異世界勇者の信長いじり~~ゾンビがあふれた世界になるのを防ぐために信長の足を引っ張ります

上梓あき

文字の大きさ
上 下
4 / 82

004 岡部元信の撤退を支援せよ

しおりを挟む



尾張へ駆け戻った俺は沓掛城に向かう。
沓掛城には駿河に向けて東走した浅井政敏に代わって元の城主である近藤景春が詰めていた。
取り急ぎとばかりに俺は書状を近藤景春に手渡す。
苦悩を浮かべる近藤景春に俺は声を掛けた。

「義元のおっさんからの伝言だ。生きていれば捲土重来の機会もあると」

「……そうしよう」

義元のおっさんからの伝言を聞いて近藤景春は決断を下した。
それを確認して俺は次へ向かう。
途中で織田の軍勢に幾度か遭遇したがぱっぱと退けて鳴海城までやってきた。
包囲下の城は織田軍の手によって蟻の這い出る隙間もないという感じだったがそこはそれ、難なく場内に忍び込んだ俺は守将の岡部元信に面会した。
岡部元信に書状を渡すと一読した元信は承知したとは言い、その場で軍議がはじまる。
元信から軍議に出てくれと頼まれた俺も話し合いに付き合うことにした。

「問題はどうやって囲みを抜けるかだな」

軍議は続いたが、結局のところ、話し合いのネックはそこだった。
史実だと義元のおっさんの首と引き換えに城を退去したわけだけど、おっさんは健在で曳馬城に居る。
信長の目算としては後詰め決戦に釣り出した義元のおっさんを桶狭間でハメ殺す予定だったのにそれが狂った。
それを考えるとこのまま追撃されずに遠江まで戻れる保障は何もない。

「……それならばこのまま籠城しては?」

なのでそういう意見も出てきてしまう。

「だが、このまま籠城を続けても先は見えている」

これもまたもっともな意見。

「どこかで一戦して叩いておかねばならん」

意見が出尽くした話し合いの最後に元信の大将が言った。
問題は、どうやるかだ。なので俺が名乗り出る。

「じゃあ、その役は俺にやらせてくれ。囲みぐらいは解いてやる」

「安倍殿がか?」

疑わしそうな目で俺を見る元信のおっさん。

「取り敢えず逃げ道を塞いでいる軍勢を吹き飛ばす。
 それで行けそうだったらそのまま曳馬城まで行ってくれ」

「あ、ああ……」

疑わし気な元信のおっさんが見ている前で俺はインベントリから装備を召喚する。

「なんとも怪しげな……」

一瞬で装着された俺の装備は全身に纏う。
ブラックドラゴンの鱗から作られた全身鎧はまさにダークナイト。
ヘルメットのバイザーを上げて俺は元信のおっさんに指示を出した。

「いけると思ったら直ぐに出てくれ。支援する」


「フィリー。聞こえるか」

俺は胸ポケットの中のフィリーに声を掛ける。
するとフィリーはもぞもぞとポケットから這い出して俺の胸に吸い付いた。

「いつでもいいよ。いーっぱい吸っても良いんだね?」

「しかたないさ。お前だけが頼りだ」

「うふふっ。タロウ、もっとわたしに頼ってもいいんだからね……ちゅっ」

言いながらフィリーが胸に口づけをした瞬間、俺の中から何かが吸い出されるのを感じる。
それはフィリーの体の中で魔力へと変換されて現象に干渉するのだ。
怪しげな黒騎士の登場に織田方の兵達は驚きあやしんでいる。
今が好機とばかりに俺は曳馬城の方角へ向けて爆裂魔法を撃つ。

スペシャルEXエクスプロージョン」

包囲に大穴が開いた。
それを見て元信のおっさんが軍勢を進発させる。
混乱する敵陣に向け適宜ファイアーボールを撃ち込んで俺は鳴海城からの撤退を支援した。

俺達は今、包囲を抜けつつある。
殿を勤めようとする若い武将に向かって俺は叫んだ。

「ここは俺が食い止める。お前らは先に行け」

そして俺はこの若武者が騎乗する馬の尻を叩いた。
走り出す馬の上から「すまない」との声が飛ぶ。
その声を聴きながら俺は押し寄せる織田の軍勢に一人向き合った。


「いかせるか!」

包囲軍が半壊するまでフィリーに爆裂魔法を撃ち続けさせる。
敵を無力化した頃になると、俺の胸と頭の芯にはじんじんとする甘い痺れのようなものが染みついてしまっていた。
……いつものことながら変な気分になりそうで困る。

そして、そんな俺を彼方から見つめる偉そうな男が一人。
そいつはすさまじいまでの怒気を籠めた瞳で俺を射るように睨んでいる。

――誰だこいつは?

そう思いつつも次の城に向かわねばならんのでさっさとお暇しよう。
黒騎士のまま走り出すと偉そうな男は大声で叫びだした。

「逃がすな! アレを追え!!」

背後から聞こえてくる男のヒステリックな叫び声に、俺は「まるで女の声だ」という場違いな印象を感じつつ足を速める。
あっという間に敵を引き離すと、背後には目もくれずに俺は大高城を目指した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

今川義元から無慈悲な要求をされた戸田康光。よくよく聞いてみると悪い話では無い。ならばこれを活かし、少しだけ歴史を動かして見せます。

俣彦
ファンタジー
栃木県宇都宮市にある旧家に眠る「門外不出」の巻物。 その冒頭に認められた文言。それは…… 「私は家康を尾張に売ってはいない。」 この巻物を手に取った少年に問い掛けて来たのは 500年前にのちの徳川家康を織田家に売り払った張本人。 戸田康光その人であった。 本編は第10話。 1546年 「今橋城明け渡し要求」 の場面から始まります。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

処理中です...