異世界勇者の信長いじり~~ゾンビがあふれた世界になるのを防ぐために信長の足を引っ張ります

上梓あき

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079 太郎、メインヒロインと出逢う

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「わたしは大浦弥四郎為信である!!」

呆然となった俺を見て、慌てたように弥四郎は繰り返した。

良かった……と、俺は心の中で涙する。
俺の考えているゾンビ発生の事前撲滅計画には欠かすことのできないキーマンとなる津軽為信にこうして巡り合えるとは……
感慨のあまり思わず抱き着いてしまう。

「為信……っ!!」

「うわっ!……なんじゃお主、泣いておるのか?」

抱きしめた体の柔らかさと温もりに包まれながら違うと俺は答えた。

「泣いてなどいない。涙は心の汗だ。
 ……弥四郎、もう離さない」

「それは困る。お主に抱きすくめられておっては身動きが取れないではないか」

弥四郎にそう言われて気がついた俺はバツの悪さを覚えつつ離れる。
どういうことか説明しろと弥四郎の眼は訴えていた。

「お前はこの日ノ本に必要だ。いや、三千世界を救えるのはお前しかいない!!」

「三千世界か……大きく出たな」

そう言って肩を落とした弥四郎は続ける。

「だが、今のわたしには何の力もない。津軽の民のために何かを為そうと思っていても……な」

さみしそうに話す弥四郎の姿に影がさした。

「この者らはどうする?」

「わたしを拐わかそうとしたといえ、同じ津軽の民。罰したくはないのだが……」

わざと話題を変えたことに気付いた弥四郎は俺の意図に乗って答える。

「ならこの裁きは俺に預けてくれないか?」

「お前にか? お主に助けられた身の上である以上、断るのもな……。いいだろう」

「そうしてくれると助かる。俺の名は安倍あべの太郎たろう。父は津軽、母は田名部だ」

手短に自己紹介を終えると破落戸たちに向き合う。ざっと頭数を数えると二十人は居た。

「お前達はこちらに居られる大浦弥四郎様を襲おうとした。その罪許し難し!
 よって、お主たちには終身刑を申し付ける! その罪は弥四郎様の家臣となって償うのだ。生涯仕えよ!!」

領主の後継者を攫おうとしていたことに肝をつぶしたならず者達はすぐさま平伏する。

「これでどうだ?」

振り返って為信を見ると彼も大きく頷いていた。

「まずは二十人ということか」

「そうだ」

「だが、わたしは碌な禄など払えんぞ……」

そう漏らし、恥じらいを含んだ目線で俺を見る弥四郎。

「大丈夫だ。彼ら自身に稼がせればいい。お前の宰領にどこか空いている所はないか?」


♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡


為信が帝王学の一環として与えられた宰領のうち、廃村となっている所に彼らを移送する。
このあたりがいいだろうと選び出したのは、岩木山の中腹にある湯段温泉のあたり、後世で常盤野と呼ばれる地域。ここならば石川殿――南部晴政の弟に気取られにくいだろう。
為信の新たな家臣となった者らには荒れた畑の整備を命じた。
彼らの作業を横目に、俺は牧場の設営の準備を進める。
弥四郎の命を受けた大工たちに厩舎を建てる場所を指示しつつ、俺は周囲の地勢を確認していった。

「……このあたりか」

音響魔法での地塊探査を行いつつ適当な噴出箇所を考えた俺は地の一点を杖で軽く突いた。
掌から出た振動が杖を通して伝わり、水脈にまで到達した瞬間、温泉が地下より湧き出す。
湯が沸きだすのを確認した俺は、傍らに控えるお市に人を呼びに行かせる。

「湯が湧いたのか!?」

息せききってきた為信が俺に迫った。

「ああ。弥四郎も触ってみるがいい」

「確かに湯だ。ここに村の湯治場を建てるとしよう」

こうして百六十年以上早く湯段温泉が始まった。
本来の歴史てあれば百六十年後に柴田勝家の遺族が発見するのであるが、津軽の冬は寒いからやむなし。
村の再整備は使いまわしを最大限にしたため、ひと月掛からずに終えることができた。
ここからが真の始まりとなる。


「これを植えるんですかい?」

芽が出たばかりの甜菜の青葉を指して円光が問う。円光は為信を襲ったならず者の頭の一人だ。

「そうだ。これを畑に植えて秋まで育てる」

「では、それまでのあっしらの食い扶持はどうなさるのでしょうか」

円光は俺の説明に納得するとさらに問いを重ねた。

「芋だ。里芋にじゃが芋、薩摩芋もある」

聞いたことのない芋の名に円光は眉をひそめた。

「大丈夫だ。喰えるから心配はいらん」

「……まぁ、旦那がそう言うなら信じましょう」

とりあえず納得した円光を使い、彼の手下らに仕事を任せていく。
石鹸作りに干しシイタケという定番中の定番を皮切りにして、甜菜(ビート)の栽培から林檎に芋類、果ては食用鬼灯に硝石の生産まで。
硝石の生産や木本である林檎の栽培は年単位で時間がかかる。
林檎に関してはハナカイドウの接ぎ木で、ある程度の時間は稼げるが、それでもだ。
すぐに結果が出せるものばかりじゃないから、手の空いた者には順次、牧場に回して馬の世話を覚えさせた。
結果、夏になるとあたり一面に青々とした葉が茂っている。


「太郎の言うとおり、試しに稲の塩水選をしてみたが、いい成果が出そうだ。この調子ならお主に借りていた米を返せる」

初夏の村を視察に来た為信がそう告げた。
トウモロコシの作付け作業を監督しながら俺は為信の話に付き合う。

「いや、返す必要はない。そのまま次の作付けに使ってくれればいい。
 そんなことよりも寒さに強い苗を見つけてくれ」

「……蝦夷地でも育つ稲か」

「ああ、これからの日ノ本には必要となってくるものだ」

俺が真剣な顔で見つめると為信も真顔となる。

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