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073 さだめの友
しおりを挟むヘクター・マクドナルドと名乗った若い男は妙な奴だった。
「I have a dreamで御座る! 拙者には夢がありまする! 拙者の夢はせかいせいふく!!」
俺と向かい合った途端、いきなりこうぶっ込んでくる。
そこで俺が睨み返すと慌ててこう言うのだ。
「勘違いめさるな。拙者の夢は世界制服でござる! 征服ではござらん!!」
必死で言い募るこいつが長々と説明するのを聞いてようやく俺にも分かってきた。
「征服ではなく世界制服か」
「左様でござる! 世界に制服を広めるでござる!!」
そう断言したヘクター・マクドナルドは年若い従者たちにローブを脱ぐように指示を出した。
すると丈の長いローブの下から顕れたのは、タータンチェックの鮮やかな格子模様に彩られたスカートである。
「太郎殿! 拙者の望む世界制服は男子スカートでござる!
見て下され! この絶対領域を!!」
言いながらこのスコットランド男は年若い従者の少年の膝小僧の辺りを指さして熱弁を振るう。
十歳になるかならないかという少年従者はうつむいて顔を赤く染めていた。
「スカートから伸びた白い肌とスカート生地のコントラストを見られよ! ここに天国が在るのですだ!
拙者は、拙者は世界に男子スカートを広めたいのでござる!!」
「うむ。確かにその通りだ」
……だが、そうは言ってみたものの、いきり立って拳を振るい力説するヘクターの姿に俺はひっかかるものがある。
「ねらー」と口走ったことといい、この男子スカートへの執着といい、とある人物を想起させるのだ。
つらつらとそんなことを考えているとヘクターが妙なことを言い出す。
「拙者はホモではござらん! アンジェリカ殿、どうか御安心召されよ!!
太郎殿を狙ったりはしないでござる!!」
ヘクターは何を考えているのだろうか。お市の視線を受けてこんなことを言い出した。
「拙者は女が好きでござる! 男に対して性的興味は御座らん!!
ただ、男のスカートが好きなだけで御座る!!」
この発言でピンと来るものがあった。
……まさか、そんな。
そう思いつつも口に出してみる。
「お前、麻生陽子か!」
疑問符が無いのは確信があったからだ。
これに対するヘクターの反応は以下の通り。
「はい! ようこの『よう』は面妖の妖!!」
「……やっぱり」
思わずそう漏らした俺はこいつの……
「おお! さだめの友よ!!」
満面の笑みでヘクター・マクドナルドが両手を広げる。
「なんでお前がここにいる!!!」
俺は陽子に突っ込んだが、決して「せいてきないみ」ではない。
彼女自身が言うように俺と彼女はさだめの友だったからな。
陽子との付き合いは幼稚園時分からのもので、どういうわけか最初から異性という感じはしなかった。
その理由は俺自身にもわからない。
何故かは知らないが、彼女と自分は同性の友人という感じしかしないのだ。
そんな彼女が男としてこの場に居ることに、どうしてだか俺は違和感を感じていた。
陽子自身に対してというよりも、俺との関係性においてなのだが。
「生きていたんだね。太郎」
満面の笑みを浮かべるスコットランド人、ヘクター・マクドナルドの中に麻生陽子の面影が浮かんだ。
「そっちこそ」
籠城していた小学校のバリケードがゾンビの重みに耐え切れずに崩壊した時のことを思い出す。
ゾンビの群れに呑み込まれていく俺を前にして陽子が泣き叫んでいる――それがこの世界での俺の最後の思い出だった。
次の瞬間、光に包まれた俺は集っているゾンビごとラヴィア王国に召喚されたわけだが。
そんなことを思い出しながら陽子の話を聞いていると、俺がいなくなってからの元世界の顛末がある程度わかってきた。
どうやらごく少数の生き残りは屋上に逃げ込んだらしい。
「自衛隊のヘリが救助に来たのは僥倖だったわ」
今生の男の声で陽子がそう呟く。
「……そうか」
俺としては掛ける言葉もない。
「でも、良かった。太郎は生きていたんだね」
そう言って笑う陽子に今までのことを尋ねる。
「生まれ変わったら、逆行転生だったから驚いちゃった。しかも男にだなんてねぇ……」
自分の体を見ながらしみじみと漏らす。
「でも、これで、女と結婚できる!!」
ガッツポーズを作ると陽子はニヤッと笑った。
「お前ってやつは……」
嘆息する俺に、陽子は居ずまいを正して向き直る。
「拙者の野望は世界制服だけではござらん。
拙者が見るに、死者の群れが世界を覆ってしまったのには土葬にも原因があるのではないかと思うでござる。
ゆえにそうならぬよう、全世界に火葬を広めるべきと考え申す」
変なサムライ言葉になった陽子=ヘクターはこう言って口を結ぶ。
この陽子の変な口調は日本を忘れないためだそうだ。
「つまり、俺に協力したいというのか?」
「そうよ。だってわたしと太郎の仲じゃないの」
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