15 / 82
015 長尾景虎、電波を受信する
しおりを挟む「景虎、景虎、ケイコよ……」
護摩行を行っていた長尾景虎は俺の毒電波を受信すると「はっ」と顔を上げた。
俺は勇者の威厳をたっぷりと出して景虎に電波送信で呼びかける。
「聞こえておるか、ケイコよ」
「はっ、聞こえております」
俺の脳内に響いて来る景虎の声は、俺を尊崇する毘沙門天と取り間違えたことによる畏怖で打ち震えていた。
「ケイコ、お前は何ゆえにいくさを為すのだ」
「それは義のために御座います」
「乱取りをするのが義か?」
「そ、それは……」
景虎が口ごもる。
「どうなのだ?」
「乱取りを許さねば家臣が従いませぬ。
兵に言う事を聞かせること叶いませぬ
坂東で乱取りをせねば越後の民は食い扶持に困りまする」
苦し気にうめく景虎を見て俺は告げた。
「それであれば乱取りを禁じよ」
「そ、そんな」
絶句する景虎に俺は続けて言った。
「反対する家臣にだけ乱取りを許してその者らに先駆けをさせよ」
「……!!」
俺の答えに景虎が色を失う。
「お前の敵に彼らを渡すのだ。
さすればお前の敵が善いようにしてくれよう。
それで家中の統制を取れ」
「毘沙門天様といえども、それはあまりにも非情に御座りまする」
景虎はしばし逡巡した後、重い口を開いた。
「では聞く。
乱取りで得た民を奴婢として他国に売り渡すのは非情ではないのか?」
沈黙する景虎。
「尾張などの先進地域から新たな技を取り入れ、取れ高の底上げを図れ。
さすれば石高も以前より増えよう。そのためにはいくさを已めねばならん。
武田と和睦し、今川を通じて入り用となる人やモノや技を手に入れるのだ。長尾家百万石も夢ではないぞ」
俺の言葉で景虎は考え込んだが、これは歴史上の事実だから自信をもって俺は断言できた。
そもそも越後は雪深い土地で江戸時代以前には米どころなどではなかった。
そんな越後が米どころと呼ばれるようになったのは徳川幕藩体制となって尾張などの農業先進地域から進んだ栽培技術や土木技術が持ち込まれてから。
いくさをしている限りは越後の飛躍はない。
「毘沙門天様、お言葉ではございますが、武田と和を結ぶことはできませぬ」
「なぜだ」
俺は短く問うた。
「北信濃に武田が居ては春日山が脅かされまする」
「ならば春日山を捨てよ。春日山は西に寄り過ぎている。
小千谷の北辺りがよかろう」
なんといっても越後の重心は長岡のあたりだからな。
つらつらとそんなことを考えつつ景虎に電波を飛ばす。
「で、ですが……!」
景虎が食い下がる。
「なんぞまだ懸念があるのか。申してみよ」
「は、はい。北信濃、姫川上流の神城には異界との門がありまする。
武田が北信濃を押さえて城嶺の結界が」
「……どうにかなるのが恐ろしい」
「左様に御座います」
「それならば問題はない。神のことは神に任せよ。
ケイコ、お前がまず為すべきは越後の民の暮らしを守ることだ」
「ははぁっ」
長尾景虎は平伏。
そしてそれを見ていたお市は俺を睨んで言った。
「ひどい男だ……」
「な?
素人が暗闇で護摩行なんかやっていると変なものが寄って来るんだよ」
俺の返しにお市は溜息をつく。
そして八月二十六日、長尾景虎が軍を起こした。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
信長の秘書
たも吉
歴史・時代
右筆(ゆうひつ)。
それは、武家の秘書役を行う文官のことである。
文章の代筆が本来の職務であったが、時代が進むにつれて公文書や記録の作成などを行い、事務官僚としての役目を担うようになった。
この物語は、とある男が武家に右筆として仕官し、無自覚に主家を動かし、戦国乱世を生き抜く物語である。
などと格好つけてしまいましたが、実際はただのゆる~いお話です。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
麒麟児の夢
夢酔藤山
歴史・時代
南近江に生まれた少年の出来のよさ、一族は麒麟児と囃し将来を期待した。
その一族・蒲生氏。
六角氏のもとで過ごすなか、天下の流れを機敏に察知していた。やがて織田信長が台頭し、六角氏は逃亡、蒲生氏は信長に降伏する。人質として差し出された麒麟児こと蒲生鶴千代(のちの氏郷)のただならぬ才を見抜いた信長は、これを小姓とし元服させ娘婿とした。信長ほどの国際人はいない。その下で国際感覚を研ぎ澄ませていく氏郷。器量を磨き己の頭の中を理解する氏郷を信長は寵愛した。その壮大なる海の彼方への夢は、本能寺の謀叛で塵と消えた。
天下の後継者・豊臣秀吉は、もっとも信長に似ている氏郷の器量を恐れ、国替や無理を強いた。千利休を中心とした七哲は氏郷の味方となる。彼らは大半がキリシタンであり、氏郷も入信し世界を意識する。
やがて利休切腹、氏郷の容態も危ういものとなる。
氏郷は信長の夢を継げるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる