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第16話 美しい男娼と醜い男
しおりを挟む誰も知らないだろうが、美しい男娼と、醜い男は二卵性の双子だった。
貧しい母親は、全く似ていない双子があばら家で、産婆に出産を手伝われて、はじめて自分の赤子たちを目撃して、頭が弱い母親は混乱状態になっていたという。しばらく産婆や、母親の妹 叔母が代わりに赤子を育てていた。
産婆が珍しそうに赤子たちを見てふうと溜息をついて叔母に語りかけた。
「こんな似ていない双子は初めて見るね。不思議だね。生命の神秘だよ。 しかし父親はどこだい・・?」
「それが・・わからないのよ。姉さんは頭が弱いからあまり外は出ないで、家で服を作っていたり刺繍をしたりして
家の側にある畑仕事しかしなかったわ。姉さんもお世辞にも容姿は良くなかっただから不埒な真似をする男が現われるとは思わなかったけど・・。」
両親はとうに亡くなっていて、しっかりした聡明な妹は早々と、頭の弱い姉を助けるために、村一番の力強く頭もいい頼れる男に縋り結婚した。幸運にも、妹は容姿に恵まれていた。十分に男をそそる美貌と、柔らかな胸。甘い花の匂いをした妹は、娼婦のように男に媚び、肉体を提供し、奉仕し、尽くした。
これは等価交換だ。引き換えに自分と姉を守ってくれる。
夫は、十分に、妹の性的魅力と気立ての良さ。聡明なこの辺境の村にはそぐわない華やかな高嶺の花に惹かれ、魅了された。
夫は、妻を肉体的にも精神的にも愛した。 妻の望みを叶えた。
頭が弱い姉は少し疎ましかったが、村外れの家で、ひっそりと安全に暮らせるならいいとなるべく守ってやった。
実は、頭が弱い姉を犯したのは、妹の夫だ。
妹は、夫の寵愛が激しく幾夜も交わった。当たり前のように妹は夫の子を孕んだ。
孕んだ女にはあまり激しい性愛はできない。子どもが危険だからだ。それぐらいは夫も分かっていた。
憂さ晴らしに、高まった持て余した性欲を、密かに娼婦の宿へ行って、数人の娼婦とまぐわって性欲を満たした。
しかし、妻との高揚感に満ちた性交と比べるとどこか不満足だった。
妻は、夫が娼婦と交わっていると解っているが、妻は性欲を持たすことができないから代わりが必要と冷徹に考えていた。妻はどこか冷ややかな面があった。
夫の浮気には動しない豪胆なところがあった。
しかし、まさか酒に酔って、血迷ったのか、どこか姉だけはあって、妻の面影を宿す頭の弱い女を狙って、犯しまくるとは夢にも思わなかった。
だから真実が暴かれるのには時間がかかった。
時折、夫は酔いながら、頭の弱い女が怯えながら家の中を逃げ回るのを抑えて、力ずくで寝台へ運んだ。
頭が弱い姉は舌足らずで、震えながら妹の夫に懇願した。
「あ・・・あの。あんたは妹の男だ。あたしも守ってくれた。それぐらいはわかる・。でもこれはしちゃいけないんじゃ・・?」
姉は、なんだか無意識に妹への裏切りのように感じて怖がっていた。怖い。男も妹も。守ってくれるけど怖い。
男は、にやりと酒臭い息を吐きながら笑って言った。
「なんだ。妹が怖いのか?裏切りじゃないのかと・・?」
男は大丈夫だと子どもをあやすように姉を丸め込んだ。
「妹は俺が守っている。お前もな。だから俺は妹の身体も心も手に入れた。お前も守った。だからお前も俺に体を提供しろ。姉妹だけあって、体の具合はよく似ていい。お前の妹はよく孕む。俺が仕込んだせいだが、満足できない。
お前がその間俺を満たせ。」
「う・・うん。でも妹には言わないで・・。怖いから・・。」
怯えながらも男に従う姉を、はじめて男は愛らしいと思った。
妹とは違う少し痩せた体。でも十分に男をそそる体。男は姉の身体を露わにして、性器も妹どう違うか比べっこした。少し違う。妹は少し膨らんた性器をしていたが、姉は慎ましく貝の肉が中に入っていた。
「ほお・・。女の性器って同じ女でも違うんだな・・。」
じけじけと男は観察した。性器を執拗にみられて姉は泣きじゃくった。
泣きながら、妹の夫を受け入れた。どこか悲しくて辛かった。
姉は守ってくれた妹のためにも男の言う通り、卑猥な言葉も言われた通りオウム返しのように言った。
恥ずかしい体位もとらされて、何回も、男のいうとおり娼婦のようにまぐわった。
姉は妹にだけは知られたくなかった。
やがて孕んだことがわかると、頭が弱い姉はどうしたらわからず、膨らむまで放置していた。
「姉さん!?その腹は・・」
面倒をみに時々やってくる姉思いの妹が、姉の膨らんだ腹を見るのは時間がかからなかった。
「相手は?誰?」
妹に尋ねられても姉は答えられなかった。 怖くて黙っていた。妹には嫌われたくない。どうしたらいいんだろう。
彼女は混乱しながらも誤魔化していた。
そして生まれた赤子は二卵性の双子だ。奇妙な赤子たちを前に弱い母親は、パニック状態になりながら混乱していた。
姉は母親として到底赤子の面倒を見られる人ではなかった。
妹はそんな混乱している姉を見て溜息をつきながら甥となる赤子たちを育てようと決心した。
もう妹には子どもがいる。夫との子どもは3人いる。
幸いにも食糧と水は豊富にある。2人増えても大丈夫だろう。
そんな妹は甲斐甲斐しく、実子と同様に姉の子らも育てた。
真実がわかるのは、双子が長じて、顔がはっきりしてからだ。美しい子は妹によく似ていた。血のつながりを感じた。妹も赤毛の女だった。美しい子も鮮血のように真っ赤な髪をしていた。
嗚呼・・よく似ている。やはり甥だね。
そして醜い子の顔を見て、妹は誰が姉を犯したのかはっきりと分かった。
夫に・・あの男によく似ていたのだ。 男は残念ながら容貌は醜かった。
嗚呼・・あの夫は、姉にまで手を出したんだね・・。
妹はかつてない憤怒を感じた。これは裏切りだ。姉も弱いから従ったのだろう。しかしどこか割り切れない思いもあった。妹はだんだん姉の子らが疎ましくなった。
夫に問い詰めた。何故子どもがあんたによく似ているのか?と。
夫は正直に罪悪感もなく言った。
「お前が俺を満たしてくれないから代わりに姉を使った。姉は怖いから俺に従った。何回もまぐわった。当然だ。
俺がお前と頭が弱い姉を守ったんだ。だから俺は引き換えに、満たしてくれる女を求めた。」
夫は正しかった。だがそれは人としての女の心を踏み躙る行為でもあった。
「嫌だったか?姉の子はどこかにやろうか?」
妹は悔し気に俯きながら、甥たちを見ながら、姉への復讐のために夫に頼んだ。
「どこかにやってちょうだい。あんな子供たちなんか・・。」
妹は憎かった。許せなかった。夫は正しいけど、今まで守ってきた姉に子どもに裏切られた気分だった。
夫は頷いて、数日後、奴隷商人がやってきて、二卵性の双子たちを、はした金と引きかえに売った。
出産して弱っていった姉は寝台で、「子どもは?」とぽつりと妹に尋ねた。
妹は憎悪をこめて言った。
「もういないわ。裏切者。」
姉は子どものように泣いて泣いて、御免なさいと言い続けて衰弱して死んだ。
弱い姉にとって、妹の夫との姦淫。 望まぬ子の妊娠、出産。売られたことは到底受け入れられないことばかりだった。
息絶えた姉の顔を見ながら、妹は冷ややかにだか、どこか悲し気に顔を歪ませた。
夫はその事情を知って、「怖い女になったな。お前は。」と愛妻に呟いた。
妹は夫に鬼のような形相をかすかに見せた。
不幸な双子は、娼館に売られて、お互いを支えに、生き抜いた。妹によく似た美しい子は男娼になった。醜い男は変な性癖を楽しませる芸人になった。
彼らは、物好きな奴隷商人が、売られた事情を詳しく人の不幸は蜜の味といわんばかりに出生の秘密を語った。
そのせいで、彼らは弱い母親が醜い父親のせいで叔母に憎まれて死んだことを知った。
その時、美しい子は悲し気に目を伏せた。 醜い子は怒りのあまり赤黒い醜い形相をしていた。
理不尽なやるせない人生・・。弱い母親。醜い父親。憎んだ叔母。
双子は始めは悲嘆し、怒り、失望もしたが生きるしかなかった。
そのせいもあってか、仕事とはいえ、弱い女が、強制的に醜い男に嬲られるのは好きではなかった。
美しい男娼は、才能もあって貴族にも寵愛されるほどの高級男娼になった。だがいつも傍らには双子の醜い男が居た。
そんなある日、大貴族の要望があった。権力には逆らえない。しかしその貴族には良からぬ噂もあった。
男娼や娼婦など弱い女や男たちが消えていると・・
疑惑に満ちた貴族であった。中には「絶対あいつはわたしが好きだった男娼を殺している。」と確信していた貴族も居た。お気に入りを奪われた怒りと悲しみに満ちた貴族は、調べてほしいと密かに彼らに頼んだ。報酬も大金だった。
双子は承諾した。
その疑惑に満ちた貴族 ジェイムスの性格、気質、二度も結婚した妻アンへの振るまいで、嗚呼・・こいつは黒だと
絶対に殺していると双子は確信した。
しかし証拠がない。彼らは歯がゆい思いをした。
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しかしアンは、健気にも夫と精神的に戦っていた。
その様子を見ていた双子は、ますますアンに加担したくなった。
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双子は神にそう願わずにはいられなかった。
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