動きが取れないではないか」
弥四郎にそう言われて気がついた俺はバツの悪さを覚えつつ離れる。
どういうことか説明しろと弥四郎の眼は訴えていた。
「お前はこの日ノ本に必要だ。いや、三千世界を救えるのはお前しかいない!!」
「三千世界か……大きく出たな」
そう言って肩を落とした弥四郎は続ける。
「だが、今のわたしには何の力もない。津軽の民のために何かを為そうと思っていても……な」
さみしそうに話す弥四郎の姿に影がさした。
「この者らはどうする?」
「わたしを拐わかそうとしたといえ、同じ津軽の民。罰したくはないのだが……」
わざと話題を変えたことに気付いた弥四郎は俺の意図に乗って答える。
「ならこの裁きは俺に預けてくれないか?」
「お前にか? お主に助けられた身の上である以上、断るのもな……。いいだろう」
「そうしてくれると助かる。俺の名は安倍太郎。父は津軽、母は田名部だ」
手短に自己紹介を終えると破落戸たちに向き合う。ざっと頭数を数えると二十人は居た。
「お前達はこちらに居られる大浦弥四郎様を襲おうとした。その罪許し難し!
よって、お主たちには終身刑を申し付ける! その罪は弥四郎様の家臣となって償うのだ。生涯仕えよ!!」
領主の後継者を攫おうとしていたことに肝をつぶしたならず者達はすぐさま平伏する。
「これでどうだ?」
振り返って為信を見ると彼も大きく頷いていた。
「まずは二十人ということか」
「そうだ」
「だが、わたしは碌な禄など払えんぞ……」
そう漏らし、恥じらいを含んだ目線で俺を見る弥四郎。
「大丈夫だ。彼ら自身に稼がせればいい。お前の宰領にどこか空いている所はないか?」
♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
為信が帝王学の一環として与えられた宰領のうち、廃村となっている所に彼らを移送する。
このあたりがいいだろうと選び出したのは、岩木山の中腹にある湯段温泉のあたり、後世で常盤野と呼ばれる地域。ここならば石川殿――南部晴政の弟に気取られにくいだろう。
為信の新たな家臣となった者らには荒れた畑の整備を命じた。
彼らの作業を横目に、俺は牧場の設営の準備を進める。
弥四郎の命を受けた大工たちに厩舎を建てる場所を指示しつつ、俺は周囲の地勢を確認していった。
「……このあたりか」
音響魔法での地塊探査を行いつつ適当な噴出箇所を考えた俺は地の一点を杖で軽く突いた。
掌から出た振動が杖を通して伝わり、水脈にまで到達した瞬間、温泉が地下より湧き出す。
湯が沸きだすのを確認した俺は、傍らに控えるお市に人を呼びに行かせる。
「湯が湧いたのか!?」
息せききってきた為信が俺に迫った。
「ああ。弥四郎も触ってみるがいい」
「確かに湯だ。ここに村の湯治場を建てるとしよう」
こうして百六十年以上早く湯段温泉が始まった。
本来の歴史てあれば百六十年後に柴田勝家の遺族が発見するのであるが、津軽の冬は寒いからやむなし。
村の再整備は使いまわしを最大限にしたため、ひと月掛からずに終えることができた。
ここからが真の始まりとなる。
「これを植えるんですかい?」
芽が出たばかりの甜菜の青葉を指して円光が問う。円光は為信を襲ったならず者の頭の一人だ。
「そうだ。これを畑に植えて秋まで育てる」
「では、それまでのあっしらの食い扶持はどうなさるのでしょうか」
円光は俺の説明に納得するとさらに問いを重ねた。
「芋だ。里芋にじゃが芋、薩摩芋もある」
聞いたことのない芋の名に円光は眉をひそめた。
「大丈夫だ。喰えるから心配はいらん」
「……まぁ、旦那がそう言うなら信じましょう」
とりあえず納得した円光を使い、彼の手下らに仕事を任せていく。
石鹸作りに干しシイタケという定番中の定番を皮切りにして、甜菜(ビート)の栽培から林檎に芋類、果ては食用鬼灯に硝石の生産まで。
硝石の生産や木本である林檎の栽培は年単位で時間がかかる。
林檎に関してはハナカイドウの接ぎ木で、ある程度の時間は稼げるが、それでもだ。
すぐに結果が出せるものばかりじゃないから、手の空いた者には順次、牧場に回して馬の世話を覚えさせた。
結果、夏になるとあたり一面に青々とした葉が茂っている。
「太郎の言うとおり、試しに稲の塩水選をしてみたが、いい成果が出そうだ。この調子ならお主に借りていた米を返せる」
初夏の村を視察に来た為信がそう告げた。
トウモロコシの作付け作業を監督しながら俺は為信の話に付き合う。
「いや、返す必要はない。そのまま次の作付けに使ってくれればいい。
そんなことよりも寒さに強い苗を見つけてくれ」
「……蝦夷地でも育つ稲か」
「ああ、これからの日ノ本には必要となってくるものだ」
俺が真剣な顔で見つめると為信も真顔となる。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!
のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、
ハサンと名を変えて異世界で
聖騎士として生きることを決める。
ここでの世界では
感謝の力が有効と知る。
魔王スマターを倒せ!
不動明王へと化身せよ!
聖騎士ハサン伝説の伝承!
略称は「しなおじ」!
年内書籍化予定!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

こじらせ騎士と王子と灰色の魔導士
有沢真尋
ファンタジー
かつて魔王と勇者が相打ちした世界。
月日がたち、魔力の大半を失いつつも生き延びていた魔王は、人間にまぎれ宮廷魔導士として安穏とした生活を送っていた。
一介の近衛騎士に生まれ変わった勇者の傍らで。
相変わらず人を惹きつける魅力をもった元勇者は、今回は女として生まれついていたが、女人禁制の近衛騎士隊で女であることを隠して修行に励んでいた。
しかし、世継ぎの王子が彼(彼女)を見初めてしまい、実は女であるとも知らず、あろうことか「男でもいいから伴侶に迎えたい」と言い出して……!?
謎の友情によって結ばれた元魔王は、元勇者によって「恋人のふりをして欲しい」とお願いされてしまい……!?

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる