異世界勇者の信長いじり~~ゾンビがあふれた世界になるのを防ぐために信長の足を引っ張ります

上梓あき

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033 南大西洋の死闘

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前書き:
今回の話は漁船に乗った体験を下敷きに構成しています。






スペインの船団は優速を活かしてラ・ドーフィネ号の進路に回り込んで行く手を遮る。
未だ距離が離れているとはいえ、包囲されるのは時間の問題だった。
海上の船は陸の馬車と違ってすぐには曲がれない。
どうしても間が空いてしまう。
何故ならば船は水の上に浮いているからだ。
これが陸上の乗り物とは違う決定的な点となる。
しかも船は舵を切ったのとは逆の方向へと動く。
右に舵を切れば左へ曲がり、左へ舵を切れば右へというふうに。
だから操船には独特のセンスが要求される。

進路を塞がれるのを嫌って、ドーフィネ号の船長は左へ舵を切った。
するとややあってから船はゆっくりと右に曲がりだす。
それを見てスペイン船隊も舵を切るがターンが始まるのはしばらくは先のこととなる。
ルイーズも慣れたとはいえ、戦闘中のためにもどかしさを感じていた。

「これが陸(おか)の上で騎馬ならばもっと機敏に動けるものを……ッ!」

思わず口からつぶやきが漏れる。

「アントワーヌ殿、これが海戦というものです」

ルイーズの漏らした言葉に船長が応えた。

「船は陸の上の乗り物とは動きを含めて全く違います。
 舵を切ってもすぐには船は動きません。たとえどれだけ小さな船であっても、です。
 ましてや、向こうもこちらも大型船。動きはさらに鈍重となります。
 だから付け入るスキは必ずあります。それまでは待つことです」

そう言いながら船長はのほほんと舵輪を回していく。
それは傍から見ていると呑気なもののように見えるかもしれないが、実はまったくそうではない。
今、船長の頭の中はフル回転でシミュレーションが行われていた。

自船の舵をどのタイミングで切るか?
そして切ってからターンが始まるまでのタイムラグは?
さらには敵船隊の船の特性と敵船長の操舵、判断の癖は?

これらの変数を放り込んで、まだ現実とはなっていない、目に見えぬ隙を衝こうとしていた。
無論、これはスペイン船団の側も一緒である。

詰まる所、海戦における勝利とは、知力の限りを尽くした敵との先の読み合いを制することがすべてを決すると言ってもいい。
ここに、陸戦のように士気と練度だけではどうにもならない海戦の難しさがある。
ルイーズは海軍力整備の難しさを改めて思い知らされた。

……叔父上の言うとおりだな。

これがルイーズの思いである。
せめて操船の感覚だけでも知ろうと考えた彼女は船長であるオスカル=カミーユ・フラマリオンの背後に立って舵輪を動かす真似をした。
それに気づいて船長のオスカルは「しっかり学ぶがいい」と心の中でつぶやき微笑む。
そうこうするうちにスペイン船が艦載砲の射程に入った。

「全砲門開け! 一斉射!!」

オスカルの号令でドーフィネ号の砲が火を噴いた。
スペイン船の周囲に水柱が上がり、敵も応射を開始する。

「慌てるな!! 今! 脅威となる敵は一隻!
 敵の砲弾はそう簡単には命中しない!
 負けずに撃ち返せッ!!」

立ち上る水しぶきがルイーズ達を襲う中、ずぶ濡れになりながらもオスカルは平然と指揮を続ける。
やがて偶然を伴った一発が敵の火薬庫に命中し、轟音を上げた敵船は炎に包まれて沈み始めた。

「船長!」

最初に気付いた副長のアンドレアがオスカルに叫ぶ。

「なんだ!!」

砲声で聴覚がやられた船長のオスカルも負けじと怒鳴り返す。
それほどまでに砲の爆風と音はすさまじい。

「敵船の動きが!」

アンドレアの指さす方向を見てオスカルはにやりとした。
スペイン船の動きがおかしい。心なしか船足が遅くなっている。
もっとはっきり言えば躊躇しているように見えた。
それはそうだろう、所詮は商人兼業の海賊野郎。
戦って略奪して利益を得るのが仕事の海賊が、戦って死ぬのが仕事の海軍軍人に海戦で勝てるわけが無い。
素早い観察を終えて。オスカルが乗組員に号令を出す。

「向こうは海賊兼業の奴隷商人、海戦の素人だ!
 敵は怖気づいて船足を落としたぞ!!
 このまま包囲を抜ける! フランス海軍魂を見せてやれ!!」

「応ッ!!」

号令に応えて乗組員が動き出す。
それを見ながらルイーズは一人考えた。

……一応、この船と乗員は海軍から転籍してるんだけどなぁ。

ともあれ、こんなひと悶着があったものの、オスカル=カミーユ・フラマリオン船長が指揮するフランス海軍除籍艦、ラ・ドーフィネ号は喜望峰を抜けてインド洋へと入っていった。

この世界における歴史の異物である元異世界勇者安倍あべの太郎たろうとアントワーヌ・レグノウこと公爵令嬢、ルイーズ・ド・モンモランシーが出逢うのはそう遠くない日のことかもしれない……?



♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡


「……なんだ、これは! 美味いっ!!」

氏真に塩を舐めさせたらこの反応だった。
あらかじめ呼びつけておいた今川家お抱えの鍛冶師にも塩を舐めさせたが、
呼び出された時にはなんで自分が呼び出されたのか分からなかったようだ。

何故俺が、鍛冶師を呼ぶよう氏真に頼んだのかというと、
鍛冶師は鍛冶仕事だけじゃなく塩のソムリエでもあるからだ。
鍛冶仕事は一日中火のそばで作業をするから汗を掻きつつ仕事をしている。
そんな彼らの手元にあるのはひと山の塩だ。
発汗によって失われた塩分を補うために鍛冶屋は仕事の合間合間に塩を舐める。

そんな時に彼らは塩からどんな味を感じるだろうか?

しょっぱい?
塩辛い?

いいや、甘いと感じるのだ。
人によっては塩なのに砂糖のように甘いという意見すらある。

それほどまでに鍛冶師という職は塩と密接に関わっているから、塩にはうるさい。
まさに、塩グルメ、塩ソムリエ。
そんな舌の肥えた彼らはこの塩をどう感じるだろうか……?

そんなことを考えながら俺は鍛冶師の前に塩を差し出した。
男はおもむろに塩を嘗める。
一拍おいて鍛冶師は叫んだ!!

「美味いっ! 旨すぎるっ!! これぞまさに神代の味ィィッッ!!!」

思った通りの成果である。

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