異世界勇者の信長いじり~~ゾンビがあふれた世界になるのを防ぐために信長の足を引っ張ります

上梓あき

文字の大きさ
上 下
73 / 82

073 さだめの友

しおりを挟む


ヘクター・マクドナルドと名乗った若い男は妙な奴だった。

「I have a dreamで御座る! 拙者には夢がありまする! 拙者の夢はせかいせいふく!!」

俺と向かい合った途端、いきなりこうぶっ込んでくる。
そこで俺が睨み返すと慌ててこう言うのだ。

「勘違いめさるな。拙者の夢は世界制服でござる! 征服ではござらん!!」

必死で言い募るこいつが長々と説明するのを聞いてようやく俺にも分かってきた。

「征服ではなく世界制服か」

「左様でござる! 世界に制服を広めるでござる!!」

そう断言したヘクター・マクドナルドは年若い従者たちにローブを脱ぐように指示を出した。
すると丈の長いローブの下から顕れたのは、タータンチェックの鮮やかな格子模様に彩られたスカートである。

「太郎殿! 拙者の望む世界制服は男子スカートでござる!
 見て下され! この絶対領域を!!」

言いながらこのスコットランド男は年若い従者の少年の膝小僧の辺りを指さして熱弁を振るう。
十歳になるかならないかという少年従者はうつむいて顔を赤く染めていた。

「スカートから伸びた白い肌とスカート生地のコントラストを見られよ! ここに天国が在るのですだ!
 拙者は、拙者は世界に男子スカートを広めたいのでござる!!」

「うむ。確かにその通りだ」

……だが、そうは言ってみたものの、いきり立って拳を振るい力説するヘクターの姿に俺はひっかかるものがある。
「ねらー」と口走ったことといい、この男子スカートへの執着といい、とある人物を想起させるのだ。
つらつらとそんなことを考えているとヘクターが妙なことを言い出す。

「拙者はホモではござらん! アンジェリカ殿、どうか御安心召されよ!!
 太郎殿を狙ったりはしないでござる!!」

ヘクターは何を考えているのだろうか。お市の視線を受けてこんなことを言い出した。

「拙者は女が好きでござる! 男に対して性的興味は御座らん!!
 ただ、男のスカートが好きなだけで御座る!!」

この発言でピンと来るものがあった。
……まさか、そんな。
そう思いつつも口に出してみる。

「お前、麻生陽子か!」

疑問符が無いのは確信があったからだ。
これに対するヘクターの反応は以下の通り。

「はい! ようこの『よう』は面妖の妖!!」

「……やっぱり」

思わずそう漏らした俺はこいつの……

「おお! さだめの友よ!!」

満面の笑みでヘクター・マクドナルドが両手を広げる。

「なんでお前がここにいる!!!」

俺は陽子に突っ込んだが、決して「せいてきないみ」ではない。
彼女自身が言うように俺と彼女はさだめの友だったからな。
陽子との付き合いは幼稚園時分からのもので、どういうわけか最初から異性という感じはしなかった。
その理由は俺自身にもわからない。
何故かは知らないが、彼女と自分は同性の友人という感じしかしないのだ。
そんな彼女が男としてこの場に居ることに、どうしてだか俺は違和感を感じていた。
陽子自身に対してというよりも、俺との関係性においてなのだが。

「生きていたんだね。太郎」

満面の笑みを浮かべるスコットランド人、ヘクター・マクドナルドの中に麻生陽子の面影が浮かんだ。

「そっちこそ」

籠城していた小学校のバリケードがゾンビの重みに耐え切れずに崩壊した時のことを思い出す。
ゾンビの群れに呑み込まれていく俺を前にして陽子が泣き叫んでいる――それがこの世界での俺の最後の思い出だった。
次の瞬間、光に包まれた俺は集っているゾンビごとラヴィア王国に召喚されたわけだが。
そんなことを思い出しながら陽子の話を聞いていると、俺がいなくなってからの元世界の顛末がある程度わかってきた。
どうやらごく少数の生き残りは屋上に逃げ込んだらしい。

「自衛隊のヘリが救助に来たのは僥倖だったわ」

今生の男の声で陽子がそう呟く。

「……そうか」

俺としては掛ける言葉もない。

「でも、良かった。太郎は生きていたんだね」

そう言って笑う陽子に今までのことを尋ねる。

「生まれ変わったら、逆行転生だったから驚いちゃった。しかも男にだなんてねぇ……」

自分の体を見ながらしみじみと漏らす。

「でも、これで、女と結婚できる!!」

ガッツポーズを作ると陽子はニヤッと笑った。

「お前ってやつは……」

嘆息する俺に、陽子は居ずまいを正して向き直る。

「拙者の野望は世界制服だけではござらん。
 拙者が見るに、死者の群れが世界を覆ってしまったのには土葬にも原因があるのではないかと思うでござる。
 ゆえにそうならぬよう、全世界に火葬を広めるべきと考え申す」

変なサムライ言葉になった陽子=ヘクターはこう言って口を結ぶ。
この陽子の変な口調は日本を忘れないためだそうだ。

「つまり、俺に協力したいというのか?」

「そうよ。だってわたしと太郎の仲じゃないの」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。

処理中です...