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015 長尾景虎、電波を受信する

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「景虎、景虎、ケイコよ……」

護摩行を行っていた長尾景虎は俺の毒電波を受信すると「はっ」と顔を上げた。
俺は勇者の威厳をたっぷりと出して景虎に電波送信で呼びかける。

「聞こえておるか、ケイコよ」

「はっ、聞こえております」

俺の脳内に響いて来る景虎の声は、俺を尊崇する毘沙門天と取り間違えたことによる畏怖で打ち震えていた。

「ケイコ、お前は何ゆえにいくさを為すのだ」

「それは義のために御座います」

「乱取りをするのが義か?」

「そ、それは……」

景虎が口ごもる。

「どうなのだ?」

「乱取りを許さねば家臣が従いませぬ。
 兵に言う事を聞かせること叶いませぬ
 坂東で乱取りをせねば越後の民は食い扶持に困りまする」

苦し気にうめく景虎を見て俺は告げた。

「それであれば乱取りを禁じよ」

「そ、そんな」

絶句する景虎に俺は続けて言った。

「反対する家臣にだけ乱取りを許してその者らに先駆けをさせよ」

「……!!」

俺の答えに景虎が色を失う。

「お前の敵に彼らを渡すのだ。
 さすればお前の敵が善いようにしてくれよう。
 それで家中の統制を取れ」

「毘沙門天様といえども、それはあまりにも非情に御座りまする」

景虎はしばし逡巡した後、重い口を開いた。

「では聞く。
 乱取りで得た民を奴婢として他国に売り渡すのは非情ではないのか?」

沈黙する景虎。

「尾張などの先進地域から新たな技を取り入れ、取れ高の底上げを図れ。
 さすれば石高も以前より増えよう。そのためにはいくさを已めねばならん。
 武田と和睦し、今川を通じて入り用となる人やモノや技を手に入れるのだ。長尾家百万石も夢ではないぞ」

俺の言葉で景虎は考え込んだが、これは歴史上の事実だから自信をもって俺は断言できた。
そもそも越後は雪深い土地で江戸時代以前には米どころなどではなかった。
そんな越後が米どころと呼ばれるようになったのは徳川幕藩体制となって尾張などの農業先進地域から進んだ栽培技術や土木技術が持ち込まれてから。
いくさをしている限りは越後の飛躍はない。

「毘沙門天様、お言葉ではございますが、武田と和を結ぶことはできませぬ」

「なぜだ」

俺は短く問うた。

「北信濃に武田が居ては春日山が脅かされまする」

「ならば春日山を捨てよ。春日山は西に寄り過ぎている。
 小千谷の北辺りがよかろう」

なんといっても越後の重心は長岡のあたりだからな。
つらつらとそんなことを考えつつ景虎に電波を飛ばす。

「で、ですが……!」

景虎が食い下がる。

「なんぞまだ懸念があるのか。申してみよ」

「は、はい。北信濃、姫川上流の神城には異界との門がありまする。
 武田が北信濃を押さえて城嶺の結界が」

「……どうにかなるのが恐ろしい」

「左様に御座います」

「それならば問題はない。神のことは神に任せよ。
 ケイコ、お前がまず為すべきは越後の民の暮らしを守ることだ」

「ははぁっ」

長尾景虎は平伏。
そしてそれを見ていたお市は俺を睨んで言った。

「ひどい男だ……」

「な?
 素人が暗闇で護摩行なんかやっていると変なものが寄って来るんだよ」

俺の返しにお市は溜息をつく。
そして八月二十六日、長尾景虎が軍を起こした。

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